Dream Factory 2021 紫陽花
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北信越総体 団体 準優勝
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秘められた まさか過ぎるドラマ
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梅雨の候、紫陽花が綺麗です。
あの微妙な色合いは、光が薄くて柔らかな梅雨空でこそ映えるのですね。
雨に濡れた花は輪をかけて美しく艶やかです。
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このDream Factory 、毎年北信越大会を省かせてもらっています。勝っても負けても、インターハイへのTry 大会と捉えているからです。
ただ、今年は省くわけにはいかないドラマがありましたのでUPします。
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前回の「2021初夏」でも記した通り、裏方でチームを支え続けてくれた3年生の斎藤と近藤を北信越の団体で使う、というサプライズを予定通り1回戦で実行しました。
もちろん、ただのご褒美ではなく、勝負できると判断してのことです。
初戦、地元IH開催権=石川県のベスト4、金沢商業との試合。
近藤・斉藤を第1対戦に使いました。
二人とも、初めての団体戦がいきなり北信越大会。緊張するなという方が無理です。
固いスタート。ぎこちない笑顔。苦戦が予想されました。
リードされてベンチに戻ってきた時、二人に言いました。
いいか、おまえら。
北越に来て、レギュラー目指し続けて、
「団体で期待を背負ってコートで戦う」それがずっとおまえらの夢だったんだろう。
二人は強くうなずきます。
今がその舞台ぞ。
今が夢そのものなんぞ。
今、ここが、憧れ続けてきた「夢」の真ん中ぞ。
勝ち負けじゃない。
精一杯、夢を生きろ!
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斉藤の目も、近藤の目も、瞳がぐっと深くなりました。
中盤から敵の弱点も見えました。
戦う。ガッツポーズをベンチに送る。
戦う。目を合わせる。
最高の笑顔で今を生きる。
表現していました。
二人の3年間。二人の友情。チームへの思い。Bチームへのみんなへの強いメッセージ。
逆転で④ー2勝利。
ペアとしての自己ベストで、最初で最後のチーム北越の団体戦を戦いきりました。
3年間の自分にプライドと喜びを感じる試合でした。
普通は、これで終わりです。僕の筋書きはここまででした。
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近藤とも強く握手して、「ナイスゲーム!! さあ、後はサポート頼むぞ」、そう言いました。
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しかし…
これが終わりじゃなかったのです・・・
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まずは、近藤梨果という選手がどんな風にチーム北越で生きてきたのかを知ってもらいたいです。入部~北信越大会までを駆け足でたどります。
県の上位で戦う技術はほぼ無しでした。憧れだけで北越に来た不器用な子です。
サーブはメチャクチャ。ストロークは力任せ。リズム感無し。中でもフットワークがひどすぎて、これは身体の異常な固さもあって、目も当てられない状態。一歩先のボールを空振りすること数万回。
感情は豊かですが、頭は固い。思考に柔軟性がなく感情が余っていると、思い込みや勘違いが起こりやすいんです。技術的にも他者ができて自分ができないことだらけですから、当然劣等感や嫉妬が溢れます。そのネガティブな自分の心が、真っ直ぐな思いを澱ませる。近藤の3年間は、ほぼ自分との「もがき」です。
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ただ、近藤の長所は、真面目な努力家であるということ。本当に努力家です。これは日本一レベル。
もう一つの長所は、他者へのかかわりに情熱があるということ。特に人間的に成長した3年になってから、感情の豊かさと相まって、仲間や後輩へのシンパシーが半端ないです。もっとありますね。もがきながらも、最終的に意志はブレないということ。
それから感情の豊かさの良い面として、人の深い話を心の深いところで受け止めて感動できるということ。その感動をエネルギーに換えられるということ。感情は厄介なものですが、ネガティブな面をコントロールして、ポジティブな面を生かしていけたら、豊かな人生を送れるんだよな、と近藤を見ていてよく思いました。
そんな近藤が、個人戦で県総体を勝ち抜いて北信越大会に出場するきっかけは、2年生の終わり頃だったでしょうか、自分で「もう団メン(団体メンバー)を諦める」と宣言して、個人戦でのIH出場に目標を切り替えたこと。これは本当にすごい。自らによる戦略的撤退です。他者との比較ばかりしてネガティヴマインドを発生させる、その源を切った。選択的集中を自分で作ったんですね。十年以上前の先輩(石井・依田)がBチームからインターハイに出場した、そのドラマに心底憧れていて、その二人のDream Factoryを繰り返し読んでいました。
