2020年4月27日 (月)

Dream Factory 2020 希望の春

明日世界が滅びるとしても、

私は花に水をやる

Dsc_0828

これまで生きてきた中で、いくつか心に大切に息づかせている言葉たちがあります。

これもその一つです。

もとはあの宗教改革をしたマルチン・ルターの言葉だとされている「世界が明日破滅に向かおうとも、今日私はリンゴの木を植える」です。ルターが闘ったものの大きさ(世界そのものだ)と成し遂げた偉大な業績と重ね合わせると(宗教改革? ルター? というポンツクはすぐウイキペディア!)、この言葉の重さがズシンと来ますが、僕は表題のように変えたイメージが好きで、この言葉で格納しています。

インターハイが中止になりました。

この状況でできるわけがありません。

そして後ろを振り返っても意味がありません。近未来を見ましょう。希望とは可能性のことです。

問題は、今の高校3年生のこれまでの研鑽をどう形にしてやれるか、我々指導者が知恵を結集すべきはこの1点に尽きます。厄介なのは、感染の終息状況が読めない中で3年生の残された時間だけは刻々とカウントダウンしていることです。ですが、厄介なだけです。問題を放棄するexcuseにしてはなりません。我々の競技はウインターカップもありませんし、春高も、選手権もありません。国体も今の状況であれば難しいでしょう。まずは夏の終わりか秋口にかけて、都道府県レベルで何らかの舞台を準備すべきだと考えます。高体連が厳しいなら連盟。それも難しいなら…知恵を集めます。必ず希望はあります。見ようとすれば、必ず「その状況その条件での」可能性が見えてきます。

その上で、高校3年生には、いつも通り「花に水をやれ」と伝えたい。

「水やり」を放棄すれば、その花の成長は止まります。未来に咲く花も咲きません。「花」は希望であると同時に「君たち自身」です。

毎日走っている人は今日も走ろう。昨日の自分よりほんの少しだけペースを上げよう。坂道に差し掛かったら自らを励まし、ぐっと重心を前にかけよう。

家で筋トレやアジリティトレーニングをやっている人は、ほんの少しだけ強度を上げよう。回数を先週より3回増やしてみよう。

イメージトレーニングや素振りをしている人は、集中力を高めてから(黙想したり、理想のプレーヤーの動画をみたりして脳内イメージをクリアにしたり)始めよう。

「自分への水やり」だけではなく、自分の周囲の人に感謝されたり、周囲が明るく前向きになるような言葉を伝えたり行動したり、後輩の成長を促したり、自分とかかわる「他者への水やり」も、いつも通り続けよう。

そして、希望を消さずに日々を誠実に生きる。

こういうメッセージはいつもチームには、特に上級生になる生徒には「必要な責任」として伝えています。北越の3年生は、毎年そのことを理解してくれます。

3年生の鈴木と佐藤は、毎朝、人のいない6時ころに自発的に走っていますが、その後にメールをくれます。インターハイが中止になった昨日の様子を今朝のメールでこう伝えてくれました。

ついにインターハイが中止になってしまいました。悲しいし悔しいです。だけど、そんなことこの大会にかけてきた全国の高校生みんなが思っていることで、自分だけじゃないんですよね。

昨日の夜、朋恵先生からもメールをいただきましたが、ある意味、今が本当のアスリートになれるチャンスなのかもしれません。インターハイがなくなった。とすれば、インターハイのためにテニスをする、っていうことは意味がなくなります。先生は先日、この日が来ることがわかっていたかのように、こう言ってくださいました。

「必ず、お前たちの日々の努力を表現する舞台を用意するから」

インターハイがなくなるからといって、自分たちの努力が無になるわけじゃない。チームや自分自身の向上こそが目的だ、それが真のアスリートなんだと思います。

インターハイ中止のニュースが流れた後も、会った人にちゃんと挨拶する、そんな小さなこともやりました。自分は先生を信じて真のアスリート目指して、またやっていきます。自分たちの夢の実現はまだまだ終わりません。

Dsc_3848

昨日は1年生も入れた2グループでミーティングを持ちました。自分たちの進行役は星野でしたが、星野の1年生に伝えることがズレます。こうやって1年生に伝える側になってのズレは自分だけの問題じゃなく、1年生に混乱が広がっていったり、間違ったことが伝わったりしてしまうので、2年になったということを自覚して成長してほしいです。

私の反省としては、1年生を発表の形でしか取り込むことができなかったということです。1年生をどうやってディスカッションの輪に含めていくか、それは1年生の問題じゃなくて私たち上級生の問題です。その問題も「問題解決」が必要なことですから、2,3年生でも話し合っておきます。

近藤(2年生)がタクティクス(戦術)の考え方で疑問があるので、一緒に同じ試合を見て勉強をしたいと言ってきました。そういう前向きな姿は3年生としてすごく嬉しいです。チームとしてタクティクス力もつけていきます。

(3年 キャプテン 鈴木唯香)

昨日、インターハイの中止が決まりました。いろんな思いもありますが、先生たちを信じて前に進んでいきます。

昨日はチームでDream Factoryの内容を読んで、グループに分けてLineディスカッションにチャレンジしました。ですが、私のグループはうまくディスカッションを作ることができませんでした。

Dsc_3692_2

原因としては、進行役の2年生がすぐに「まとめ」に入ってしまったこと。その「まとめ」から色々と質問してしまったことで、ディスカッションがごちゃごちゃになってしまいました。なので、途中から私も入って進めていきました。

終わってから、2,3年生で「振り返り」ミーティングをしました。私が入る前のディスカッションについて、高橋と斉藤はどうにかしようとして頑張ってもがいてくれましたが結局うまくいかず、そのことについて私に前向きな質問をしてくれました。

でも、司会に立候補した鷲尾はしゃべらず、今日の自分について積極的に振り返って失敗を生かそうとしているようには見えませんでした。もう2年生なので、鷲尾にはそういう姿勢について伝えました。その後2年生だけで話し合ってくれたみたいです。

2年生は、まだ臨機応変に会話をつないで、全体の意志を広げてまとまていく、ということができません。もう少し準備をさせて全体ミーティングに臨ませようと思います。

(3年 部長 佐藤莉穏)

こんな絶望的な状況にあっても、二人は「花に水をやり続け」ています。もちろん「いろいろな思い」は交錯するでしょう。それは当然です。その中で「今、自分がやれること」を明確にして、日々を誠実に生きている3年生を誇りに思います。

ルターのものだと伝わっている言葉のイメージを、僕が変えて心に留めているのには少し理由があります。「リンゴの木を植える」は将来実るかもしれない希望を信じて新たに行動するイメージです。不毛の地に苗を植えるイメージ。目を閉じて、実際に自分が明日世界の終わりだという前日に「リンゴの木を植え」ている姿を想像してみてください。

明日世界が滅びるとしても、私は今日リンゴの木を植える

どうですか?

では、次に、これを「花に水をやる」に換えてみます。同じように目を閉じて想像してください。

明日世界が滅びるとしても、私は今日花に水をやる

どうですか? 

その花はいつも世話をしている命です。自分が水をやらないと枯れてしまう、自分と強い関係性を有した命たちです。たとえ世界が破滅に向かっているとしても、自分が関わっているものに自分ができることをする、その「ちっぽけだけど大切な行為」の価値が浮き彫りになってきませんか。

これだけ状況が気になるとネットニュースを見ることも多いでしょう。しかし、あのネット上にはヤフーニュースのサイト上にさえ、フェイクニュース(ニュースの形をとった自己主張のPRやCM)も居座りますし、人々の不安につけこんだ刺激的なコメントが多数載っています。どうか、そんな無責任な言動やゴシップに左右されず、今、なすべきことを誠実に積み重ねていってほしいです。(新聞を読みましょう。ウラをとってないものは記事になりませんから。TVはワイドショーは見ずに《あれはショー=ニュースをネタにした娯楽です》決まった時間にニュースを見ましょう。)

最後に、2年生が送ってくれたメールの中に、こんな素敵な話があったので紹介します。

こんばんは。

今日は15分の追い込みを午前に2回やって、午後4回やりました。今日は、15分の中で、一つひとつの動作に、どこで使う動作なのか、何のために自動化すべき動作なのかを考えてイメトレしました。けど、パッとそれが頭に浮かぶものと出てこないものがあります。出てこないものをしっかり復習します。それから、今日は家の掃除をしました。自分の部屋だけじゃなく、リビングも寝室も掃除しました。

暗くなってから最後の追い込みを終わって空を見ると、空はすごく星が透き通っていました。その中で一つだけとても輝いている星がありました。何という星なのかわかりませんが、その星からすごくエネルギーをもらった気がしました。その星みたいに誰かに力を与えられるような人って素敵だなって思いました。

