Dream Factory 2020 盛夏(1)
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怪我のキャプテンと「心は一つ」
夏の新潟県大会 団体9連覇!
8月8日(土)in 新潟市庭球場
準々決勝 北越 ②-0 長岡
準決勝 北越 ②-0 村上
決勝 北越 ②-1 巻
5日前の重症でした。
靭帯付着部剥離骨折。ギブスで固めて松葉杖を引いてきた鈴木を見た時、これは無理だと思いました。鈴木は最後まで出場の望みを捨てずにいましたが、大会前日にギブスを外してコートに立ったものの、ランニングさえできませんでした。びっこを引きながら続けていたジョグをやめ、激痛が走り言うことをきかない足をみつめ、腰に手をやり、空をみつめ、また足をみつめて、それでもまた走り出そうとする鈴木にかける言葉などありません。
しばらくして、自分で私の所へやってきました。
軽く深呼吸をして、「先生、明日、無理です。すみません…」
そう絞り出すように口にすると、大粒の涙があふれて止まりません。
チームを集めました。
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(キャプテン 鈴木唯香のノートから)
今日、自分が出ないことを決めた。
ギブスをつけた1週間、前日に外してテーピングで固めれば試合にも出られるという医者の言葉も信じたかったし、自分自身何が何でも絶対に大会には出ると周りにも言っていた。
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でも、ギブスを外してコートに立ったものの、ジョグから始めてみたけど走れない。
泣けてきた…
悔しくて悔しくて、それでも自分は北越のキャプテンとしてここにいる。
戦えないキャプテンが、目指してきた戦いの前日に何が言えるんだ…
自分を整理できなかった。
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でも、先生がみんなを集めて伝えてくれた。
「一番申し訳ない気持ちでいっぱいなのはキャプテンだ。明日の戦いのために一番チームを思って生きてきたのがキャプテンだ。そのキャプテンが直前の怪我で戦えなくなった。それでチームは支えを失ってガタガタになるのか。それとも逆にキャプテンの強い思いと一緒に一致団結出来るチームなのか。」
そして、栞も必死にみんなに訴えてくれた。
私の分まで戦おうって。
その話を聞くみんなの目を見ていたら、特に団体メンバーは心で受け止めてくれたって信じれた。
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明日の戦いに向かって今も時間は刻々と進んでいる。自分の感情に流されている暇はない。
最後の練習時間、私の代わりに戦ってくれる2年生の、星野、高橋、高野にボールを出した。「これ、明日使えよ!」って思いながら、ボールを出し続けた。
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莉穏、最後の最後に一緒に戦えなくて本当にごめんなさい。
3年間、二人で数えきれないほど失敗ばかりしてきて、数えきれないほどぶつかりあってきたね。明日は高校テニス人生ラストの日だから、莉穏にはその全てを最後の舞台でぶつけてきてほしい。
私も栞も一緒に戦うから。
厳しい場面でも、一人一人がその厳しさに立ち向かっていく北越の戦いを全員がやり切って、9連覇を果たしてほしい…
みんな、ごめんね。
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(3年 佐藤莉穏の前日のノートから)
いよいよ明日になった。
唯香、やっぱりダメだった。
みんなの前で必死に涙をこらえて話す姿、心が痛かった。
でも唯香が一番辛いはずだ。先生も言っていたけど、人生って何が起こるかわからない。
「何で?」っていう不運や不幸に見舞われた時、嘆き悲しむのは当然だけど、大切なのは、そこから立ち上がって前へ進むこと。チームは試されている。
先生は私たちに問いかけた。
キャプテンでエースが欠場する中でもチームは誇りを持って戦い続けられるか?
これは何より、私に対する問いだ。
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コロナでインターハイが中止になってからも、唯香はこのチームにエネルギーを与えてくれたよ。
戦うみんなの心に唯香はいる。栞もいる。だから、私が先頭に立ってチームの心を引き出してみせる。団体で強い北越を表現してみせる。
3年間、本当にいろいろあった。
たくさんの人の力を借りて強くなってきた。
そして明日が最後の戦いだ。
私には、先輩たち、先生、チーム、みんな後ろについている。
唯香と栞の分まで、私がコートで3年間の全てを表現する!