それから、近藤は秋まで斉藤と平行陣を組んでいたのですが、不器用な近藤は雁行陣で大きなテニスをする方が性分に合っていると判断して、後輩の丸山と組ませたことだと思います。
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近藤はどんどん丸山に情熱を注いでいきます。近藤の中で丸山が生き始めていました。当然、丸山の中にも近藤が息づき、二人は強い絆で結ばれていきました。
丸山と組んでの初の公式戦=4月のハイジャパ予選のノートへ遡ってみます。
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今シーズン最初の大会=県総体のシード大会、ハイジャパ予選。
村上高校に私で負けた。
私のイージーミスであっと言う間にG0-2。ここから丸山に救われて立て直して、G3-3のファイナルに追いついた。それなのに、また私が戦えなくて敗退…
ファイナルに弱いのは人としての弱さ。
本当にその通りなんだ、って身に染みる。
どうして私はこんなにクソなのか。
誰と組んでも、後輩と組んでも引っ張っていく3年生の強さが出るわけでもなく、逆に丸山に助けてもらっている。先生が伝えてくれたことって、すべて私にとって図星で・・・
今日の朝錬も放課後練習も、私は私の練習よりも丸山の練習の方に時間を割いた。後輩だからというのもあるけど、ペアとしてやっぱり私が中心ってのは違うと思うからだ。
でも、そうやって私は私の弱さから逃げているんじゃないか。弱点を前面に出して超えようとしてないから芯が弱いんだと思う。後輩の弱点はすぐ見える。だから練習する内容もわかる。けど、自分の弱点はさらさない。そしてすぐ折れる・・・
私は変わりたい。
こんな自分で、ラストまた同じような負け方をして、涙を流して寝落ちして、腫れあがった目で朝を迎える…
これが地区大会だったらと思うと怖い。こんな自分で引退??
3年目の4月17日現在、これまでの先輩のような「北越3年の強さ」は、私にはまだ分からない。
3年の重さは「思いの強さ」だって先生は言う。
だけど、私はその「重さ」に自らが負けてる。
(4月17日)
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思いは強いが、実際のファイナルの競り合いで、近藤はチャンスボールでラケットを振れず、置きにいくようなロブに逃げました。
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こんなに苦しいんですね。
丸山がノートの1ページ目に毎日書いてくれていた「梨果先輩とIH!」。このページがいったんなくなるって思うと悔しくて情けなくて…
誰と組んでも私は弱いんです。
浅いチャンスボールをウイナーとして叩き込めず、ロブで逃げてしまうくらい私は弱い人です。
今日も野倉と宮川(共に1年生)を真剣に強化しました。ちゃんと伝わって教えたところはすぐ上手くなりました。でも複雑です。人を強くすることはできるのに、私自身を強化することができない。
今、3年生誰もが苦しいと思います。
高橋も、鷲尾も、星野も、高野も、斉藤も。
3年だから湧き上がる「北越3年の強さ」、6人誰一人わかってないと思います。だから苦しい。
先生は、地区大会へ向けての選手発表の時、Aチーム以外はペアとして名前を呼ばなかった。まだチャンスはあるんだ。
今は苦しいけど、絶対丸山とIH!
(4月18日)
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これまでの近藤と丸山の深い絆を見てきていますから、県大会までこのペアで行くつもりでしたが、まずは真面目な近藤が、自分の戦えないビビリを隠さないで表に引っ張り出し、おまえと戦うぞって宣言しない限り、県総体の厳しさは乗り越えられないと思っていました。近藤のノートに、この日こんなコメントを書きました。
戦えない人間が選手から外れるのは、それは勝負の世界では当たり前です。そこは情緒的な世界ではありません。でも君は今、情緒的ですね。
自分は強く戦えない人間だ。
それをまず感情を入れずに認め、大事な場面でこそ強く戦い抜く選手になろうとする。
それしかないのですよ。
シンプルなのです。
練習って自己強化ですよ。
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次の日から、近藤はその日の1ページ目に
ビビリ脱却!
と大きく書くようになりました。
そして、しばらくすると自分がビビッて固くなり、ボールを置きにいった写真を敢えてノートに貼り付けて、超えていくべき自分を見据えます。
自分の弱さをさらけ出す。それが強くなる第一歩。
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朝伝えてもらったことを大切にして、毎日誠実に「強い人」になれるよう生きていきます。
もう戦えない自分、チャンスに逃げたりビビったりする私、本当に嫌です!