この出会いは、こんな状況じゃなかったらあり得なかったかもしれません。他者視線、そして環境、その二つが人を集中せざるを得ない状況にしてくれます。それが、監督やコーチという存在であり、部活という環境です。部活に行くということはその二つによって、集中環境を得ていたのです。その助けがない今、オリンピック選手でもない限り、毎日毎日、自主自律で自分を鍛え上げることは高校生には難しい課題です。

そんな中でも、自分を励まし、ラインでチームとつながり、心で監督と信頼しあうことができるのであれば、甘さに流れてしまった1日を終える時、後悔が生まれると思います。小さな後悔と次の日の決意そして実行。その波の中で、人は成長していくのでしょう。

きっとこの2年生のこの1日は「やり切った日」だったのではないでしょうか。だからこそ、輝く星の光が「透き通って」見えた。星はこの日だけ特別に輝くことはありません。星に透明な光を見た君こそが輝く1日を生きたのだ。僕はそう信じています。

高校3年生、心で連帯しよう。

令和2年度の18歳、君たちにしかできないことがある。今も、将来も必ずある。君たちこそが「希望」なのだ。

まだまだ「終わり」じゃない。

今日も自分と世界に「水をやろう!」

Dsc_6065

2020年3月13日 (金)

Dream Factory 2020 闇春

できないことを嘆かず

できることを1日1日精一杯生きよう!

Dsc_8736

タイトルを「闇春」とした。梅が開き、桜のつぼみも膨らむ三月、とんでもない事態になっている。この事象はきっと世界的な混乱として未来の歴史の教科書に載るだろう。政治、経済、文化、教育、あらゆる人間の営みがストップしている。

レンズを絞っていけば、県内学校の臨時休校は3週目に入る。君たちとやっとの思いで獲得した全国選抜への切符も幻のものとなった。当然あったはずの未来が消えていく。

昨日、世界保健機構はパンデミックを宣言した。この混乱がいつ収束するのかも見えない。世界も、その一部である僕らも、出口の見えないトンネルから抜け出ることができない。

Dsc_8738_2

そんな中でも季節は巡り、越後の野原はヒメオドリコソウ、オオイヌノフグリ、オランダシシガシラ、早春の野花たちが一斉に美しく春を告げている。

こんな複雑な浅春の1日を君たちはどう生きた?

センバツ高校野球も中止になったが、その報道の中で、ある出場予定校の監督が憮然として「子どもたちの夢を大人が奪って・・」という発言をしていた。驚いた。それは間違っている。間違っているというより、そんな短絡的で子どもじみた見解を監督が口にすべきではない。その学校の選手たちは単純な世界観でしか状況をとらえられなくなる。そのような見方は、これからの人生でたくさんの夢や挫折を経験していく若者にとっては有害でしかない。

だから、メッセージを送ろうと思う。日本中、世界中、いろんな夢がある。夢が絶たれたのは日本の高校野球選手ばかりではない。

・・

伝えたいことは、思いがけず不幸な目にあったりコントロールできない混乱に見舞われたときに、僕らは何をすべきで、何をすべきでないのかということに尽きる。

・・

センバツが中止になった。研修大会も中止。合宿も不可。部活再開のメドも立たない。市内の体育施設はすべて利用できない。学校も休校が続く。やれないことだらけだ、と思ったらその通りになる。悲しんで嘆いているから、嘆くような世界しか見えてこないのだ。悲劇として状況を見れば悲劇的世界が広がっていく、君たちの脳や心にだ。これはソフトテニスの試合において、相手がシード選手でゲームカウント0-3という絶望的状況と一緒なのだよ。絶望的と捉えれば「絶望的」にしか見えない。だが、今何が起こっていて、この状況で自分がやれることは何で、今まで試みていない選択肢がいくつ残っているか、つまり「やれること」「やらずに残っていること」に焦点を合わせれば、決して絶望などしている暇はない。やれることを見つけてそれをやる、それは「希望」なのだよ。そして、その「希望」は、未来を信じているからこそ生まれる「力」だともいえる。

・・

Dsc_8117

君たちは成長の途中にいる。テニスの技術だけではなく、精神的にも、人間的にも、まだまだ成長しなければならない。いやMUSTの考えはよくないね。成長することで必ず世界が広がる。協働して成し遂げられることや領域が大きくなる。大会がなくても、学校に集まれなくても、このパンデミックの中でも成長すべきだし、むしろ成長するチャンスだ。

先日、フランクルの『夜と霧』を久しぶりに読み直した。20代の学生の時、アパート近くの古本屋で買ったものだ。まだその時の値札が挟まっていた。30年以上たっている。

フランクルはあのアウシュビッツ収容所から奇跡的に生還したユダヤ人の医師です。『夜と霧』は、アウシュビッツ=ユダヤ人を消滅させようとした大量殺りくの生々しい現場=凍てつく冬でも乏しい食糧とぼろきれのような服しか与えられずに過酷な土木工事に1日中駆り出されて、人間が人間性を失っていく「地獄」のただ中で、人間の心はどうなっていったのか、そしてこのような絶望的状況の中でも、人としての尊厳を失わずに生きるとはどういうことなのかを熱く語りかけている世界的名著だ。えっ、まさかアウシュビッツを知らない…。ウイキペディアで今すぐ検索!

この本は悲劇を語った本ではない。悲劇的状況の中での人間の希望を語った書だ。いつか、ぜひ読んでみてください。

フランクルは言う。「どんな絶望的な状況でも、我々は生きる意味がある。将来君を待つ誰かだったり、君が為すべき仕事だったり、そこに『今』はつながっている。期待が持てない状況であっても、決してあきらめず、今を生きぬくことに誇りをもってほしい」

希望が持てないと思われる環境で、多くの者はパニックになり、プライドを捨て、悪魔的に自己中心的になったり、人を貶めたりする。そんな中でも、1日に一片しか支給されない固いパンを瀕死の仲間に分けてやったり、絶望して自死に向かう仲間に希望を灯したり、蔓延する伝染病で死を覚悟しながらも尊厳を捨てなかったりする多くの例をフランクルは書き記す。そして言う。

「精神的人間的に崩壊していった人間のみが、収容所の(非人間的な)世界の影響に陥ってしまう」「内面的な拠り所を持たなくなった人間のみが崩壊せしめられた」

身の周りを見てほしい。マスクや消毒液の買い占め。デマに踊らされてトイレットペーパーを買いあさる人たち。各国で起こっているので、文化や宗教は関係ないようだ。くだらないので読みはしないが、「中国の陰謀説」なるものもネットには載っているし、アジアから広がったことで当初アジア人に対する偏見や差別が生じた。過去の歴史を紐解けば、中世のペスト大流行の際にはユダヤ人陰謀説が広がってユダヤ人が虐殺されたり、日本でも関東大震災の時は「朝鮮人が混乱に乗じて犯罪や暴動を企てている」というデマが流れ、多くの朝鮮人が町中の自警団等によって追い詰められ殺された。

かくも人間の心は弱い。フランクルの上の言葉と混乱した人間たちのとった(とっている)行動とを重ねてほしい。

我が家は一つのことを決めた。トイレットペーパー・消毒液は、店頭に商品が並ぶまで買わないし探さない。そう決めると、使う量はいつもの半分以下で済むし、手はよく洗えば消毒液やアルコールも必要ない。小さなことだが、落ち着いてやれることをやる。パニクって混乱を拡大させない。それからネットは必要な情報を集めるだけにすること。

・・

君たちはこの危機的な状況をどう生きている? 

