DREAM FACTORY 2015 春(県総体 2)
県総体 団体4連覇達成!
Episode 2 選手として=人間としての成長
今回の団体4連覇達成は、無敵の長岡商業のエースに真正面から戦いを挑んで勝ちきった、和田栞璃・田辺なつきペアの金星が全てだったと言っても過言ではないと思います。
地区大会ベスト16、ぎりぎりで県総体出場を果たした1,2年生ペアが、なぜ県総体の団体決勝、つまりは県内大会で一番大事な試合で、この3日間負けなしの県内最強ペアに勝ちきれたのか。
もちろん、3年吉藤を中心としてチームが一つになったことは大きな力として、彼女たちのプラスアルファのエネルギーになったことでしょう。ですが、それ以上に、2年生 和田栞璃の人間的な成長がこの大金星につながったと断言していいと思っています。
あの試合、1年田辺のサービスが安定していれば、④-0もありえたほど、和田の逃げないで向かっていく強さは際立っていました。ゲームカウント2-0のカウント2-0から、田辺の2連続ダブルフォルト。それで相手は息を吹き返して2-1。それでも安定したレシーブから次のレシーブゲームをキープして3-1。流れはこちらにあり、和田のテンポの速い配球で圧しながらも田辺のサーブが入らず、3-2。今までの和田なら、このストレス状況に耐えられずに無謀な戦術を選択して自ら崩れていくか、一つのミスから自分を見失っていくか、サーブレシーブが乱れ始めるか、そのいずれかで敗退していったと思います。でも今回は、折れなかった。
第6ゲームは手に汗握る攻防でした。⑪-9というほぼ3ゲーム分を費やしたせめぎ合いで、敵のゲームポイントは5回、それを4回は必死でしのぐ中、こちらのマッチポイントは3回ありました。中でも3回目のマッチポイントは決定的で、センターからの相手のシュートを田辺がポーチ、ドンピシャのタイミングでしたが、焦ったのか田辺はチップしてしまい、会場全体がため息と歓声に包まれました。その直後、敵がここぞとばかりにギアを入れて長い第6ゲームを奪取。試合はファイナルゲームへと入りました。
最後の1分間のベンチワーク、和田は極度の気持ちの高ぶりと激しい闘志がないまぜになっていて、涙があふれていました。もう一度、自信を持って堂々と逃げずに打ち合うことを再確認し、背中をたたいて送り出しました。田辺には吉藤がエネルギーを与えてくれています。ただし、押し気味に試合を進めながら、決定的チャンスを逃しており、ギアを入れてファイナルへ持ち込んだ敵方に流れはあります。案の定、ファイナル序盤は敵の攻撃が冴え、カウント3-1。しかもその3ポイント目は、相手のきれいなクロスポーチボレーが突き刺さり、ゲームの勢いは決定的に長商へと移ったかに見えました。
しかし、ここからゲームセットまで6本連続で和田・田辺はポイントを取りきるのです。
今回の勝利、それは、何よりも、数多く与えられたストレスの強くかかる状況、正面からの戦いをかわしたくなるストレス状況下において、和田が決して逃げなかったこと。そして経験の浅い田辺が、ダブルフォルトを連発しながらも決して小さく縮こまることなく、和田と共に敵にひるまず挑み続けたこと。それに尽きます。
チェコ出身の偉大なテニスコーチ、リチャード・ショーンボーンは、アスリートの自信について、アスリートの健全な自信は自己修養がその土台となると述べ、その自己修養として「つらい訓練の課題をこなすこと、ストレス状況を克服すること、戦術を守ること、スポーツに適した栄養をとること、毎日の日課を守ること、時間を守ること、自分自身に正直になること」を具体的な例として挙げています。
そして、この健全な自信が形成されていないと、「危険に対して臆病になったり、不安定な動きをしたり、試合中のストレス状況にも立ち向かえない」と強調しています。
和田は、これまでいつも、自分の技術の不安定さや敵前衛の動きやペアのミスや試合状況の変化等のストレスに対して、「臆病になったり、不安定な動きをしたり」、戦術を忘れたりして、自滅していました。
3週間前の地区大会で、ベスト16で敗退した試合後も、マッチポイントで自信を持って打ちきれなかった自分を棚に上げて、未熟な1年生ペアのミスの多さに言及したので、さすがに叱りました。
その考え方、その姿勢こそがおまえが勝ちきれない根本なのだ。
全国大会の決勝を戦ってもおかしくないくらいのストローク力とフィジカルの強さをおまえは持っている。
けれど、上手い選手と強い選手は違う。強い選手が必ず持っている、勝負所でその勝負を背負う、ある種の責任感が今のおまえには欠けている。