去年の代替大会:巻の長井・小林に負け。
秋地区大会:再び巻の長井・小林に負け。
県インドア大会:村上の関根・水澤に初戦負け。
ハイジャパ予選:村上の安城・佐久間に負け。
いつもいつも、少し格上の相手に対して負ける。相手にじゃない。自分に負ける。
挽回はできても、ファイナルまで競り合っても、勝ち切れない。
すべてが自分の甘さだと結果が教えてくれる。
たとえば後輩の本間は、冬に負けた巻のエースにリベンジするために、毎日弱い自分をさらけ出して戦っている。本間から学んだことってたくさんあるけど、改めて思ったことは、
「私の戦うべきは『メンタル』だけど、私の技術の『正確性』をアップさせることが大事なんだ。いつでもどんなメンタル状況においても、ちゃんと戦える、信じて使える技術の『正確性』」
これを追究しないで、精神論ばかり言っててもダメなんだ。
(4月21日)
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近藤の誠実な取り組みはノートを見るとよくわかります。
まるで『ベイビーステップ』のエーちゃんのノートです。
ただ、エーちゃんと違うのは、近藤のはノートは素晴らしいけど、実際のプレーの向上、メンタルの向上になかなかつながらないことでした。それは、近藤がやっぱりどこかで、ノートを僕に出していたからなんだと思います。自分が強くなりたくて書いているのですが、感情が強い近藤は、どうしても読み手を想像する。先生を想像する。褒められたい、認められたい。もちろん、それは発達過程で必要な段階ですが、アスリートはそこを超えていかねばならない。「アスリート的巣立ち」が必要でした。
僕は近藤のノートへのコメントは極力短くして、逆に近藤が書くノートのページ数を4ページまでに制限しました。知らず知らず「いいノート」を書くことが手段ではなく目的になってしまっていた近藤はとまどったでしょうが、これも巣立ちには必要なことだったと思います。
僕の意を理解した近藤は、その4ページを純粋な自己強化、ペア強化で埋めていかざるをえません。情緒的、感情的な感想を書くスペースがほとんどありません。(それでも字を小さくして近藤は書いていきますが…)
不思議なことに、そうすることで、近藤のノートは格段にレベルアップします。そして自分のスキル向上とつながってきます。
そのうちのいくつかを載せますね。
(クリックすると大きくなります。参考にしてください。本人了解済です。)
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メンタルコントロールに問題を抱えている選手が何人もいましたので、メンタルレクチャーをしました。メンタル指導って特別なことに聞こえますが、要は自分を知る、そして必要なことをする、それに尽きるのです。それが難しいのですが、でも専門家にしか扱えない臨床心理学的なものではないのです。それを話しました。
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今日も改めて「チーム北越」の価値について、先生が熱を込めて伝えてくださった。今日は特に心の底で受け取ることができた。
私たちのチームは人間性と日々の生き方にこだわっているからこそ、それをチームの力として発揮できる。自分の弱さを直視して、それを認めることから生まれる「強さ」「潔さ」。そういう仲間たちをリスペクトするからこそのチーム力。心と心の深いつながり。
こういうチームで、3年前の「あと2ポイントで団体日本一」の地点を超えていきたい。
先生はそう言い切った。
絶対、私たちの代で叶えたいって思った。
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今日みたいな「先生の熱い思い」を私たちは忘れたり薄れさせたりすることなく、心で感じて思いを育てていく集団になりたい。そういう集団として日本一になりたい。
昨日、先生がメンタルレクチャーをしてくれた。それを生かして今日の試合形式はうまくコントロールできた。
「まずは『気づき』から」
本当にその通り。自分のメンタルの崩れに「気づく」から、次にするべきことにつながるんですね。
(5月3日)
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昨日のメンタルコントロールの成功を力にして、今日は実際の練習試合で成長を感じたかった。
けど、三浦・斉藤にゼロ負け。
どうしてコントロールが効かなかったのか。
私のすべてのスタートは1本のイージーミスだ。
そんなことはよくあるし、そのミス自体はそれほど重いものじゃない。けど、これを「自分一人で取り返そうとするから、攻守の判断がなくなる」
挽回したい。その気持ちが「無理する」リスクにつながる。ミスが無謀を呼び、無謀が混乱を招く。そしてコントロールできなくなって、どん底へ行く。