Dsc_6438

こういうときは、普段ならできないことを積み重ねて、必ず訪れる「光」を待つべきだ。

家の仕事はもちろんやっているね。掃除、洗濯、食器洗い、春になるから窓ふきもいいね。小さなことでも心を込めてやることだ。一つひとつ、丁寧に少しでもよくなるように。こういう時だから庭に花を植えようか。種を植えて初夏を想うのも素敵だ。小さな工夫を見つけたり、こういうことが楽しくなってきたら、その仕事は君に寄り添ってくる。つまり君を求めている。つまり君に価値が生まれる。仕事ってそういうものだよ。家の小さな仕事もタフな職業上のプロジェクトも変わりはしない。

読書。リストを渡して休校中最低3冊と言ったけど、休校が延長になったから5冊以上行けるでしょ。これもMUSTでやらないこと。実際、50頁読んでも、全く心に入ってこなかったり、拒否感が強かったりしたら、きっぱり読むのやめて、別な本に移った方がいい。君にとって、その本は旬ではないのだ。ただ、とっておいてごらん。あとで旬になったりすることもあるから。描かれている世界と波長が合ってきたなら、作品の中で心が込められている箇所がいくつかあるので、そこを流さないで、知的好奇心や感情をMAXにして作品の世界と深く交流しよう。映画やテレビと違って、味わう時間をコントロールできるのが読書の最大の利点だ。僕は『夜と霧』を再読しながら、何度そういう箇所で本を閉じ、目を閉じ、思いを過去へ、ポーランドへ、今へ、自分へ重ねたことか。

大学受験する人は1年間の復習をやる絶好のチャンスだ。1日何時間と決めて取り組むこと。わからないところは誰かにきく。わかるまでやる。テニスと同じだ。

・・

さて、テニス。まず何がやれるのか。ここは科学的な事実を大切にしよう。

Dsc_6313

コロナウイルスの感染は、感染者のくしゃみや近距離での会話で空中に飛ばされる飛沫を吸い込むことによる「飛沫感染」と、感染者がウイルスの付着した手で触ったところに接触することから感染する「接触感染」この二つだ。空気中にウイルスが漂っていて、それを吸い込むことで感染する「空気感染」は起こらない。だからあの関東の満員電車でも感染はないのだ。とすれば、外を走ったり、空き地等でボールを打ったり、壁を見つけてサーブ練習をしたり、公園でフィジカルトレーニングをしたりするのは何の問題もない。自分を鍛えるとき、「何のメニューをやるのか」ではなく、「何の力をつけようとしているのか」を明確にすることだ。持久力を落としたくないのか。体幹を強くしたいのか。フットワークの敏捷性を高めたいのか。関節の可動域を広げたいのか。下肢と上肢の連動を自在にしたいのか。そう考えるだけで、全くトレーニングは違うものになる。フィジカルで一人で自分を追い込むのは難しいが、誰も見ていないからこそ、鍛えられることもある。

是非この機会に自分で育ててほしい「目」があるんだ。

Dsc_6367_2

トレーニングで自分を高めるためには、あと一歩、あと3回、あと1秒と OVER THE TOPを実現しなければならない。つまり追い込まなければならない。これは苦しい作業で、強い意志を持たないと続けられない。その時に背中を押してくれる力が、仲間であり、先輩後輩であり、コーチである。それにタームを当てはめれば、「環境」と「他者視線」ということになろう。部活動というのは、それが当たり前に存在する。知らず知らず、君たちはその力に押されて自分を鍛えている。ところが、今、その力がない。「環境」の力もなく「他者視線」の力にも頼れず、では何の力で、あえて重い荷物を持つのか、あえて急な坂道を選択するのか、誰も見ていない、楽な道を選んだ方がきつくない。そこで試されるのが「自分の中の目」だ。フランクルはそれを「態度価値」と言う。

「価値」ととらえるのはとても興味深い。飢餓状態の中で持っている固パン一片は「大いなる価値」だ。タバコ1本は1日1杯しか配給されないスープ1杯と交換できたという。「物自体の価値」。もちろん、財産、お金、家、教科書、食糧…すべて「物としての価値」。次に「体験という価値」があるという。物ではないが、実際に新しいフィールドでの経験は、どんなことであれ「価値」がある。その経験を自分を広げたり社会や他者に還元できたりするからだ。

Dsc_6340

そして最後にくるのが「態度価値」。これは「物」でもなく、「体験」でもなく、つまり何かと交換したり、数値化できたり、他者へ還元できたりするものじゃない。この「態度」は他者に見せるものではない。死を悟った患者が死の間際で同室の人への配慮を医師に願う。絶望的な境遇にあっても自己保身に走ってナチに取り入ることはしない。困難な状況にある時、自分だけいい思いをすることを慎む。直接的には何の利益も自分にはもたらさないが、そういう態度をとることはそれだけで「価値」だというのだ。決して人に見せるための行動ではないが、そのような態度で生きている姿は、逆の方向に流されようとしている多くの他者(普通であれば良き市民であるような人たち)に勇気と希望と与え、我々は何のために命を授かったのか、我々は今何をすべきなのか、人として本当に大切なことは何なのか、そういう実存的問いを投げかける。小さなことかもしれないけれど、人としての尊厳を保とうとする意志、選択、行動を「態度価値」とする。ただ「物の価値」と「態度価値」はしばしば対立する。トイレットペーパー、マスク騒動がその例だ。その時、問われるのは「自分の心の目」なのだ。誰も見ていない中で、どのような態度を選択し、信念とし、行動するのか。だから、「環境」も「他者視線」もない中で、どのようなトレーニングをどこでどれくらいの強度でやるのか。今、「自分の心の目」を鍛えていくことが大事なんだと思う。実際、テニスでも、追い詰められた場面で「何をすべきで、何をすべきでないのか」、それは自分で判断し自分で実行していくしかない。最終的には「孤独」で静謐な世界がそこにはある。そこで頼れるのは、今まで鍛えてきた「自分の内面の目」なのだ。別な言葉で言えば「プライド」だ。日々積み上げてきた「態度価値」、その集積こそが「プライド」になる。

・・

Dsc_6364

さあ、今日も決めたことをやりきろう。朝走っている者もいるが、たとえば、休校が続くから起きる時間が少しずつ遅くなりスタートの時間も遅くなっていく。実行はしているだろうが、これでは「自分の目」は閉じたままであり、すなわちプライドに繋がらないだろう。そういうことが1日の中で無数にあるのだ。

・・

・・

明日も休校が続く。

世界は混乱が続く。

君たちはどう生きる。

・・

コロナの混乱があったから、自分はその時期に強くなったことがある。

君たちにはそう言ってほしい。そして、そうなるべきだ。

センバツで戦う夢は失われたが、君たちの夢は決して失われない。

02

Dsc_8114

2020年1月22日 (水)

Dream Factory 2020 新春

北信越選抜大会 2年ぶりの優勝

3年連続で全国選抜へ

01

ONE TEAMで戦い切った。

今でも信じられない思いだ。こんな弱小チームが北信越優勝なんて。

1年の星野、高橋、鷲尾、高野。本当にやってくれた。

福井商業に敗れて崖っぷちに立たされた後の高岡西戦。1年ペアの星野・高橋が追いつかれそうになりながらも勝ち切って、私たち2年生に回してくれた。そこでの3番勝負。なぜか北越の声しか聞こえてこない。先生、チーム、家族の思いを信じて戦い切った。

02_3

そして最終戦の能登高校戦。3番勝負で、敵のエースと戦うことになった鷲尾・高野。一進一退の序盤~中盤、そしてファイナルゲームでの1本1本。そのすべてが攻めの姿勢で貫かれていた。その1球1球すべてに私は心を持っていかれた。攻めの思考回路が完璧だった。ありがとう、高野、鷲尾。

福井商業戦で自分のクソが出てチームを崖っぷちに追い込んでしまったけど、それを1年生が救ってくれた。一つひとつの戦いをチーム一丸で戦うことができた。このチームで全国を戦えること。このチームが3月末まで続くこと。それが何より嬉しい。(2年キャプテン 鈴木唯香)

03

勝ちに不思議な勝ちあり 負けに不思議な負けなし

知将 野村監督の名言ですが、今回の北信越選抜優勝はまさにこの言葉通りの勝利で、ちょっと説明できないのです。04

北信越5県の1位校がリーグ戦で戦う形で、初戦は長野県代表の長野俊英高校。第1対戦で敗れ第2対戦も敵のマッチポイントが3回ほどあったでしょうか。初戦から薄氷の勝利でした。続く第2戦の福井商業戦は1年生星野と2年生佐藤のペアでエースを倒したのですが、他の2ペアは途中で萎れたような負けで1-2敗退。

第3戦はそこまで全勝の富山県高岡西高校。負ければ1勝2敗となり全国は限りなく遠くなります。しかし北越はここから驚異的な執念を見せるのです。12_2

07_2

敵のエースにはこちらの高野・鷲尾の1年生ペアが瞬殺されますが、星野・高橋の1年生ペアが後がない状況を逆に力にするかのような勢いでG3-0リード。そこから巻き返しを図る高岡西に2-3と迫られますが、そこを振り切って勝利。3番勝負、2年生ペアの鈴木・佐藤に託します。

08_2

今年の夏まで全く戦えなかった鈴木・佐藤でしたが、自分と向き合うことを通じてこのような場面で強さを表現できるようになっていました。緊迫したラリーの応酬が最後まで続きましたが、ファイナルの末、競り勝って、全国への命をつなぎました。

11_4

最終戦の相手はそこまで2勝1敗で、負けても3位以上を確定させている石川県能登高校。北越も2勝1敗ですが星取の関係で、負ければ4位で全国大会への夢は途切れます。しかし勝利すれば優勝というまさに「天国と地獄」の戦いです。この北信越選抜のリーグ、そして毎年のブロック国体でも同じ形式でリーグを戦いますが、「勝てば優勝、負ければ4位」という状況で最終戦を戦うのは初めての経験でした。