重圧のかかる場面において、敵のミスを期待したり、戦術を無視して手早く1点を欲しがったり、真正面からぶつかりあうのを避けたり…
もしくは自分自身が耐えられなくてミスを連発したり…
そういう弱さは、まず、自分がそのような弱さを抱えていることを自覚して、それを乗り越えようと強く思わない限り、決して克服できないのだよ。
勇気をもって、その弱さと向き合いなさい。
和田自身の人生においても、ここは大事なところなので、魂を込めて伝えたつもりです。
ただ、正直、今年は間に合わないかもしれないなとも思いました。
もう1年、しっかりと人間を一緒につくって、来年が勝負かな、と。
しかし、地区大会終了後、和田は新たな取り組みを始めました。
和田は寮生です。北越高校はふかふかの気持ちいい人工芝をグランド全面に張ってあります。朝、誰もいない緑のグラウンドは、朝日を浴びてとても美しく輝きます。
「自分づくりノート」、テニスノートとは別のノートをつくり、朝走りながら自分を見つめた内容を記録し始めたのです。
こうして迎えたH27県総体。
個人戦では、圧倒的に敵に打ち勝ちながら、大事なところで1年生ペアの田辺のミスが続き、ベスト16で終わってしまいます。
どうしても今年こそはインターハイへ行きたいと強く願っていた和田は、唇をかみしめて大粒の悔し涙を流していました。
けれど、もう1年生のミスを口にすることはありませんでした。
気持ちを切り替えて、仲間や後輩に精一杯の声援を送り続けていました。
僕は、団体戦、和田・田辺を使おうと、ここで決心します。
県総体最終日の朝の和田の「自分づくりノート」から。
もう一点。和田の成長は、未熟ですが才能豊かな1年生田辺なつきとペアを組んだことによってもたらされたようなものです。
人は、他者を成長させることによって、一番確かに成長を遂げると思います。
その1年田辺なつきのテニスノートから。
Episode 2 選手として=人間としての成長
今回の団体4連覇達成は、無敵の長岡商業のエースに真正面から戦いを挑んで勝ちきった、和田栞璃・田辺なつきペアの金星が全てだったと言っても過言ではないと思います。
地区大会ベスト16、ぎりぎりで県総体出場を果たした1,2年生ペアが、なぜ県総体の団体決勝、つまりは県内大会で一番大事な試合で、この3日間負けなしの県内最強ペアに勝ちきれたのか。
もちろん、3年吉藤を中心としてチームが一つになったことは大きな力として、彼女たちのプラスアルファのエネルギーになったことでしょう。ですが、それ以上に、2年生 和田栞璃の人間的な成長がこの大金星につながったと断言していいと思っています。
あの試合、1年田辺のサービスが安定していれば、④-0もありえたほど、和田の逃げないで向かっていく強さは際立っていました。ゲームカウント2-0のカウント2-0から、田辺の2連続ダブルフォルト。それで相手は息を吹き返して2-1。それでも安定したレシーブから次のレシーブゲームをキープして3-1。流れはこちらにあり、和田のテンポの速い配球で圧しながらも田辺のサーブが入らず、3-2。今までの和田なら、このストレス状況に耐えられずに無謀な戦術を選択して自ら崩れていくか、一つのミスから自分を見失っていくか、サーブレシーブが乱れ始めるか、そのいずれかで敗退していったと思います。でも今回は、折れなかった。
第6ゲームは手に汗握る攻防でした。⑪-9というほぼ3ゲーム分を費やしたせめぎ合いで、敵のゲームポイントは5回、それを4回は必死でしのぐ中、こちらのマッチポイントは3回ありました。中でも3回目のマッチポイントは決定的で、センターからの相手のシュートを田辺がポーチ、ドンピシャのタイミングでしたが、焦ったのか田辺はチップしてしまい、会場全体がため息と歓声に包まれました。その直後、敵がここぞとばかりにギアを入れて長い第6ゲームを奪取。試合はファイナルゲームへと入りました。
最後の1分間のベンチワーク、和田は極度の気持ちの高ぶりと激しい闘志がないまぜになっていて、涙があふれていました。もう一度、自信を持って堂々と逃げずに打ち合うことを再確認し、背中をたたいて送り出しました。田辺には吉藤がエネルギーを与えてくれています。ただし、押し気味に試合を進めながら、決定的チャンスを逃しており、ギアを入れてファイナルへ持ち込んだ敵方に流れはあります。案の定、ファイナル序盤は敵の攻撃が冴え、カウント3-1。しかもその3ポイント目は、相手のきれいなクロスポーチボレーが突き刺さり、ゲームの勢いは決定的に長商へと移ったかに見えました。