今日がすごく悔しいし、また1mmも前へ進めなかった自分が嫌い。
そう思って、もう真っ暗になって絶望していた。
先生、最後に伝えてくれてありがとうございます。
「絶望がない限り、希望は生まれない」
今の自分、絶望的に嫌だから、今年のスローガンの通り
「信じて立ち上がる」
絶望の中から希望が生まれるのだとすれば、それを「信じる」しかない。
(5月4日)
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5月のゴールデンウイーク中、近藤は絶望の中にいました。
地区大会目前になっても整わない自分のスキル。4番手争いの相手、三浦・斉藤に連敗。しかも「わかった」はずのメンタルコントロールの失敗…
全体へ(実際は目がうつろになっていた近藤に向けて)、「絶望と希望」の話をしました。
絶望は希望の一部である。
これは、中世の哲学者で神学者のトーマス・アクィナスの考えの断片です。
とても深く感動したので、それを高橋にも(前回のDream Factory)、近藤にも伝えました。
13世紀に生きたトーマス・アクィナスの愛に満ちた洞察が、僕を仲介者にして絶望している若い二人に染み入っていくのを見て、こっちも深く感動させてもらいました。
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そして、地区大会を迎えます。
近藤・丸山は、4回戦で第5シードの巻高校、長井さん・小林さんのペアと当たります。
これまで、近藤は競り合うけれど、いつも自分に負けて敗退。三度目の正直です。
今回も競り合いました。G3-0になるはずのイージースマッシュを丸山が空振りして、一気に流れが相手に行きました。
ファイナルの競り合い、いつもここで出るビビリ。今回の近藤は違いました。中盤のウイナーをミドルに打ち切ってノータッチ。その後逆に相手が崩れていきました。
崩れそうなところで、粘って耐えて、そしてチャンスで攻める。そのメリハリがありました。
大きな成長です!!
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できた! 私にもできた!
巻の長井・小林に3度目の正直で勝利した。
ずっと、ノートに「ビビリと戦え」と書いてきた。
ハイジャパ予選の恥ずかしい試合の画像を毎日貼り付けて、ここを超えるんだって、自分に言い聞かせてきた。
超えたかった自分=①リードすると弱くなる ②競り合うと弱くなる ③ゲームポイントを握ると無難になる
もちろん、今日だってビビってる自分もいた。でも、いつもここで自分に負けていたから、「ここだ、ここだ。」って言い聞かせて、信じて立ち上がれたと思う。
G2-0リードから追いつかれてまたしてもファイナル。でも競った時に弱い自分をとことん見ているから、粘って粘って耐えて耐えて、自己ベストでファイナル戦いきれた。
絶望がない限り希望なんてない。
私はあの言葉が自信になったんです。
でも同時に痛感したこと。
ただ、戦えただけじゃ、県総体は簡単に倒されてしまう。
「ビビリと戦う」だけじゃダメだ。そこを超えていかなくちゃ。
さあ、いよいよ、私の最後の勝負=県総体。
絶対ベスト8入って、IHの夢叶える!
(5月10日)
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今回、団体戦の第3対戦は、基本的に星野・鷲尾ペアで行くことに決めました。
自分の小ささと向き合うことを通して自己コントロール力を身に着けた星野、それからセンスと決定力に優れた鷲尾に3番勝負を託したい。ただ、不安もありました。鷲尾の不安定さです。突然おかしくなります。そのほとんどは集中力の途切れか、やるべきことの抜け落ちです。近藤にヘルプパートナーをお願いしました。意気に感じてくれる近藤ですから、自分やペアの丸山へ集中するエネルギーにプラスして、団体戦のキーマンである鷲尾にも本気で心を注いでくれました。
4ページのノートに、さらに「鷲尾ヘルプ」コーナーが割り込みます。
近藤は誰にでも本気です。情熱を持ってかかわります。
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あと23日で私たちのここでの命は終わるかもしれない。
鷲尾は、そういう状況で、この選択でいいの?
絶対このままじゃ後悔するって、自分でもわかっていると思う。このままじゃダメだって。
センスがあって、試合でも感情に左右されずメンタルは安定して戦うことができる、鷲尾の長所。私には羨ましい限りだ。
でも、今まで起こしたことと同じ道を歩んで最後の戦いに臨めば今までと同じ結果になるに決まっている。
北越の団体の強み、それはセンスじゃないって鷲尾ももうわかっているはずだよね。センスだけじゃ絶対に落とし穴にはまる。北越を選んだんだから、鷲尾も絶対に変われる。変わろうよ!