それなら開き直れたからだろう、と普通は思いますし、確かにそういう部分はあったでしょう。しかし、能登の選手たちはジュニアから鍛えられて「有名」な選手たちで、しかもオーダーは敵が3番手に石川県の個人準優勝のペアを置く布陣。こちらの3番手はここまで全敗で中学時代の実績もない1年生ペア。3番に回れば石川絶対有利の状況です。そして3番勝負になったのですから、いくら開き直ったと言っても、これは奇跡でも起こらない限り勝利はないと、普通は思います。

その勝負を高野・鷲尾は互角に渡り合い、マッチゲームを握られても取り返してファイナルに追いつき、ファイナルも弛むことなくすべて攻め続けて歓喜の瞬間をチームにもたらしたのです。

10_2

二人は自己ベストどころか、150%の戦いです。練習でも練習試合でも見たことがありません。広い小松ドームで唯一戦いが続いているこのコートは、光に照らされたステージのようでした。そのステージ上で、ファイナルゲームの序盤の競り合いから抜け出し、1本1本、頂点に向かって力強く歩んでいく二人は自分の力で戦っているというより、チームの魂が乗り移っているかのようでした。

05_2

高野・鷲尾は今までのDream Factoryで紹介しているような「乗り越えた」選手ではありません。まだまだ幼く、自分の弱さと向き合うことすら怪しい成長の入り口にいる「ひよっ子」です。ですから、結果として凄いことをやってくれたのですが、成長の結果としてのドラマではない。無心無欲の勝利でしょうか。それとも「恩送り」をしてくれている3年生も含めたチームの魂が二人を変貌させたのでしょうか。

「勝ちに不思議な勝ちあり」ではありますが、そこには何かが託されているのだと思いたい。全国で戦うチャンスをもらったのですから、この二人も含めて、今年も北越らしく、自分と向き合いながら、人間的な成長を伴って、確かな道を歩んでいくチームを目指していきます。この次に高野・鷲尾の記事を書く時には「不思議な勝ち」ではなく、これまでの北越のような「確かな勝ち」として紹介できるよう、選手も監督もチームも毎日を一歩一歩踏みしめるように進んでいきます。

この最終戦は、地元石川の人たち、さらに優勝を決めている能登高校の男子チームも加わっての大応援団の中で完全なアゥエー状態でしたが、新潟県で一番元気のある小千谷高校の選手たちが最後まで残って応援してくれました。ベンチの選手は「こんなに応援の声大きかったっけと思って後ろを見たら小千谷の人たちが一緒になって応援してくれていた、本当に嬉しかった」とノートに書いています。小千谷高校の皆さん、ありがとうございました。

県選抜大会 第4シードから優勝

3年生のために! ONE TEAMとしての勝利

01_2

やっと私たちは言えるんだ。

「ありがとうございました!」

ただ嬉しさと感謝で一杯だ。

この1週間、本当にいろいろありすぎた。まず大会1週間前、海外研修旅行のオーストラリアから帰ってきての「ぶっ壊れ」。感覚が全く戻らない。このままじゃ佐藤莉穏が夢を終わらせる…

すがる思いで冨樫先輩にお願いして朝早くからボールを出してもらった。冨樫先輩は胎内市からの電車通学。本当にあり得ないお願いだけど、先輩は私のわがままに精一杯付き合ってくださった。それなのに校内試合でさえ現れるビビリー。またかよ…。こんなに真剣に乗り越えようとしているのに、それでも出る自分の弱さが嫌で嫌でどうしようもなかった。その時に先生にかけてもらった言葉が私の世界観を変えた。

「ビビリの自分を受け入れろ」

ビビることがダメなんじゃなくて、そいつと一緒に戦うということ。そして全体ミーティングでもレクチャーしてもらった「男脳・女脳」の話。自分という人間をより深く考えることができた。こうして自分を客観的に見ることで、自分の頭がとてもスッキリした。

大会が迫るにつれて、私は「誰かを信じて戦いたい」という思いが日増しに強くなっていった。最悪の1週間前から、少しずつ変わってきている自分を感じていた。冨樫先輩から毎朝出してもらった数多くのボール。それをただ「この人のために」と思ってやりきる自信のようなものがついた気がした。

勝負の巻高校戦、3番勝負を託された私と星野、マッチポイントで上がった深いロビング。追った。迷いがなかった。私の後ろには日々の積み重ねがある。3年生への感謝がある。もうやれる自信しかなかった。

巻に競り勝った後は、村上、そして最後は全勝対決で長岡商業。もうここは1年生の成長パレードだった。1年生…、毎日のように現れる幼さ、チームの停滞。でも戦う心はもう北越魂だ。毎日伝えられてばかりだっただろうけど、泥臭く逃げずにやりきってくれてありがとう。苦しい場面もあっただろうけど、向き合い続けてくれてありがとう。1年生、本当にありがとう。

02_5

03_2

柳先生から「前衛らしくなってきたね」と言ってもらった。ようやくイメージする前衛に少し近づけたような気がします。津野先生、私を北越に呼んでくださり本当にありがとうございます。

04_2

私はずっと憧れていた。コートで、選手として、後ろの応援を背に、すべてを信じて戦うこと。やり切って後ろを振り返ってチームや応援してくれる人たちにガッツポーズをすること。それに応えてガッツポーズを返してくれる先輩たち仲間たち…こんなにも幸せなんですね。だからこそ、私もっと頑張ります。もっともっと強くなります!(2年 佐藤莉穏)

2019年10月13日 (日)

Dream Factory 2019 野分

秋季地区大会

 今年は大きな出遅れからのスタート

 それを支える3年生の「恩送り」

台風19号が日本を襲い、裏側であるはずのここ新潟も各地で河川が氾濫、私の住む場所にも避難勧告が出ています。当然部活は中止し、時間ができたので、ブログを更新します。

秋の地区大会が終わり、茨城国体も終了し、水澤と冨樫は最後の戦い=来週末の全日本(天皇杯・皇后杯)、新チームは進路が決まった3年生の力を借りてその次の週の県新人戦に向けて、日々精進の毎日です。チームを引っ張ってきた3年生が抜けて、まだまだ本物の力がない新チームは、地区大会でジュニアの経験豊かでセンスのある選手が多い巻高校に惨敗しました。今年の新チームのドラマは、久しぶりに大きなビハインドからのスタートです。同じ地区内でもずっと前を走っている巻高校、背中はまだ遠いです。問題は山ほどあり、それゆえ課題は常にあるのですが、1年生2年生の意識がかなり進化してきて、その成長に驚くことが多くなってきました。人としての成長、それがテニスの大事な場面で生きる、だから自分の小ささ、自分の幼さ、自分の至らなさに気付き向き合うことが何より大切なんだ、こう考えるのがチーム北越です。夏を越えていく中で、先輩や仲間からの多くのエネルギーと思いをしっかりと受け止め、受け入れ、自分と向き合う力に換えていける子が多くなってきました。失敗はいいのです。何度失敗したっていいんです。その自分を超えていこうとする思いが本気ならば。その思いさえ日々紡いでいけば、必ず花は咲くのです。悔しさと強い向上心、特にこの思春期にその経験が深いほど、人はたくさんの人を振り向かせられる美しい花を咲かせるのだと思います。この力が必ずテニスにも人生にも大きな力となって、将来、どんな世界に生きようとも状況をプラスに変えていける人になっていってほしい。これが決してブレることのないチーム北越の願い=哲学です。

秋季新潟地区大会 

シングルス 1位  鈴木唯香 

      3位 星野結衣

ダブルス  3位 星野結衣・佐藤莉穏

Dsc_8594_2

Dsc_8636_2

Dsc_8630_2

新潟地区では巻高校に大きく出遅れている北越の新チームですが、あちこちに来年の花の気配が(まだつぼみですらなく気配ですが)現れてきています。

まず優勝した巻のエースに、1年生ペアの高野凛・高橋咲羽が準々決勝で競り合えたこと。二人は中学からテニスを始めた子で、巻のエースとの中学時代の実績を相撲で例えて比べると大関と序二段ほどもあるでしょう。G2-3のP3-0、あのゲームを取り切ってファイナルを戦えると面白かったと思いますが、まだまだテニスの力不足、「人として」の力不足です。

その高野のノートです。

ダブルスのベスト4決めで巻高校のエースに負けた。G2-3のP3-0、あと1本でファイナルだ。そこで私のトップ打ちが力んでネット。ここだって時に決めきれない。

今年の県総体団体決勝。1-1の三番勝負の緊迫した試合。流れが相手に行きかけた時に、田中先輩が打ち込んで相手が全く動けなかったトップストロークに憧れて、今まで磨いてきた。前日の練習でも一番最後に田中先輩にボール出してもらって合わせた。そして技術も確認した。田中先輩には「明日、試合で使うんだよ! 頑張ってね!」って言ってもらっていた。それなのに、また力んでネット…。自分の壁を自分でわかって乗り越えていくのが「北越」。私はそれを超えられなかった。もっともっと自分を追い込んでスキルを上げていかなくちゃ。

