Dream Factory 2019 新春
2年連続で全国選抜へ
北信越選抜大会 鍵となった石川戦で見せた1年生の成長
前回のDream Factory 2018冬で、2年生の成長ドラマを紹介しましたが、実はその陰で1年生は自信を失っていました。期待していた1年生ペア鈴木・佐藤は、プレッシャーからラケットが振れず、イージーミスを繰り返し自滅していきました。翌日の個人戦でも、今度は相手にではなく自分に負けて戦いから降りてしまいました。鈴木はその後、ショックでラケットも握れない状態。佐藤も落ち込んで練習になりません。
北越でテニスをやるというのは、新潟県では特別な意味があるのでしょう。県7連覇。インターハイ3年連続入賞。県内の他の学校の目標が「打倒北越」であり、すべて向かってこられる立場の中で戦わなければなりません。1年生の脆弱なハートでは、まだ荷が重かったようです。ただ、僕はこういう「壁にぶち当たる」経験はとても大切だと思っています。人は順風満帆で強くなんかなれません。小説や漫画の主人公だって、ゲームの主人公だって、数々の試練を通して成長し、経験値を上げ、たくましく強く優しくなっていくものです。それが人生の王道であり、競技テニスだって同じです。楽して手に入るものなど、何物であろうとロクなものではありません。成虫になるためには「蛹(さなぎ)期」が必要。「蛹期」とは「人生観、人間観、テニス観の変容期間」。その期間中はこれまでの自分を一旦壊すことになるので「いも虫」的には苦しいし逃避したいもの。でも、だからこそ意味がある。これは僕の確固たる「成長観」です。
鈴木も佐藤も、初めての「蛹期」を経て、少したくましくなりました。
初戦の福井商業戦では、国体強化で強くなった福井県選手に一方的に攻められて敗退しました(対戦は②-1で勝利)が、勝負となる次の金沢学院戦で、この1年生ペアがファイナルの競り合いを制して勝ち切ったのです。しかも2面同時進行で行われていた隣のコートでエース水澤が(ペア今井)敗れるというチームとして絶体絶命の状況下で、ファイナルゲームがスタート。一進一退でポイント5-5の後、つかんだマッチポイントで、鈴木が逆クロスに渾身のトップストローク、上がってきたミドルのロブを佐藤がジャンピングスマッシュで決めるという劇的な勝利でした。
全勝対決で臨んだ高岡西戦ではチームも敗れましたが、2週間前の「あの二人」からは想像もできない変身により、北信越2位で全国選抜の切符をつかみました。二人は長野商業戦でも安定した戦いで勝利し、この北信越で2勝2敗、立派な戦いぶりでした。この陰には、技術的も精神的にも諦めずに励まし支え続けてくれた3年生、そして同じ1年生の岩田の存在がありました。岩田は「チーム北越」に憧れて広島から入学・入部してきた子です。今はプレーイングマネージャーとして日本一のチーム作りに貢献してくれています。県選抜の後、早めに帰省させたのですが、鈴木と佐藤が心折れてしまい、岩田は広島から熱いメッセージを二人に送りつづけます。いろんな人の励ましやエネルギーが二人の再生、復活、進化を促しました。そして今回の姿です。ドラマですね。
「あらゆることから力を集めて光を放て!」 北越の部旗に書いてある部訓です。鈴木、佐藤、この意味、ちょっとだけ深められたかな。
佐藤のテニスノートから。
優勝はできなかったけど、確かにつかんだものがある。
私は、今日、県選抜のあの情け無い自分を超えられた。私は初めて「自分を超える」ことの意味を知った。
県選抜の後、唯香(鈴木)が心折れた。私も自分から逃げ出したくなった。それでも栞(1年生岩田)が帰省先からいっぱい心を伝えてくれて踏ん張れた。そして唯香も戻ってきてくれた。
今日の唯香は今までと全く違った。目が違う。ミスしても落ちることがない。いつも笑っている。前衛も気にしてない。だから、ポーチでポイントを取られても、その後ボールを入れにいったりってことがない。
夕ごはんの時に唯香も言っていた。「心が折れて自分が逃げていた時に、こんな自分でも何人もの人が自分を見捨てずに声をかけてくれた、あれから自分は人の言葉を心で感じられるようになったと思う。」だから、今日の唯香は強打に固執しないで、ラリーで展開を作ってくれた。
金沢学院戦、隣のコートで奈央先輩達が負けた。私達が負けたら全国が遠くなる。そんな時のセカンドサーブ、すごい緊張だった。だけど、心の中で木村先輩の顔を思い浮かべた。そうすると絶対に入る。木村先輩の存在が私に力をくれた。スマッシュもあの日のようには崩れていかなかった。「木村先輩に見せたい、届けたい。」そんな思いで今日一日戦えた。「思いの強さ」ってこういうことなんだ。
木村先輩は、何もわからない前衛初心者の私に、一から基本プレーを文字通り手取り足取り教えてくれて、私のたくさんの問題を一緒に悩んでくれた。
木村先輩、先輩は今日ずっと一緒に戦ってくれました。心強かったです。
私は最高のコーチに出会えました。ありがとうございました。でも、まだまだ問題がたくさんあります。全国選抜に向けて、今よりもポイントを取れる前衛になってチームに貢献できるようになります。
私は、強くなりたい! またよろしくお願いします!
そして、先生。初戦のクソ試合の後、金沢学院戦でも私を使ってくれてありがとうございました。あの試合が私に自信をつけさせてくれました。
今日の2年生の先輩たちは何度も何度も苦しい場面を踏ん張っていた。宿では奈央先輩と冨樫先輩が同じ部屋だけど、戻ってきてから本気で悔しがっていた。笑っていたけど、心では本当に悔しそうだった。それだけ強い思いで戦っているんだって感じた。
私も、もうすぐ上級生になる。今みたいに先輩が苦しいことを引き受けて、私たちはのびのびとやっていい、もうそんなもんじゃなくなる。私たちが、今度は責任を引き受けよう。そして1年生がのびのびとやれるように。私たちが北越の「思い」を引き継いで表現しよう。(1年 佐藤莉穏)
◎個人戦
優 勝 水澤・冨樫
ベスト8 田中・今井
翌日の個人戦(ダブルス)では、水澤・冨樫ペアが富山県、石川県の1年生県チャンピオンを激戦の末に退けて、2年ぶりに優勝カップを北越に奪還しました。今年の北信越女子は多くの県で1年生の力が秀でており、5県の中で2年生の県優勝ペアは新潟県 水澤・冨樫だけでした。思いきりぶつかってくるフレッシュな1年生ペアは才能豊かで、よく鍛えられており、準決勝も決勝も厳しい戦いになりました。
決勝では先にマッチポイントを何度も握られ、こちらのミスも出る中で、それでも二人は相手の向かってくる気持ちにも、不利な状況にも、アウエー的な環境にも、決してひるむことなく、自らの
強さを表現しつづけました。決勝戦の逆転勝利は、どんな感動的な映画よりも深い感動と勇気を見ていた人に与えた試合だったと思います。それを引き出した金沢学院高校の1年生エースのテニスも本当に素晴らしいものでした。その試合のベンチ(SS席)で感動的な試合を一緒に戦いながら、「僕はこの子たちに生かされているんだな。こんな劇的なドラマの中に重要な登場人物として命を与えられているんだな。」という思いが何度も湧いてきて、深く感じ入りました。
ありがとう。