しかし、ここからゲームセットまで6本連続で和田・田辺はポイントを取りきるのです。
今回の勝利、それは、何よりも、数多く与えられたストレスの強くかかる状況、正面からの戦いをかわしたくなるストレス状況下において、和田が決して逃げなかったこと。そして経験の浅い田辺が、ダブルフォルトを連発しながらも決して小さく縮こまることなく、和田と共に敵にひるまず挑み続けたこと。それに尽きます。
チェコ出身の偉大なテニスコーチ、リチャード・ショーンボーンは、アスリートの自信について、アスリートの健全な自信は自己修養がその土台となると述べ、その自己修養として「つらい訓練の課題をこなすこと、ストレス状況を克服すること、戦術を守ること、スポーツに適した栄養をとること、毎日の日課を守ること、時間を守ること、自分自身に正直になること」を具体的な例として挙げています。
そして、この健全な自信が形成されていないと、「危険に対して臆病になったり、不安定な動きをしたり、試合中のストレス状況にも立ち向かえない」と強調しています。
和田は、これまでいつも、自分の技術の不安定さや敵前衛の動きやペアのミスや試合状況の変化等のストレスに対して、「臆病になったり、不安定な動きをしたり」、戦術を忘れたりして、自滅していました。
3週間前の地区大会で、ベスト16で敗退した試合後も、マッチポイントで自信を持って打ちきれなかった自分を棚に上げて、未熟な1年生ペアのミスの多さに言及したので、さすがに叱りました。
その考え方、その姿勢こそがおまえが勝ちきれない根本なのだ。
全国大会の決勝を戦ってもおかしくないくらいのストローク力とフィジカルの強さをおまえは持っている。
けれど、上手い選手と強い選手は違う。強い選手が必ず持っている、勝負所でその勝負を背負う、ある種の責任感が今のおまえには欠けている。
重圧のかかる場面において、敵のミスを期待したり、戦術を無視して手早く1点を欲しがったり、真正面からぶつかりあうのを避けたり…
もしくは自分自身が耐えられなくてミスを連発したり…
そういう弱さは、まず、自分がそのような弱さを抱えていることを自覚して、それを乗り越えようと強く思わない限り、決して克服できないのだよ。
勇気をもって、その弱さと向き合いなさい。
和田自身の人生においても、ここは大事なところなので、魂を込めて伝えたつもりです。
ただ、正直、今年は間に合わないかもしれないなとも思いました。
もう1年、しっかりと人間を一緒につくって、来年が勝負かな、と。
しかし、地区大会終了後、和田は新たな取り組みを始めました。
和田は寮生です。北越高校はふかふかの気持ちいい人工芝をグランド全面に張ってあります。朝、誰もいない緑のグラウンドは、朝日を浴びてとても美しく輝きます。
「自分づくりノート」、テニスノートとは別のノートをつくり、朝走りながら自分を見つめた内容を記録し始めたのです。
5月11日
今日から、朝走ることにした。
私は自分に甘い。
自分の意志で、確かな人間性を創るために、毎日やる。
今日は走りながら、去年の夏を思い出していた。IH直前合宿でストロークが壊れた。そして千葉IHでは、皇子先輩と選手交代した。結局、千葉IHに出ていないのは同学年で私だけ。
大事な局面が近づくと崩れていく自分。今までずっとそうだった。
私は自分を変えたい。
必ず続ける。今まで自分に負け続けていることを忘れない。
弱い自分を乗り越えるために。
県総体まであと18日!
5月12日
今日は、北信越選抜大会にインフルエンザで出ることすらできなかった自分を振り返った。
あの日の朝のことはよく覚えている。これから戦いに出発だ、という日の朝に発熱した。
自分は頑張るべきところで、いつも踏ん張れない。それがここでも現れたということか。
自分の乗り越えるべき課題や弱さと毎日向き合ってそれを乗り越えていく、そんな毎日を過ごしていたら変わっていたのだろうか…。
結局、チームは県選抜では勝った村上に決定戦で敗れ、全国選抜を逃した。
だが、そのことを月日が経っても忘れずにリベンジを誓って過ごす、そういう責任が、あの日から今までの自分にはなかった。
恵理先輩(卒業生 田辺恵理)のように、1年生の新潟IHの時の負けをずっと忘れずに3年間取り組んできた、という強い思いがなかった。
思いが長続きしない。それが自分だ。
もうこんな失敗はしたくない。それをしないための日々だ。
全力で毎日を生きる。
県総体まであと17日!