Dsc_8517

シングルスの2回戦、相手は中学生の時どう頑張っても勝てなかった子だ。夏これだけ頑張ってきたんだから絶対!と思って臨んだ。長いラリーになった。攻め続けていた。けど、やっぱり最後は自分の力み。ダブルスと同じことが起こる。今回の大会でわかったことがある。自分は同格や格上の相手との試合で競っている場面で力みやすいということだ。成果としては最後までキーワード言いながら気迫出して戦えたことだ。トップ打ちも何回打ち返されても泥臭く相手のコートに打ち込んだ。そこはこの夏を通して成長できたような気がします。

北越らしさ、私は表現できた所もできなかった所もある。シングルスでの唯香先輩(鈴木)の優勝は、私たちに「北越らしさ」を見せてくれた。準決勝→決勝、相手は巻高で、前日のダブルスの決勝を巻の同校対決で戦ったスキルの高い相手だ。唯香先輩はチェンジサイズの時ノートを必ず開いていた。後で聞いたら、「冨樫先輩の思い、そして何度も自分に負けた悔しさ」その思いを確かめて絶対超えてやると思って気を引き締めていたそうだ。泥臭く粘り強く、1球1球に思いを込めて、だからこそチーム全員で一つになれる。こういう戦いを春には全員ができるように、秋の悔しさを絶対に忘れない。

Dsc_8578_2

シングルスでびっくりしたのが、1年生の近藤が前日ダブルスの優勝ペアの一人に勝利したことです。初戦だったので相手も油断していたと思いますが、勝ち切るまで集中を切らさずよく頑張りました。ただ、番狂わせを演じたのに次で負けるのは本物の力ではない証拠です。

近藤は本当に全く実績のない選手で、ただただこのチームに憧れて北越に来た子です。身体も固く、頭も固い。固いことだらけですが、意志も固いのです。「人として」の力にも大きな潜在力を感じます。人間は何もかもダメなどということは絶対になく、必ず素晴らしいものを持っています。それを芯にして自分の幹を作っていけば、3年間のドラマの中で必ずいいことありますよ。

それから、これも1年生の斉藤菜月が前日のダブルスでベスト8に入ったスキルの高い選手にファイナル3-6のマッチポイントを握られながら、一つひとつ挽回して逆転で勝利した試合には感動しました。斉藤は広島から来た子です。北越はインターハイ前に「どんぐり北広島チーム」に行き、そこで力をつけてもらうことが多いのですが、その際地元の中学校が練習に来ていたことがあり、斉藤の一つ上の岩田栞という子が北越の練習をコーチと二人でじっと見ていました。

Dsc_7113

こんなチームで自分もテニスを続けられたらと思ったそうです。普通は思っただけで終わるのですが、コーチにも勧められてはるばる北越に入部したのです。とても感受性が豊かで、学力も高く、自分の思いや考え、将来の展望もしっかり自分の言葉で伝えられる素晴らしい子です。新潟高校と合同練習をした時にいくつかのテーマでディスカッションを組んだのですが、一番生き生きと楽しそうにテーマを掘り下げていたのは岩田でした。新潟高校の監督の石崎先生(元日体大キャプテンで、私の恩師です)にもとてもかわいがってもらっています。ここで人間形成を学びながら学力をつけ、将来は世界の平和と貧困の問題に貢献し、そして最終的には地元に戻って先生になりたいという夢を明確に持っています。今、チームの部長を任せています。

斉藤は同じ北広島町立豊平中学校の後輩です。岩田も斉藤も広島での実績はありません。強くなりたいなら、広島にも強い学校はありますし、中国近畿はソフトテニスの強豪校がひしめいています。なぜ北越に? コーチがおっしゃるのは「北越みたいなチームって、全国いろいろ探しましたけど、ないです。だから北越でテニスをやらせたい。」ご両親も意志を尊重してくださって、寮生活をしながら一歩一歩、夢へ向かって成長しています。上半身主体の動きを下半身主体に、そしてインナーマッスルを使えるようになることが今の課題です。ハートがある子で、意気に感じることができる。

斉藤菜月のノートです。

今日はシングルスだった。初戦の相手は経験もセンスもある相手だった。昨日のダブルスでもベスト8に入っている。でも先生から「昨日見ていたらスキルもセンスも高い。でも間違いなくおまえの方が毎日自分と向き合ってきているから、粘って競り合いになれば勝つチャンスは必ずある。こういう相手に競り勝ったら、もう一度チャンスあげるから、意地見せてこい!」と言ってもらった。

Dsc_8473_2

プレーボールから気迫だけは一番出して「北越らしく」見ている人が元気をもらえるような試合をしようと思った。G2-0でリードしたが、調子を出してきた相手に次々とポイントを決められG2-3と逆転された。このゲームが一番苦しかった。しっかりやろうと思っているのに連続ダブルフォルト。今までの私ならここで自滅していたと思う。でも今回は自分の中から闘志が湧いてきた。

「こんな所でなんで自分に負けてんだよ!」「意地見せ

Dsc_8563_2

てやれよ!」そして長いラリーが続き、ファイナルに入った。シングルスだからすごいセルフトークをした。ファイナル前のベンチでは頭の整理をして、今何をすべきか確認した。何回も気持ち入れ直してギアを上げた。相手も負けたくない気持ちを出して攻めてきた。でも完全に自分との戦いだった。もうラケットを振り切ることしか考えなかった。セカンドのレシーブはとにかく「攻めの選択」をし続けた。序盤からしっかりラケットを振っていたことで、ファイナルの競り合いでも思い切ってラケットを振っていくことができた。でもファイナルP3-6で相手のマッチポイントになった。でもそのことが気にならないくらい戦いに集中していた。キーワードを言って目の前の一本一本を全力で戦った。そしてP7-6逆マッチポイント。最後の1球は自分でも「ここだ!」と思った所に打ち切れた。

苦しいときこそ逃げずに相手に向かっていく大切さをとうとう実感できた。

Dsc_8491

2回戦も競り勝って、昨日のダブルス優勝の若月さんとの戦いになった。まだまだ話にならないレベルで負けた。でも新潟へ来て初めて自分の力で全力を出し切れた。そして、先生に「今日は感動したよ。 団体ももう一度おまえにかけてみる!」と言ってもらえてすごい嬉しかった。かけてもらったチャンスなんだから、絶対にもっともっと向上してつかみきってみせる。これからも苦しい時は絶対にある。でも今日の試合と同じだと思う。苦しいからそこから逃げたらその後の感動はない。その苦しさに自分から向かっていく。苦しさや自分の弱さから逃げない生き方をしたい。

さて、このような1年生の成長の陰には、その成長を見守り支え叱咤激励する3年生の存在があります。ちなみに斉藤を「バディ」として指導するのは3年の清野です。この秋の地区大会直前の清野のノートです。

悔しい。こんなに悔しく思うのは久しぶりだ。斉藤をあそこまで下げてしまった。私の指導のレベルの低さ。キーワードを伝えても、なぜそれが必要なのかを指導しても斉藤はやれない。指導者としての悔しさ。先生はいつもこういう気持ちになっているんだろうな。だからこそ、先生は「やらない」瞬間を逃さない。全力で伝える。だからみんな必ずいつか進化する。私にはその熱がないのか。

「清野、おまえ、斉藤頼むわ」 そうやって初めて信頼されて任されたのに。斉藤を任せられて一緒にバディを組ませてもらって、指導者としての楽しみもわかってきた。斉藤は思いに応えようとしてくれるから、一緒の時間は楽しいし、向上があるとすごくうれしい。

けど今のままじゃダメなんだ。私の言葉は相手の心に届かない。斉藤も斉藤であまりにも問題意識が低すぎる。このバディ、今のままじゃダメだ。自分がどれだけ必死でも、相手の心に届かない必死さなら、それは一人よがりで意味ない。岩田のように、もっと熱く。もっと本気になれ!

