Dream Factory 2021 冬
倒れて 立ち上がって 全国選抜へ!
令和3年1月16日 北信越選抜大会 inこまつドーム
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🔶各県1位リーグ
北越 1-② 高岡・高岡西(富山)
北越 0-③ 能登(石川)
北越 ③ー0 長野俊英(長野)
北越 ②ー1 福井商業(福井)
2勝2敗 得失ゲーム差で2位
(詳細は石川県ソフトテニス連盟のホームページに掲載されています)
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勝負と踏んだ1試合目の高岡・高岡西戦をトリプルマッチから落とした後、地元IHを控えて戦力充実の能登に力負け。5チームリーグで2敗。優勝どころか、全国選抜出場も遠のいていきます。唇を噛みしめる選手たちを集めて告げました。
終わったことは変えられない。一方で最悪の結果を予想してネガティブになっても何の意味はない。確かに現実は厳しい。だが全国選抜へのチャンスがなくなったわけではない。ここで発揮する力は何だ?
「レジリエンス!」
そうだ。まずは今、目の前の試合に全力を尽くすこと。崖っぷちでもネガティブにならず、ひたむきに頑張り続けること。「このチームならチャンスあげてもいいな」って女神が思ったら扉が開くかもしれないじゃないか!
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そして、長野戦で③-0勝利。
その後、リーグ全体の星取りが動いて、最後の福井戦で③-0勝利か、②-1でも得失ゲームで大きくゲインすれば2位~3位が見えるという状況になりました。ただし負ければ4位確定です。
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ある意味、去年と同じ。最終戦に全国選抜出場かこのチーム終了かがかかるという運命の戦いになりました。
さあ、ずっと自立できなかった2年生の成長が試される場面です。
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昨年もこの舞台に立っている高橋、星野、鷲尾。この三人のアスリート度の成熟が全国切符獲得の成否を握るというドラマです。
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このドラマで、存在感を示してくれたのが星野結衣でした。
星野は高いポテンシャルがありながら、ネガティブな感情に飲み込まれて自滅していく試合を繰り返してきました。昨年のこの北信越選抜の戦いや夏の代替大会でのパフォーマンスは素晴らしいものがありましたが、いずれも一つ上の先輩、佐藤がうまく星野の感情をコントロールしてベストを引き出した結果です。佐藤が引退した後、星野が最後までメンタルを統御してベストを出し切った試合はありません。
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高橋と組んで第3シードで臨んだ冬の県インドアも、ちょっとしたミスや相手のカットサーブに手こずったことから、ネガティブの渦に飲み込まれて1ゲームも取れずに自己崩壊。北信越の出場権すら手に入れられませんでした。
その後、ペアを組み替えて1年生と組ませることで、自立を促してきました。
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「自分のことしか考えないから、自分に飲み込まれていく」このパラドックスに気づくことから、星野は再出発すべきだと考えたからです。
弱さゆえに負けていく。それが技術であれフィジカルであれメンタルであれ、勝負とは単純です。弱いから負ける。だから自分を強くしたい。強くなりたい。それはそうなのですが…。
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「自分が、自分を、自分は、自分に・・・」そうやって主語、目的語に自分を置いて、自分にこだわっている限り、永遠の自己円環を抜け出すことはできないと思います。
「自分が強くなりたかったら、後輩を強くしろ」よくそう言うのですが、自己円環の中で周回している者に、トラックの外は「風景」であり、自分が強くなることと直接関係はない世界です。(実は関係大ありなのですが)だから、仲間や後輩よりも自分。つまり自分のトラック走路しか見えません。でもそれこそが自分で限界を作っている。そのことの意味を深く了解するためには、深い「気づき」の経験が必要です。
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星野はまだまだ自立から程遠い1年生の三浦と組むことによって、必然的に主語・目的語を「自分」から「三浦」に変更せざるを得なくなりました。当然、自分の練習時間は少なくなりましたが、不思議なもので、そういう日々を積み重ねることで、星野の内部で何かが変わっていきました。それは表情、言葉、空気、あらゆるものから感じ取れるものです。
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人って、やっぱり関係性によって成長していく生物なのだとつくづく思います。
星野の3日前のノートに遡ってみます。
練習後のミーティングで、先生は「この大会で、それぞれが試される場面が必ず来る」とおっしゃった。私はメンタル! 私がいくつもの大会で負けてきたのは、ここ。いつもいつも敵ではなく自分に負けてきた。この大会は後輩と組んで団体戦に出る。なおさら責任は重い。そういう条件で私は試される。だけど、神様は超えられない人には試練を与えないという。
私は超えたい。だから、心も身体も準備を怠らない。
去年のこの大会、莉穏先輩が私のベストを引き出してくれた。だから三浦のベストを引き出すことは莉穏先輩への恩返しだ。どんなに苦しい状況でも私は私に負けない。へこたれない!