5月14日
今日は、地区大会の個人戦の負けについて考えながら走った。
この負けは、今ならわかる。完全に自分の人間性の負けだ。私はまた自分に負けた。
自分の方がストローク力はあった。でも大事なところで振り切れずに負けた。
北越らしさ、和田栞璃らしさが発揮できなかった。
苦しみながらも迎えたゲームカウント3-2のカウント3-1で、私の連続ミス。
でも私は、試合後の反省でなつき(ペアの1年 田辺なつき)のミスの多さをまず先生に言ってしまった。
先生に、それが強くならない根本の原因なんだって強く伝えられて、やっとわかった。
私は、逃げているんだ。
まだ1年生だ、ミスが多いのは当たり前だ。それなのに、まずそのことを口に出す自分。
逃げる自分、自分の弱さと向き合わない自分…。
こうやって、走りながら、今度こそ、強い自分を作りたい。
地区大会の負け、この負けは忘れてはいけない。
県総体まで、あと15日!
5月15日
なつきと組んで、しばらく経つ。
最初、気を遣いすぎて、ちゃんと伝えることができず、どうしても優しくなっていた。
でも、今は違う。だんだん、なつきに本気になれるようになった。ペアとして本気、自分も本気。
だから、なつきのことなのに、何かができないと、何でだ?って、本気で悩む。そして、できると嬉しくて仕方ない。
やるべきことをやらないと、どうして行動しないのかって、悔しくなる。
最近はペアで話すことも多くなってきた。でも、なつきはまだ完全に私に心を開いているわけじゃない。
時々、伝えすぎて、なつき大丈夫かなって、心配にもなる。
今は、ほぼ一方的に私からなつきに言っているが、なつきからも言ってくれると嬉しいな。
二人でちゃんと話す時間をつくるのもいいなって思う。
なつきとの関係も本気でいたい。
ここからも逃げない!
県総体まで、あと14日!
こうして迎えたH27県総体。
個人戦では、圧倒的に敵に打ち勝ちながら、大事なところで1年生ペアの田辺のミスが続き、ベスト16で終わってしまいます。
どうしても今年こそはインターハイへ行きたいと強く願っていた和田は、唇をかみしめて大粒の悔し涙を流していました。
けれど、もう1年生のミスを口にすることはありませんでした。
気持ちを切り替えて、仲間や後輩に精一杯の声援を送り続けていました。
僕は、団体戦、和田・田辺を使おうと、ここで決心します。
県総体最終日の朝の和田の「自分づくりノート」から。
5月31日
朝、宿舎なので走ることはないけど、いつも通りに朝早く目が覚めてしまう。癖になっているんだな。
そして、朝、このノートを書くと落ち着く。
昨日のミーティングで、チームの心は一つになった。
皇子先輩を今日で引退させるわけにはいかない。
私は自信を持って戦う。
巻! 長商! 負けない。
苦しい場面は絶対にある。その時は、毎朝自分と向き合ってきたこの時間を思い出せ!
必ず優勝する!
行ってきます。
もう一点。和田の成長は、未熟ですが才能豊かな1年生田辺なつきとペアを組んだことによってもたらされたようなものです。
人は、他者を成長させることによって、一番確かに成長を遂げると思います。
その1年田辺なつきのテニスノートから。
「誰かのために」プレーすることは、とても大きなエネルギーを生むんだって思った。
決勝戦、長岡商業。個人戦の結果から見ると圧倒的に長商有利。でも、絶対このチームでIH行きたいって強く思った。
入場前の整列で、私たちの相手は個人戦優勝ペアだとわかった。「絶対気持ちで向かっていく。大丈夫!」って自分に言い聞かせた。
一つひとつのポイントでのベンチやサポーターの応援、ムード、すごかった。すごくエネルギーになった。
でも、やっぱり大事なところでダブルフォルトを繰り返す自分…。
チェンジサイズでベンチに戻った時、皇子先輩がすぐに自分の所に来てくれた。
「お前ならできるぞ、自信持て!」って力強く言ってくれた。
よっしゃ、やってやる!
皇子先輩のために絶対に勝ってやる!
言葉には出さなかったけれど、強く思った。
ファイナルゲーム。
1-3で長商がリード。そして、自分のサーブ。
でも、なんだか負ける気がしなかった。
ギリギリの場面はたくさんあった。
その場面で思ったこと。
コートに立って見えるみんなの顔…
コートに立って聞こえるみんなの応援…
「チーム吉藤」やるしかない!
やっと迎えたファイナル6-3のマッチポイント。
ふとベンチの後ろのスタンドが目に入った。
他の高校の人たちが応援してくれていた。
手を握っていた…
そして、ポジションに立った時、ちょうど皇子先輩と目が合った。
ビッグスマイルを送ってくれた。
「チーム吉藤!」ここで終わらせるもんか…
心の底からそう思った。
(1年 田辺なつき)