Dsc_7799

先生から借りた資料の中で、なるほどと思ったことがある。「同じリズムで打つ」ということ。斉藤の大問題の三つの他に、「リズム」ってことを課題にした方がいいのかもしれない。どんなボールにも同じリズムで入れるように「準備を早くすること」。私も1年生の時に「リズムがない」って伝えられた。その時に先生から「リズムを自分のものにするには半年はかかるよ」とも言われた。私は実際もっとかかった。斉藤には、目の前の課題を克服させながら「リズム」をいつも感じさせよう。

Dsc_7812

北越には「恩送り」という伝統があります。これは自分が下級生の時に先輩から親身になって指導していただいた、上級生になって「恩返し」をしたいけれど恩を返したい先輩はすでに大学や就職で目の前にいない。返したい恩を下級生に「送る」=「贈る」それが「恩送り」です。もう十年も続いています。日本一の水澤でさえ1年生の時に大きな恩を受けており、その恩を何倍にも膨らませて下級生を指導しています。大きな才能がありながら、不器用でその才能の発揮の仕方を知らない1年生の星野を辛抱強く指導しています。また、北越は新入生にいろいろなことを教え指導するための「バディシステム」を取り入れています。一人の1年生に一人の上級生がつく。北越のテニスはかなり緻密で身体の内部操作の習得にも時間がかかるので、その一つひとつを丁寧に教え伝える必要があります。その責任を担うのが上級生バディです。バディを務めながら上級生は教育と責任を学んでいきます。その姿を見ていると、引退してからこれほど「人として」成長するのか、と驚き感動する場面がたくさんあります。

今年の3年生は6人います。このブログの中で、水澤、冨樫、田中、今井は団体メンバーとして活躍し、何度も名前が出てきていますが、清野美穂と入江ゆいほという二人の存在なしでは、今年のチームは語りつくせませんし、新チームの成長も決してありません。

3年間、北越というフィールドを全力で駆け抜け、そして今、全力で1年生を育てている二人にスポットを当てて、チーム北越の魂を別な角度から紹介してみようと思います。

Dsc_5265_2

清野美穂は、新潟市立大江山中学校出身。ソフトテニスは中学から始め、中学時代の実績はなし。チーム北越との接点は冬に毎年行っている新潟市協会さんが選出する新潟市(旧新潟市内)強化メンバーとしての合同練習です。これも「恩送り」の一環として中学生強化にチームとして毎年協力しています。清野はそこに参加して、いわばカルチャーショックを受けたのです。チーム全員が(これが一番大きな衝撃のようです)、全く手を抜かず全力でしかも笑顔で元気で厳しい道のりを歩んでいる。しかも手のかかる中学生に対しても全力で誠心誠意声をかけながら指導してくれる。こんな世界もあるんだと感動して、周囲の反対を押し切りチーム北越のメンバーになった子です。

Dsc_7482_3

入江ゆいほは、新発田市立本丸中学校出身、本丸中でレギュラーを務めていましたが、高校の上位でやっていくには相当の努力が必要なレベル。前衛でしたが正面ボレーができない前衛でした(笑)。北越との接点は当時の顧問の先生が熱心な先生で何度か練習を見に来たり合同で練習したことがあり、その時にやはりいい意味でのカルチャーショックを受けて自らの進路を電撃的に定めてしまった子です。周囲は「ついていけない」と反対しましたが、ブレることなく意志を貫いて仲間になりました。

僕は時々不思議な気持ちになります。この二人よりもはるかに実力も実績もあるのに、北越に誘っても「自信がない」という理由で自分の才能や経験を伸ばそうとしない子が毎年います。とても残念に思います。

Dsc_6313

一度しかない人生、一度しかない青春、もし少しでも才能や秀でるものがあるのなら、それを全力で生きなきゃ生まれてきた甲斐がないじゃないか。この二人には才能はありません。実績もありません。あるのは意欲と意志とカルチャーショックから来た感動です。僕の尊敬する評論家で武道家の内田樹氏がどこかの本でこんなことを言っていました。「人が人生を主体的に豊かに生きるために大事なことの一つは、自分に何かが訪れた時に、それを天恵(天から自分に贈られた恵み)だと信じられるかどうかだ」言葉は違うでしょうが、このような意味のことを書いておられて、僕は深く共感しました。自分の人生、周囲の人の生き方を見ていても本当にそう思います。ある扉のキーを目の前に置かれた時、勇気をもってそのキーを手にし、扉を開けるかどうかは、知識でも実績でもなく、自分に訪れたこの機会は天が自分にくれたギフトだ、そう考えることができるかどうか。自分はそこまで…、そう言って無難な道だけを積み重ねていったところで、その先にはまた無難な道が続いていくだけです。永遠に平坦な道…。それって生きてますか?

Img_0807

周りの反対を押し切って、Dream Factoryチーム北越の仲間になった二人ですが、現実はそれほど安易なものではありませんでした。1年時は試合にすらならず、技術の習得、フィジカルの成熟、メンタルの整え方、大失敗の連続でした。1年時から、この二人で組んできたのですが、お互いのちっぽけなライバル心が悪い方向にはたらいてしまい、とにかく仲が悪い。いつまでたっても我を立ててお互いを受け入れられない。2年目も上ったり下がったり、自分と向き合う日々が続きました。

大きく変化が見られてきたのは、3年になって(北越は新1年生が練習に参加する1月からは3年生です)、自分のバディが決まってからだったでしょうか。テニスノートを見ていると、その兆しが形になり、実際の思いになり、お互いへのリスペクトと信頼につながっていく様が、よく理解できて、読みながら何度も感動させられました。

3年になってからの清野のノートです。

Dsc_3437

入江と私は今日の練習で1年生に間違った指導をしてしまった。それを伝えてもらった後、驚いたのは入江の涙だ。入江の心の中で、強い後悔が生まれていたんだろう。その後、入江は自分の練習にも入らず、ずっと付きっきりで1年生に回り込みのステップを教えていた。入江は昨日も遅くまでノートの書き方を教えていたし、今朝もどうすれば分からせてあげられるか真剣に悩んでいる。本気でバディの1年生を成長させようとしているんだなって、入江の姿を見ているとよくわかる。だから、今日のコーチングの失敗は悔しくてたまらなかったんだと思う。

さっきのミーティングを通して、今までの自分は本当に何やってたんだってくらい、自分の小ささを感じた。ああやって一人ひとりが自分の思いを話して、私は3年生の変化を強く感じた。田中が鷲尾に涙を浮かべて伝えていた姿。冨樫の言葉には一言一言に情熱があって、ミスが続いて落ち込んでいた今井には「風花は逃げないで北越を選んだんだよ! でも3年になっても弱い心でコート立ったら、長商との決勝戦で、高校を選んだ時の勇気も風花の進化を信じて一緒にやってきたチームの心も全部壊してしまうことになるんだよ! 」って熱く伝えていた。その言葉はそのまま私に言われてるようで苦しかった。

私は3年にもなって、まだ自分を信じられないの?  自分でもよく分からなかった。本当に苦しい… 思いはあるのに、どこかで引っかかっているような… 

改めて考えてみる。

自分は何で北越に来たのか?

まず、中学でやりきれなかったからだ。テニスが好きで、好きだから精一杯やりたかったけど中学ではできなかった。冬の合同練習に参加させてもらって驚いた。あれだけ全員で本気でテニスに打ち込める北越のチームに入りたくて入りたくてどうしようもなくなった。自分が好きだって言えること、それは私にとってソフトテニスだ。それをとことんやり切ってみたかった。やり切らないまま諦めたくなかった。先生方には「おまえじゃ無理だ」「続かない」と言われた。両親には反対された。でも、周りの全ての反対を押し切って、両親に頼み込んで北越に来た。そしてこうしてずっと夢だった憧れの場所でテニスができてる。それなのに、まだ疑う心が自分を支配して、真っ直ぐにラケットを振り切ることができない。こうして最悪な形で高校テニス人生の幕を下ろすのか!

3年間北越でやってきて身に付けた力は必ず全国で通用する。それは中学校で実績がなかった多くの先輩たちが証明している。その可能性を封じているのは、全て自分自身なんだ!

なぜ、私は自分を信じて戦えないのか? 自分が勝ちたいとしか考えてないからじゃないのか。

Dsc_5171

庭野先輩は3年として、いつだって団体の夢を一番に考えていた。その思いがこのチームを全国の決勝まで導いたのではなかったか。私は今まで3年として団体にかける思いはどれだけあったか? 私が団体の選手かどうかは関係ない。何が3年だ! 結局、私は自分の個人戦のことしか考えていないじゃないか! 「この先輩たちと戦い抜きたい!」って私は1年生に思ってもらえているか。そういうチームを作っているか。そうでなければチーム一丸となって戦うことはできない。

私だって北越の3年だ。もう一度自分の姿を見直そう。周囲への声掛けはできているか? 自分に集中し過ぎてないか? 団体で日本一、そこにどれだけエネルギーを注げているか? 