(1月13日)
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今日は練習中、気持ちにすごく波があった。ボレーで少し上手くいかなくなったことで急激に気持ちが落ちていった。自分でもびっくりする位の波で。でも、同時にその波を跳ね返そうとしている自分もいた。自分の顔が暗くなっていったのもわかった。だけど跳ね返せない。波に飲まれそうになる…
でも、
「この表情のままでやっていて何になる??」と思えた。
三浦が見てる。三浦はうまくいかない部分があっても普通に頑張ってるじゃん!
「私、こんなんでどうする!」って、喝を入れる自分も出てきた。
そして、気づくと元気に声を出して動きも変わっている自分がいた。
これがレジリエンスか…
でも、もっとすぐに開き直れるようにならなくちゃ!
ある意味、今日のはポジティブに考えれば「大会前の予行演習」だったんだと思う。大会当日、何か嫌だなって不安な感じからネガティブになっていくのでなく、その嫌な感じに気づいたら、どう行動するか、どう選択するか。その「演習」を神様が私にやらせてくれた。
ありがとうございます!!
(1月14日)
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この14日のノートを見て、僕は深く感動しました。
ここには客観的な自己理解と、表面的でない自己変容のためのメンタリティ(考え方)の進化が現れているからです。
ソクラテスは「無知の知」と言いました。
自分のことを自分はよく知らなかったのだと知ること。それが「知」の第一歩だと。
古代ギリシャの哲学者の洞察は、倫理の教科書に載るためにあるのではなく、いつの時代になっても、若者の成長を促すために語り継がれているんですね。
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『ベイビーステップ』というマンガを読んだことがありますか?
作者の勝木さんは、綿密な取材に基づいてアスリートとしての成長のために必要な技術、フィジカル、メンタル、考え方、向き合い方を描いています。
このマンガから、向上のヒントを得ようという目的で書かれた文章にとても興味深く、今回の星野の成長と重なる記述があったので紹介します。
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メンタル面での「気づき」は、その瞬間から改善に取りかかることができる
気づきを「心技体」の3要素に分けて考えてみましょう。
技術面と体力面に関して試合中に「気づき」が得られたら、選手は練習やトレーニングで課題を克服しようとつとめます。例えば、ラリーについていくだけのスピード、あるいはスタミナがなければ、それらをトレーニングで補おうとします。
一方、メンタル面は、即効性があるというか、気づいたらその場ですぐに実行できる要素でしょう。プレーヤー特有の(あるいは自分自身の)心の動きをよく理解した上で、試合の中で何か「気づき」があれば、すぐに「やるべきこと」を実行する機会があるはずです。
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皆さんにも身近な例では「感情をコントロールする」ということが挙げられます。荒谷君(『ベイビーステップ』の登場人物)は感情の起伏が激しいタイプですが、「怒りは空に放つんだ」という名言を残しています。カレは感情的になることが試合にマイナスになると気づき、それをコントロールしようと常に試みています。技術的、体力的な改善は時間が必要ですが、このように、メンタル面は「気づき」の瞬間から徐々に改善を図ることが可能です。
『ベイビーステップ』は気づきと成長の物語と言えます。登場人物は作中、テニスプレーヤーとして成長していきますが、その都度、彼らの「気づき」の場面が描かれます。丸尾(主人公 エーちゃん)の場合は、挙げていけばきりがないほど常に「気づき」の連続。ジュニア国内トップの清水亜希は、コーチである母親から自立することの必要性に「気づく」。宮川卓也はエーちゃんとの試合の中で「油断しないで確実に勝とうとしたこと、それ自体が油断だった」と思い知る。「気づき」から課題を得た選手たちは、克服しようと努力、成長していきます。そうしたエピソードが多く描かれるのは、テニスの競技特性として「気づき」の場面が(成長やスキルアップには)非常に重要だからなのかもしれません。
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荒谷君はエーちゃんとの戦いで、目の前の相手に向かい合うこと、感情をコントロールすることの大切さに気づき、それをきっかけにプレーがよくなります。彼はもともと悔しさの塊のような選手で、それが成長を妨げていたのだと思います。しかし、エーちゃんとの試合を通じてその部分を解き放つことができたようです。これはとても興味深い描写です。こうして、いろいろな関係の中で、「勝ちたい」という欲求と戦いながら、試合の中で彼らのメンタリティが成長していくのです。
(元Under18テニスナショナルコーチ 笠原康樹さんの文章より)