優勝旗を二人へ! 二人とも、待っていてね。
そして見ていてね。これが私たちの北越での3年間だよ!
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9連覇 達成!
本当に、ただ嬉しくて、たくさんの方への感謝で一杯です。
唯香と栞に優勝旗を渡すことができて本当に良かった。
今日の1日を改めて振り返ってみる。
初戦から、私も含めて少し固かったが、徐々に本来の私たちを取り戻していった。
そして迎えた準決勝、村上高校戦。
オーダーは自分たちで決めた。
もちろん、私が絶対に当たりたかったのは、秋冬の個人チャンピオン日野・伊藤組。
整列したら正面だった。バッチリだ。あっちも笑ってた。
さあ、いよいよ試合開始。
このペアにリベンジするために練習してきた。
秋も冬も1ゲームさえ取ることができずに完敗してきた相手だ。冬の北信越個人戦、向こうは準優勝でこっちは初戦負けだ。
ベンチで唯香の眼をグッと見て、ハイタッチしてコートに出た。
1球1球、唯香と一緒に戦った。
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1本1本に思いを込めて、自分のすべてを出し切った。
その思いをペアの星野も感じてくれて自己ベストで戦ってくれた。
そして④-0勝利!
やっと、
やっと、
リベンジしたね、唯香!
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さあ、ついに決勝戦。
やはり巻高校が上がってきた。
本当は敵の1年生エース石山たちとやりたかったけど外れてしまった。
3面同時展開。先に2勝するだけ。
私がまず1勝して、後を後輩に託したい。
私は真ん中のコートで戦っていた。両隣りのコートで後輩たちが闘志を前面に出して戦っている。
2年生ペアの高野・高橋も、敵のエース、ユースアジアチャンピオンに食らいついている。あの高橋が気魄を込めて向かっていってる。
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1年生ペアの入澤・本間もベンチに向かって大きくガッツポーズしている。数か月前には想像もできなかった姿だ。唯香と二人で入澤と本間を指導してきた。感覚だけでテニスをやらないこと。教わったことを丁寧に学び実践すること。そしてコート上では自己表現すること。その一つ一つがいろんな人への感謝の現れになるのだということ。
ベンチでも唯香が、栞が、後輩たちが、チーム応援できない中でも、精一杯の思いを重ねてコートへ力を送ってくれている。
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私は、表現のしようのない充実感と感謝に包まれて試合をしていた。
そして1ゲームも渡さず勝利した。
入澤・本間も勝利して優勝が決まった!
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どのチームよりも強い思いがあること。どのチームよりも信じ切れる力があること。
それが全てだと思っている。
2年生と1年生には本当に感謝している。キャプテンが直前の怪我で戦えなくなった逆境に負けず、私たちを信じて、私たちの思いを感じて北越らしく戦ってくれた。
私はこのチームを誇りに思います。
コロナで叶わなかった全国選抜、インターハイ。
先生、そんな中でも、私は1年前の宮崎インターハイのリベンジはできたでしょうか?
コロナでインターハイが中止と決まっても、先生のことを信じて最後までやり切って本当に良かったです。
今回、こうして大会を開催してくれた高体連の先生方、何とか私たち3年生の表現の場を作っていただいた多くの方々、ありがとうございました。
津野先生、朋恵先生、柳先生。
3年間、たくさん指導していただきました。
悔しくて、情けなくて何度も何度も泣きました。
でも今になれば全てがわかります。その一つ一つがかけがえのない大切な成長の場だということが。
北越って本当に素晴らしい世界でした。
先生たちがここまで寄り添って一緒に歩んでくれる、そして大きな夢と人としての成長が得られる。
日本一のスキル、フィジカル、タクティクス、そして「人」を教えていただきました。
「日本一」の舞台に立つことはできませんでしたが、いつか必ず後輩たちがやってくれると信じています。そのために、これからは「恩送り」として、私が受けた恩を倍にして後輩に返します。
先生、悔いは何もありません。
私はここへ来れて本当に幸せでした。応援してくれた両親にも感謝しています。
私をここまで育ててくださってありがとうございました。
(3年 佐藤莉穏 8月8日)