3年の春季地区大会。二人にとってはラストの地区大会です。

Dsc_1477

入江は1年生の斉藤と組み、斉藤をよくリードして、巻高校のシードペアを破り自己ベストのベスト8に入りました。マッチポイントは入江の渾身のノータッチサービスエースです。一方の清野は期待をして2年生の佐藤と組ませて勝負させたのですが、ここでも上にある通り、自分を信じ切れずに競り負けてしまいました。

地区大会は、それぞれが下級生と組むことでペアに頼らず苦境を乗り切って戦い、その上で最後の県総体、と思っていましたが、一人はやりきり、一人はやり切れなかったという結果です。

その日の入江のノートです。

今日、地区大会が終わって、県総体のペアをどうしたいか、先生から聞かれた。ベストで戦えた1年生の斉藤と組むか、1年生の時から組んで二人でIHを夢見てきた清野と組むか。

美穂(清野)はこの地区大会、また自己ベストで戦えなかったという。私は菜月(斉藤)と組んで戦いきった。正直言うと、菜月と組んで出たらさらに自己ベストを更新出来るんじゃないかと思った。

でも、私だけ自己ベストで気持ちよく戦っても意味ない。美穂とは3年間本当にいろいろあった。一度も心を一つにして戦えたことはない。でも、庭野先輩が引退してからの夢が「清野と入江をインターハイへ」だった。私はこうしてたくさんの人に支えてもらった。迷惑も一杯かけた。ここで私が私だけの幸せを考えてしまったら、たくさんの人たちに申し訳ない。そんな生き方はダメだ。だから、私は清野とチャレンジすべきなんだ。目の前の勝利が大事なんじゃない。もっともっと大切なことがある。北越でそういうことを学んできたじゃないか。

先生、私、美穂と組んで最後の戦いをさせてください。お願いします。

その思いを清野に伝えた時、清野は嬉しくて申し訳なくて悔しくて、貴い涙を流しました。

入江は自分の決意に命を与えるべく、毎日を必死で生きます。清野はどうしても、申し訳なさがあるのか、退いてしまう。県総体1週間前。練習試合の帰り、上越市での調整練習の時、清野はチームとして取り組んでいることを忘れていて、1年生に申し訳ないから今日は打たないでチームのサポートに回りたいと言います。この時期にそんなことはありえない。僕が言う前に、入江が動きます。

3年としてチームにエネルギー与えられてないから、今日は打たない?

馬鹿なことを言うな!

打たないでサポートに回る時期か!  打たないでコートで玉拾いすることが何でチームのエネルギーになんの⁈

そういう女々しいこと、もう考えんな!

私が伝えたかったのは、美穂が大事なポイントが抜けていたことは、確かに1年生に見せる姿じゃないけど、でもそうだったという事実は仕方ないんだから、潔く認めて、次にどうしていくかを明確にしてほしい、ということ。

私が帰りのバスの中で話したのも「ブラックの(周りが見えなくなる短所)私と、女々しい美穂が、どう力を合わせて最後の県総体を戦っていくか」そういう前向きなことを話したかったんだ。

私は、もう昔と違って美穂の欠点や短所を否定しない。ただ、前を向いていこうと呼びかけている時は、それを感じて、ちゃんと私の目を見てほしい。精一杯プラスに向かうように伝えているんだけど、心に響いてないのは表情見てわかった。

でも、美穂、こんな状態でも、私、諦めたくないから!

私たちは、今試されてるんだよ。こういう状況でも前を向いて、1%でも2%でもIHに近づくために、心が一つになれないとしても、お互いの良いところを合わせて協力していこうよ! 北信越決めで当たる長商のレギュラー、二人で心を一つにして戦わなきゃ100%勝てないんだよ。

Dsc_8710_2

ただ、強く言うだけじゃ、私たち以前と同じだ。少し考えてみよう。美穂はたぶん、引っ張られるより引っ張っていく方がイキイキするタイプだ。1年生への指導とか見ていても、指示されるより指示していく方が良いんじゃないないかなぁ。それなら私は、上から伝えていくお姉ちゃんじゃなくて、妹をたてていくお姉ちゃんになろう。だから、あえて妹に頼って、頼んで、素直に「ありがとう」って微笑んで。そうしたら私たちうまくいくんじゃないか。

今日、いや今までも、私が美穂に上手く思いを伝えられなくて悩んでいた時、仲間はたくさん声をかけてくれた。

奈央、風花、莉穏、本当に本当にありがとう。こんなにも本気で、こんなにも心ある幸せな環境にいる。

私は、絶対チームのエネルギーとなるよう、全力で生きます!

美穂、この最高の仲間のためにも、私たち頑張るよ!

そして迎えた、最後の県総体個人戦。

練習ではもう一流選手並みのストローク力をつけた清野(実際、フォアストローク技術としては水澤の次まで成長したと言っていい)ですが、勝ち切った経験がないので、どうしても不安がぬぐい切れません。

Dsc_2900_2

初戦は負けるはずはない試合ですが、清野は相手と戦わず、自分と戦っています。それを救ったのは入江でした。1、2年生の時の入江ならば、自分が一人で何とかしようとして無謀な選択を繰り返してドツボにはまるか、相手に流れが行くので焦って一緒にミスを重ねるかのいずれかだったと思います。成長していました。二人は何度もベースライン上でしゃがみ込み、心を一つにしようと精一杯努力していました。入江は心の底から清野を励まし、エネルギーを与えつづけ、自分は冷静にラリーを続け、フットワークが浮ついて地に足がついていない清野のためにキーワードを叫びつづけました。ベンチには柳先生が入ってくださっていて、柳先生のこの言葉もとても効いたと思います。

「いいんだよ、3年間かけてきたんだから、そうなるんだよ。そうなったからダメなんじゃない。そうなっている中で何ができるかなんだよ!」

本当にその通りです。思い通りにならない時、誠実で真面目な子ほど、ああまただ、自分はまたダメだと思ってしまいます。それはダメなんじゃなくて、誰よりも自分と向き合い、自分の青春をかけてきたからこそ、緊張もし重くもなるのです。でも向き合ってきた強さは、その状態でも自分は何ができるか、ベストでなくても、今のベターを見つけてシンプルにそれをやり切る。そういう中で光が見えてくることもあるでしょう。

入江と柳先生、そして保護者の皆さんの応援で、清野は少しずつ落ち着きを取り戻していきました。そして逆転勝利!

1回戦。ここにも深い青春ドラマがありました。本当に「素晴らしい戦い」だったと思います。

2回戦は、北越の美しいストローカーとしての本領発揮、清野ものびのびと戦い快勝!

ついに、優勝候補の一角、長岡商業との決戦に臨みました。二人は精一杯、北越らしく、3年間の誇りをかけて戦い抜き、敗れましたが、二人のドラマを自己ベストで締めくくりました。

Dsc_2936

入江のノートです。

夢、叶えられなかった…

悔いがないなんてことはない。でも最後をベストで戦えたっていう清々しさがある。

Dsc_2943_2


私は高校最後の試合を美穂と組んで戦えて本当に良かった。あの時、美穂を選んで本当に良かった。

正直、1試合目はどうなることかと思ったけど…  美穂も最後の長商戦は信じて打ち切れたね!

3年間、ケンカばっかりしてたね。本当にいろいろあった。でもここまで来れた。こうして最後の試合を美穂と戦って楽しかった!  ありがとう! Dsc_2970

応援してくださったたくさんの保護者の皆さん、先生方、庭野先輩、ずっと気にかけてくれたチームのみんな、本当にありがとうございました。私はここにいて、ここで戦って、本当に幸せ者です。たくさんの心、本当にうれしかったです。

さあ、いよいよ団体戦だ。「今年のチームは私たち6人のチーム。」奈央がずっと言ってくれてる言葉だ。3年の選手4人が、1年生のこと、チームのこと、私に任せたよ!ってくらいに頼れる存在になってこのチームを下支えする。それが私の団体戦だ。そしたら選手たちは思い切り相手と戦ってくれる。

よし、心を一つにして6人で宮崎IHへ!