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荒谷君はエーちゃんとの戦いで「気づき」を得た。星野は三浦との関わりの中で「気づき」を得た。一方は敵であり、他方はペアですが、両者とも「他者」との関わりの中で自己成長していくのです。他者と関わるとなぜ自己了解が深まるのか、それは「自己円環」から抜けて、自分自身を外から見る目を獲得するからでしょう。他者との関係の中で自分を知ることができる、不思議なパラドックスですが、ここに「人間」の人間たる所以があるように思います。
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今日は大会前日の会場練習だった。
小松ドームに入った瞬間、去年の光景がよみがえってきた。
本部に並んでいる優勝旗と代表旗。
あの優勝旗を私たちは去年獲得したんだって思うと、すごく重い物を感じた。
奇跡的と言われた去年の優勝。でも、今年は「本物の力」で獲得したい。
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私は、県インドアの自滅から、確実に少しずつではあるけど、自分に負けない人間に近づいていると思う。まだまだだけど、そう言える自信もある。それは何より、後輩の三浦と組んだことが大きかった。もう自分にどっぷり浸かっている余裕なんてない。三浦は手がかかる。一つのことをわからせるにもやらせるにも時間がかかる。こっちの忍耐もいる。工夫もいる。大変なこと、たくさんあったけど、どうにかやってきた。三浦も成長してきた。同時に自分も成長できた気がする。
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私たちのドラマが、新たなDream Factoryの1ページになるように、自分と戦って、打ち克って、全国選抜の切符を絶対勝ち取ってみせる!
明日、私はメンタル面で絶対に試される。でも私はへこたれない。後輩と組んでいるんだ。「ごめん」なんて、本当にいらない。どの状況で何をするか、それだけ。この指針を忘れるな!
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最後のミーティング。
先生は「二つの力」が必要と伝えてくれた。
一つはレジリエンス=復元力。私は訳を「反発力」と言ったが、折れそうなところでぐっと復元していく力だ。もう一つは「突き放す力」。リードしているのに勝ちきれずに追いつかれてしまうのでなく、リードしたら「突き放す」。
今度こそ、私はできる!
このチームはできるんだ!
(1月15日)
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この二つの力を発揮する場が、最終戦で訪れました。
相手の福井商業も負けられない戦いです。ここまで2勝1敗。勝てば全国です。
負けても得失ゲームで可能性はある。
北越は負けたら4位確定です。
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第1対戦
三浦・高橋 3-④
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敗退しましたが、しがみついて3ゲームをもぎ取り、得失ゲームは「-1」
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第2対戦
入澤・鷲尾 ④-1
初戦の富山戦で、トリプルマッチを逃したペア。そこから歯車が狂いました。
鷲尾に星野のような「気づき」はまだ訪れません。先輩や指導者に言われないと「自分の問題」がわからない。まだまだ自分から自己を洞察できません。常に戒められていないと自分のすべきことも明確にならない。このままでは才能が持ち腐れになってしまいます。ただ、鷲尾が北越に来たのは、姉がこのチーム北越で大きく変化したのを妹として驚きとともに目の当たりにしたからだそうです。中学時代の自分では後悔が残る。私も姉のように大きく変わりたい、それが入部動機です。それなら…と何度も思い、促しているのですが、まだ転機が訪れません。キャプテンの高橋と共に、この冬に「気づき」を得て、自分の何をどう変えたいのかを星野のように明確にして、もがき続けてほしいと思います。
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ペアの入澤。すごい才能の持ち主です。ただ、まだまだ精神的に幼く「気づき」を得られていないので、その才能を伸ばしきれない状態です。でも、この大会直前、入澤の成長のきっかけになるかもしれない事件が起こりました。個人戦の負けも含めて、自分の戦うべきものに「気づき」、日々の生き方に目覚めてほしいです。
この才能はあるけど精神的に幼い二人を、部長の斎藤、団体メンバーから外れた高野、裏方で力を振り絞る近藤の3人が叱咤し続け、励まし続け、この厳しい戦いを勝ち切らせました。5人で勝ちきった感じです。
これで2ペア合わせて、得失ゲーム「+2」!