ただ変われるかどうか、それはある意味、鷲尾自身が今の自分にどれだけ「絶望」できるかだと思う。何度もチームを失望させてしまう自分と、もがいてもがいて、悩んで、それでやっとやっと光が見える・・・
そんなドラマみたいなキレイごとなんてあんのか⁉って思うかもしれない。
でも、あるんだよ。本当にあるんだよ。
私でさえあったんだよ。
きっと、もがいてるみんなそうなんだよ、信じてほしい…
私たちの部訓
あらゆることから力を集めて光を放て!
私、やっとその本当の意味がわかったよ。
鷲尾が団体メンバーだから言っているんじゃない。
一人の仲間として、鷲尾祐稀に伝わってほしいから言っている。
届け!!
(5月13日)
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今日も私と菜月を中心にして鷲尾に伝えた。私的に鷲尾には「思いを送っている」と思ってやっていたけど、想像以上に鷲尾には届いていなかった。
でも、以前と違って受け入れてくれてるから、放課後も先生と話したみたいで、自分を立て直そうと今日は動いてくれていた。
考えてみると、今までは「なんで⁉」って思うことが多くて、ちゃんと鷲尾に寄り添えてなかったのかもしれない。でも、今は鷲尾のこと先生に頼まれているからとかじゃなくて、チームとして仲間として、私は鷲尾を理解して、真のチームとして心一つに戦いたい。
大事な試合、3番勝負になって「頼んだぞ」って信頼できて、応援できる鷲尾祐稀になってほしいんだ。
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何度でも言う。
このチームの10連覇のキーパーソンは鷲尾祐稀。
鷲尾が深く自分のリスクを自覚すること、それがチームのエネルギーとなり10連覇を達成するんだ。
私も全力を尽くす!
(5月20日)
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この近藤の情熱と二人三脚の行動の積み重ねが、鷲尾を「注意深い」アスリートにしていきました。
最初は「決められたこと」としてやっていた行動も、鷲尾は近藤の思いをくみ取って、自分から進んで努力するようになったと思います。
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二人で4つの項目を毎メニューの前に確認してメニューの後に振り返る、これがやっと浸透してきて、良い方向に行きつつあるのを感じる。
特に、「やらかしてしまいやすいこと」を予め二人で確認することで、本人も意識できていると思うし、そもそもあの「絶望ミス」が起こりにくくなっているんだと思う。
これも北越の団体戦を戦うチームとしての「練り上げ」なんだと思う。団体は団体の選手だけで戦うのではない。チーム全員で戦うんだ。
3年間、鷲尾はいろんな人にエネルギーをもらってきたはず。少なくとも真剣にかかわってくれたいろんな先輩の熱量はわかると思う。その思いの込められた熱量を受けているからこそ、ラストの団体戦でチームに花を咲かせてほしい。
私は団体メンバーに1回もなったことないから、祐稀の気持ちは分からないかもしれない。でも、だからこそ、私にできる精一杯を祐稀にあげて、一緒に戦いたいんだ。
(5月25日)
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私は今日練習していて、最初から最後まで鷲尾の声がこっちのコートまで響いていたことに驚いたし、嬉しかった。あの鷲尾が言われたわけでもないのに、どこまでも響く声でずっとチームに声をかけていたことが、ただただ嬉しかった。絶対絶対、このチームで10連覇したい。そう心から思えた。
今日は高野がメンタル的に崩れた。私はその場にいなかったけど、星野と鷲尾が帰りに「その選択(高野の行動)自体が逃げなんじゃないの?」ってちゃんと伝えていて、いつもこういう時に退いていた星野や鷲尾が、仲間の弱さから目を背けないで、仲間としてちゃんと一緒に向き合っているのが、なんかとってもいいなって思えたし、これ絶対に団体戦で力になるんだって感じた。私たち、いつの間にか、あちこちでこうやって自然と仲間の弱さに向き合えるようになっているんだ。
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さて、私。私はビビリだから、怖い気持ちも不安な気持ちもある。でも、それ以上に「やってやる!」って思う気持ちが強い。私の3年間の夢はあと5日後に決まる。咲くか散るか。
今日の練習ではAチームの中に入っても、しっかりラリーの形になった。それが自信にもなった。
Bチームからインターハイ。絶対絶対インターハイ!