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第3対戦 星野・本間
ペアは変わりましたが、後輩の本間と組んで、全国選抜への運命を託しました。
進化している星野を信じました。
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星野、今のお前なら、本間のいい所も引き出せる、さあ、自分を信じて夢を勝ち取って来い!
星野はベストゲームでした。無心で振り切ったボールが次々と敵コートを突き刺し、ポイントを重ねていきます。
それまで自分を超えられず小さくなっていた本間もラケットを振り切って戦いました。
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星野・本間 ④ー0 勝利!
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準優勝で全国切符獲得!
優勝という形で恩返しできませんでしたが、先生、私は自己ベストで後輩を引っ張っていくという姿は表現できたと思います。
私は、今日1日、何かグッと強い芯が心の中にあり、どんな状況でも私自身を折れさせなかった。自分のプレーもチームへの思いも。
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初戦の高岡西戦では、私たちが1勝して、隣の鷲尾・入澤のペアもG3-2のP3-0トリプルマッチポイントだ。そこから逆転負け。3番勝負の高橋・本間も自ら退いていくような敗退。チームにとって最悪のスタートだ。そして続く能登戦では0-③の負け。選抜出場が消えてゆく…
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その後、みんなで集まった。でも、みんなの顔が死んでる。
これではダメだと思った。私が火を燃やし続けなければ…
ここがチームのレジリエンスを発揮する場面だって強く思った。優勝はなくても、まだ全国のチャンスはある。高橋にも強く伝えた。
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この時の私は、今までにない感覚だった。崖っぷちなんだけど、同時に「やってやろう!」っていう前向きな気持ち。むしろ楽しいっていうか、グッと何か心の中で燃えるものが生まれた。
本当に不思議な感覚だった。「信じる」ってこういうことか。
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そして、その後チームは2勝して、結果は2位。
私たちは全国への切符を手にした。
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ただ、優勝した能登に北越DNAを表現できなかった。互角に打ち合っていても勝ちきれなかった。それでも、夏までには追いつける、私もそう感じた。
この大会、確かに私自身、成果ありだったけど、絶対に過信しない。
チーム北越、前へ!
(1月16日)
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🔶北信越インドア大会(ダブルス個人戦) 1月17日 in小松ドーム
3位 高野凜・鷲尾祐稀
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自分の「質」に負けて、団体メンバーから外れた高野でしたが、その悔しさを個人戦にぶつけたのでしょうか。僕は試合前、高野にこう言いました。
本来なら団体で戦うべきものを自ら手放したのだから、おまえにとっては、ここが団体戦のやり直しだ。そう思ってチームに姿見せろ!
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4回戦、第2シード 能登のエースに④-0勝ちしたのは正直驚きました。堂々とした勝ちっぷりでした。その後の準決勝では優勝した巻高校のエースには全く歯が立ちませんでしたが、二人とも石川のエースに勝ち、新潟のエースに負け、そこから自分の為すべきこと、向き合うべきこと、大きな「気づき」を得るきっかけにしてほしいと願います。
鷲尾も久しぶりの雁行陣でしたが、教えてもらったスキルを大事な場面で発揮してくれました。ただ、鷲尾も高野も自分の戦うべきものに「気づき」、それを超えての勝利ではないと自分に言い聞かせるべきです。ここを錯覚すると、春に大きなしっぺ返しを食らいます。力はある。チャンスはある。それを教えてくれた結果であると同時に、これが自分で勝ち取った実力だと誤解すれば暗闇の春が待っています。まだまだ君たちは超えていない。
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無知の知。まず自分を知ること。そして自分の中に戦うべきものがあることに「気づく」こと。
そこを見据えて、日々ひたむきに超えていこうと精一杯もがき、努力すること。
それが強くなるということだ。
そして、その姿が何よりも美しいのだよ。
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冬来たりなば春遠からじ
今年の冬は大雪です。新潟は雪に埋もれています。
しかし、最後の決戦はもう雪雲の先まで近づいています。
君たちのドラマ、精一杯生き切りなさい。