3年間の私を、朋恵先生に見てもらいたい。本番の試合で恩返ししたい。
(5月30日)
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あっと言う間に県総体です。
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今日は学校での練習がラストだった。
すごい集中の中でみんなやっていて、時間がたつのがあっという間だった。
ラストの学校練習って意味を考えると、次ここに戻ってきた時、「引退が決まって後輩指導に切り替える私」か、「夢を叶えてIHへ向けてさらに自分を鍛えていく私」か、そのどちらかだということだ。
これ現実なのかっていうくらい、この日が来るのが早かった。
もちろん不安もあるけど、その何倍も「信じれる確かなもの」が私の中にある。
ビビリな私だけど、それを認めてオープンにして生きてきた今の自分に自信があるんだ。
待ってろ、インターハイ! ビビリーがそこに行ってやるよ!
想いの強さは誰にも負けない。
いつでも全力で生きた。
私には信じれるものが山ほどある。
だから、何度でも立ち上がって戦う!
(6月2日)
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今、新潟県は新潟地区にポイント選手が偏在しています。地区ベスト8の近藤・丸山では、県総体でシードを獲るまでに至りません。ベスト16決め=北信越決めで、ハイジャパ予選3位の村上高校の選手と当たり、それに勝つと、またしても因縁の巻高校、長井さん小林さんとベスト8決めを戦う厳しい組み合わせでした。
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村上高校戦では、お互いが意識する中での意地をかけた戦いになり、1本1本、身を削るような苦しい戦いでしたが、近藤・丸山が競り勝って勝利! 夢の実現まで大きな一段を上りました。
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ですが、ベスト8決めでは、前回勝ち切った長井さん小林さんにリベンジを果たされ、近藤の長い長い、熱い夢は終わりました。
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先生、たくさんたくさん伝えて信じてくれてありがとうございます。
IHの夢、叶えられませんでした。
村上のエースを倒して、勝負の巻、長井・小林戦。
リベンジされた。
悔しすぎる…
でも、ちゃんと成果も出た。
私の3年間をかけた勝負、もうビビッて終わるようなことはなかった。
苦しい場面でも、ベンチ見て、丸山見て、キーワード言って、信じて戦えた。
「試されてる」
そう書いた左手を何度も見て、その時の状況から逃げずに向き合えた。
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負けた後、IH決定戦リーグでの長井・小林を見ていた。地区大会から、何倍も強くなっていた。
このペアに結局、1勝3敗。
このペアが私の壁であり、目標だった。絶対に超えてやるって思い続けた相手。
表彰式の後、長井に声をかけた。
「インターハイ頑張ってください!」
この二人がいたから、私は強くなれたんだ。
本当にありがとうございました。
(6月5日)
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今、こんな選手って、近藤以外にもいるんでしょうか。
友達でも知り合いでもない、毎日倒すべき敵と見据えてきた相手に、表彰式の後に歩み寄っていって、祝福と激励を伝える、、、
これだけでも、近藤が目指してきた夢と、その道程が素晴らしいものだったことがわかります。
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この後は、県総体の団体戦。
一つ前の、「Dream Factory2021初夏」につながります。
未読の方は、いったん読んでから、またここへ戻ってください。
近藤が心配しながら一緒に戦った鷲尾は、自己ベストで巻高校との厳しい3番勝負を勝ち切ってくれました。近藤と準備した「当日ベンチに置いておく注意書き」を何度も何度も見ながら、そして近藤と約束したプレー中のキーワードやポイント間のイメージトレーニング、すべて鷲尾は近藤と二人で戦い切ったと思います。
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さて、冒頭に綴った「斉藤との最初で最後の団体戦」をメモリアルに戦いきったつづきがこれからです。
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時計を北信越大会の前日の夜に戻させてください。
思い出してみると、不思議なことを僕が口走ったことに思い至ります。
近藤もノートに書き留めていました。
今日ミーティングで先生が団体戦の戦いについて話をしていた時に、県総体の個人戦は近藤は長井・小林に敵わなかったけど、もし団体戦に近藤が出て同じ相手と当たったとしたら、どうだったかな。北越って団体の時に出る大きなパワーがあるから、勝っていたんじゃないかな、そう言ってくれた。
私もそう思う。もしくは、もっと競っていたと思う。
こう思うから、なおさら悔しくもある。
私があの負けた試合を団体戦だと思って、チームのために戦えたら、もっと違うパワーが出ていたんじゃないか。
あの日、G1-3で追い込まれた時、私のバディだった麻央が「梨果先輩。姿で見せてください! 私見てます!」ってフェンス越しで、熱のある言葉をかけてくれた。麻央の言葉があれから、ずっと私の心で消えない。この子の思いを私は受け取って一緒に戦えなかった。Dream Factoryの星実里さんのように、後輩のために私は頑張り切れなかった。
だから、あれは私の自己ベストじゃない。
後輩の思い、チームの思い、それを背負って炎のように戦いたい。
明日の団体戦は、私がチーム北越の第1走者として勝ち切って、2番手にバトンを渡す。
これが私のインターハイ
先生が伝えてくれたこの言葉。明日、腕に書いて戦う。
この言葉に込められた思いを力に換えて、泥臭く北越らしく戦う。
私は上手くない。上手くなくても強い自分で戦いぬく!
(6月19日)
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確かに僕はそう口にしました。
でも、まさか、それが現実になるなんて、全く微塵も思っていませんでした。
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団体戦、2回戦。
長野県2位の上伊那農業高校。
毎年、チーム一丸となって思いきりラケットを振ってくる熱いチームです。
ここから、県総体のメンバー高野・高橋に戻しました。
ところが、高野の弱さがまた出ます。
地区大会の団体決勝で出た弱さです。
高野は近藤よりもフィジカル力もありますし、サービス力も展開力もあるはずでした。けれど、近藤のように、高橋や斉藤のように、自分の弱さと本気で向き合うことを避けてきました。自分では向き合っているつもりなのですが、実際は儀式的なものだったかもしれません。
それが、大事な試合で露呈します。
その場でいくつかの手を打ちますが、縮こまったハートには何も伝わりません。
他の2ペアが勝ってチームとしては勝利しましたが、高野の「戦わない弱さ」はチームとしてダメージが大きすぎます。次は準決勝、おそらく巻高校が上がってくると踏んでいました。
北信越大会は、県総体で優勝を狙っていて果たせなかったチームが最後に戦う団体戦です。これが私たちのインターハイだ、という強いハートでリベンジを誓う大会で、実際、県での準優勝校が北信越で優勝という例は何度もあるのです。
しかし、県総体で勝ち切った相手に、2週間後リベンジを食らうようではインターハイを勝ち抜けません。
近藤を呼びました。
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近藤、おまえ準決勝、戦ってくれるか?
目が止まりました。
(目が点になる、ってこのことなんですね、って感心している場合じゃない!)
近藤は、少し驚いて、少しためらってから、小さくうなずきました。
もう一回聞きます。
本当にいいか。
さっきより力強く
「はい!」
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まさか過ぎる展開です。
ついさっき、引退したばかりなのに、今度は負けられない巻高校のリベンジを受ける戦い⁉
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準決勝。
整列。
両チーム、顔を上げて相手を確認。
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第1対戦 近藤・高橋 vs 長井・小林
第2対戦 入澤・本間 vs 石山・神保
第3対戦 星野・鷲尾 vs 山本・久保田
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第1対戦は、なんと長井さん小林さんとの再戦。昨日、ふと口にしたことが、次の日に実際に起こる。しかも全くの想定外の条件がいくつも掛け合わさって。
神はいる。もしくは言霊の仕業か。
こんなスリリングなドラマ、オカルトも推理小説もすべて凌駕しています。
人生はかくも驚きと感動にあふれている・・・
幸せすぎます、、、
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エース対決となった第2対戦ですが、この日、個人戦の決勝を午前中に戦っているのです。
その個人戦では、入澤・本間は石山さん神保さんのリベンジを退け、北信越初優勝を遂げていました。
それが同じ日の数時間しか経っていない状況での再戦。
これも鳥肌が立つ展開。
両チームのプライドをかけた戦いになりました。
団体戦をこのメンバーで戦うのはこれが最後です。
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2面展開で行われたこの試合、どちらも一進一退の競り合いとなりました。中盤リードしたのは両コートとも巻高校。リベンジに燃える巻高校の底意地を感じました。ぐっぐっと土俵際に追い詰められていく感じです。
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数時間前に優勝旗を手にした入澤・本間。やはりやりにくそうです。実力が拮抗している場合、直前に負けた方が次の試合で勝つ確率はかなり高いのだそうです。心理的なものでしょう。それでもファイナルに持ち込んで手に汗握る1本1本を戦っています。
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さて、近藤・高橋。
1ゲーム目は取りましたが、G2-0にできるところをミスで落としてG1-1。ここで近藤のビビリが顔を出します。「高橋を生かす」という方針が、逆に「高橋に決めてほしい」という依存に変容していくことに自分も気づかない。ラリーを続けていけば高橋が決めてくれる。いや決めてほしい・・・ここに弱さが現れます。
G2-3でチェンジサイズ。
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いいか、近藤。
おまえが引っ張ってきたBチームCチーム、みんな後ろで応援してる。BCチームだったおまえが3年の最後に団体メンバーに入って、ベストで戦ったら、やつら、どんだけ勇気と希望を持てるか。
裏方の気持ちを分かって本当に裏方と一緒に戦えるのは、ずっと裏方だったお前にしかできないんだ。
近藤の目が再び、すーっと透明度を増しました。
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近藤のノート
G2-3のところで先生に熱く伝えてもらって、サイドをチェンジして巻側のサイドへ行った。正面には北越のベンチ、そしてずっと一緒にやってきたBCチームが見えた。
レシーブゲーム。ポイントの合間、ずっとベンチとその後ろを見ていた。麻央も見えた。この子たちの思いを力にして、この子たちの分まで戦う、そう強く思えた。
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ファイナルに弱かった近藤。
北信越の団体の準決勝という晴れ舞台で、一番強いファイナルを戦いました。
キャプテン高橋も、チームの思いを背負って、力強く戦いぬきました。
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今回は、麻央の思いも受け取って戦い切れた。
県総体でできなかった、後輩の思いを力にして120%で戦いきる。
先生、私にもできました。
北越の団体戦。
夢に見続けた団体戦。
思いも責任も背負って、私、戦い抜けました。
すごいですね。
もう戦うこともないと表彰式で祝福した長井・小林と北信越の団体で戦うなんて。
すべてが奇跡で、すべてが夢のようです。
ずっと応援してくれていた朋恵先生。
朋恵先生、私にも、チームのために全力で力を出し切る、思いを力にして団体で貢献する、北信越のコートで表現できました。
本当にありがとうございました。
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エース対決は、巻高校に軍配が上がりました。
結果として、近藤・高橋の3番手勝負がどれだけ価値があったかということです。
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3番勝負の星野・鷲尾は実は負けゲームです。
G0-3になってもおかしくなかった3ゲーム目。流れは完全に巻高校。
星野の起死回生のバックハンドストロークが2本決まって、流れを引き寄せました。
決勝の能登戦の3番勝負の不甲斐ない試合も含めて、二人は県総体で「やり切った感」に開放されすぎたのだと思います。周りからも祝福され続けて、研ぎ澄まされたアスリート魂を失ったのだと思います。
でも、負けは負けとして学ぶべきことが必ずあります。この決勝での敗退も必ず何かにつながるのです。何につながるのか、それはわかりません。ただ、前を向いて自分のベストを毎日生き切ることでしか、その「何か」にはつながらないことは確かです。
今まで、2年生エースの入澤・本間が必ず1勝して、勝ち上がってきました。今回、初めてエースが団体で負けた。「ボロクソ3年生」で2勝しなければ勝ち上がれない。その危機的状況を3年生4人とベンチの強い絆で乗り越えた経験はとても大きいと思います。
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近藤のこの信じられないドラマを、同じ会場で行われる石川インターハイに僕らはつなげていきたい。
近藤は「奇跡」と言いました。
でも、僕は近藤の「軌跡」なんだと思います。
近藤が1年生の頃だったでしょうか。
「なんだかんだ言って、北越だってスキルじゃないか」
そう吐き捨てたことがありました。
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努力しても努力しても、自分よりもずっと努力の薄い人がスキルが高いからって団メンになっている。Dream Factoryなんてキレイごとだというわけです。
僕は県総体が終わった日、北信越の切符を手にした近藤のノートに、ただ一言こう書きました。
努力は必ず報われる
これから後輩たちに伝えていってね
僕の中じゃ、1年生の時の近藤のネガティブな言葉への返答としても書いたつもりです。
でも近藤の並外れた努力は、個人戦北信越出場だけの報いじゃ割が合わなかったのでしょう。
「奇跡」じゃない。近藤自身の「努力の軌跡」の延長にこのドラマがちゃんと用意されてあったのです。
近藤が憧れて何度も何度も読んだ、10年前の石井・依田の物語。
次は、後輩たちが近藤梨果の物語を憧れて読むようになるのです。
北越Dreamのリレーですね。
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6月、1年で一番太陽高度が高くなる日差しの強い季節。
日向で光をいっぱいに浴びて輝く花たちもいます。
でも、梅雨交じりの曇りがちな空のもと、Bチームとして裏方で精一杯生きてきた花が美しく咲く日もある。
今回の北信越は梅雨空の下での試合でした。
近藤には紫陽花が似合います。