ニュースにも話題にも賞状にも、何にも残らないけれど、こんなに素敵なDreamが今年花開いたのです。不利がささやかれながらも団体は圧勝。それは団体メンバー3年生4人だけで成し遂げたものでは決してありません。脈々と引き継がれている「北越魂」それは「泥臭く自分と向き合う強さ」です。

「自信がない」と言って自分の才能を磨こうとしない若者は、ひょっとするとこの「泥臭く自分と向き合う」ことを避けたいのかもしれません。確かに昭和的ですし、カッコよく見えないのでしょう(僕的にはメチャクチャカッコいいですが)。もっと「自由に」「スマート」にやりたいのかなあとも思います。でも、このスマートで便利で合理的な方向へすでに振れすぎている現代文明という水質の中で、それでも我々は「命」として他の「命」とかかわっていかねばならない。「命」と「命」が深く分かり合い結びつきあうためには、言葉が必要です。ただ、言葉が上っ面を滑らかにすべっていくのではなく(それでは信頼は成立しない)、他者の心に入っていくには、そこに深い経験が伴わなくてはならないでしょう。深い経験とは自らと向き合うこと以外に獲得できるものではない。いくら辞書の言葉をたくさん覚えても、いくら外国語の語彙や様々な知識を頭に入れても、人の心を動かすことはできません。他者の中に勇気と希望を生み出すことはできません。大切なことを他者に伝えたいのなら、自分と他者との関係の中で、自分が伝えたい言葉や考えと格闘することです。

小学校からすべての教室にエアコンが入り、高い気温の下で運動をさせれば親から苦情が寄せられ、朝は皇族のように学校の玄関前まで送迎され、教師は思いがどうであれ強い言葉で生徒を刺激してはならず、部活動の時間も「当局」の指導によりどんどん制限される。子供たちは小学校からスマホを持ち、バーチャル空間こそが本音であってリアルは「つくろう」世界であるかのように振る舞う。現代の子供たちが置かれる環境は、どんどん樹脂のように滑らかになり、凹凸は拒絶され、リアルなざらつき、泥臭さは敬遠されてゆくのかもしれません。しかし、dream factory の卒業生はとても精神的に自由で、ほぼ例外なくリーダーを任され、社会に開かれて生きています。人生の「観」を作る大事な思春期にしっかりと自分と向き合うことは、「生きていく根源的な自由」を手にすることなのだと信じて疑いません。

Dsc_8682

私が教室やコートで出会う若い「命」たちに、全身全霊で「命の何たるか」を伝えるのも、あと数年となりました。私は最後まで「泥臭いFactory」でありたいと思います。時代の流れに反するそのエネルギーの源は、実際の生徒たちの変容です。今回紹介した清野美穂は言葉は悪いですが、入ってきたときは「ただのクソガキ」でした。憧れだけは強いけれど、何もわかっていない幼稚な子どもだったと思います。それがこのFactoryで育ち、泥臭く自分と向き合い大きく成長していった。彼女は学校からも推薦され看護の道を歩むことになりました。

Dsc_6931_2

看護の実際の現場は、まさに文字通り「命」に係わる誠実な言葉と行動が求められます。自分の弱さと格闘し、自分の闇も光も経験した彼女は、きっと「命」に届く心を持つ素晴らしい看護師さんになるでしょう。入江ゆいほは北越で過ごした3年間で、やはり自分はスポーツの世界で誰かの役に立ちたいと思うようになりスポーツトレーナーの道を歩むことにしました。

すみません。時間があるからと、かなり筆が走りすぎました。

最後に「恩送り」に誠実に取り組んでいる清野のノートを紹介して今回のブログを閉じたいと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今日はフリーだったので、夕方中学校へ行って卒業時に担任だった先生と話をしてきた。その先生は、他が全員反対の中で唯一私が北越でテニスをすることを応援してくださった、本当に私の信頼する先生。最近、自分の気持ちの中に、自分の言葉が後輩の心に届かないという「もやもや」があって、それを相談しに行った。答えはシンプルだった。「相手に変化がないのは、自分自身に問題がある」ということ。「相手のこと本当に理解しているか?」と聞かれた。私は後輩の問題は知っている。けれど、どう思っているのかというところまでわかってあげられていない。

一番は信頼関係。そして、相手を変えたいなら、まず自分自身が変わること。

先生は、私の何百倍何千倍ものたくさんの様々な経験をしてきている。だから、あらゆる方法や道を提案できる。逆に言えば、私は先生の何千分の一の経験しかない。私が希望する進路は人に希望と元気を与える仕事だ。私自身、もっともっと知識をつけて、いろんな見方ができるようになりたい。だから、今、本を読みたいと強く思う。広い視野を身につけたい。

そして、もう一つ。たとえ変化がなくてもその人がダメだと思ってはいけない。そうすると、相手の悪いところしか見えなくなってくる。良いところを見失ってしまう。その結果、相手が変わろうとするきっかけの瞬間を見過ごし、相手も変わろうとする気持ちが薄れるということ。このことは逆に、いかに信頼関係が大切かということだ。津野先生も庭野先輩も担任の先生も、信じているから心に言葉がしみ通ってくる。そのくらいの揺るぎない信頼関係を築くためには、まだまだ自分が変わっていかないとだ。

※ 練習見学、進路相談、受け付けています。

  北越高校 025-245-5681

  メール  seiji.tsuno@gmail.com

2019年8月13日 (火)

Dream Factory 2019 盛夏

チーム水澤 宮崎IH報告

団体戦

2回戦 北越 1-② 脇町(徳島県)

    鈴木・佐藤 0-④

    水澤・今井 ④-0

    田中・冨樫 3-④

宮崎での暑い真夏の戦いから2週間。国体選手はブロック国体突破を目指し、新チームは新たに鈴木唯香キャプテンの下、新チームの基礎作りに励んでいます。2週間前、初戦で敗れた宮崎IH、すでに遠い昔のようにも思えます。団体戦、2回戦で徳島県脇町高校に1-2で敗れました。思い返せば1年前、三重IHの初戦も非常に危ない試合でした。勝ちを意識するが故の初戦のぎこちない戦い、相手は1回戦を勝ち上がってきた勢いと慣れがある、その危うい試合で勝ちを拾えるかどうか、それが導火線に火が付くか、付かずに消えるか、大きな分岐点であり、その明暗が昨年と今年、勝負は紙一重なのだと思います。

Dsc_5576_2

Dsc_5633_2

選手たちは特に3年生が「最後」のパワーを発揮して戦ってくれました。キャプテンでエースの水澤奈央のみならず、県総体の記事でも紹介した今井風花、田中遥奈、すばらしい気魄で北越魂を表現しました。負けた後、悔しさでしばらく正気に戻れなかった冨樫春菜も決して戦いから逃げたわけでも弱気になったわけでもありません。強気にラケットを振り、持ち前の気魄を出して戦いましたが、最後のところで小さなミスと判断ミスが重なりました。この「炎の3年生」と少しでも長く戦いたいと願っていた2年生の鈴木唯香、佐藤莉穏、この二人は選手として出場しましたが、チーム北越として戦うことはできませんでした。いろいろ敗因はあげられますが、今年のチーム北越の3年生が、北越らしく「自分と向き合い」「人間としての成長を果たし」「誰かのために」全力で戦い抜いた結果ですから、そこに至るまでの日々、そして最後のIH、これからの人生、

すべてにSAY YES! 

チーム北越、チーム水澤、よく頑張ったな!

キャプテンとしてエースとしてチームを率いた水澤の前日と当日のノートです。

明日がいよいよラストのIH団体戦。すべてはこの日のためにやってきた。1年生の時はなつき先輩と「次は絶対!」の思いで戦った。2年生になってキャプテンとしての責任を果たす厳しさと楽しさを知った。そして3年目。1,2年生の時よりもスキル、フィジカル、タクティクスも高め、ブレインもハートも強化してきた。

その3年間すべてをラストのIHでコート上に表現しきる!

私はこのチームで、この仲間と一緒に戦えること、何よりもそこに感謝したい。先生、キャプテンを任せてくださってありがとうございました。「北越高校に来て良かった。この仲間と本気で全力で夢を追ってきてよかった。」その思いをコートで表現します。

すべての感謝、思いを一球に込めて!

最後のミーティング、みんなの熱い思いを感じることができた。今年のチームスローガン「やり切って日本一」、それぞれが「自分のやりきること」を宣言したけれど、言ったならやれ! 宣言は自分自身への誓いだ。

去年の先輩たち、苦しい時こそラケットを振っていく姿が本当に格好良かった。あれくらい本気であれくらい泥臭く戦い抜くことが「北越らしい」。

私たちを応援してくれている人たちがたくさんいる。

勝負強いかどうかは「執念の差」

私には意地がある。キャプテンとしての意地がある。絶対に負けられない、だからこそ面白い。ベストを出したい。

今日の個人戦も「ここで終わってたまるか!」と思ったら(6回戦で敗退)、すごく何かエネルギーが湧いてきて、どんなボールも拾っていけた。

明日はチーム水澤として最後の最後。悔いなく戦い切る!

「やりきって日本一!」

(7月31日)

◎南九州インターハイ団体戦 令和元年8月1日

Dsc_5599

Dsc_5609

Dsc_5754

日本一の夢が終わった。ずっと団体日本一を目指してやってきた3年間。本当にあっという間だった。もちろん準決勝、決勝を見ながら、「この場で試合をしたい」「エースとして思いっきりかけひきしたい」と思った。もっとこのチームで夢のような時間を楽しみたかった。悔しい…

でも最後の戦いで、私は自己ベストで戦った。そして何よりも風花(団体ペアの今井)が、ベストで戦ってくれたこと! スマッシュもコートを突き刺して次々と決めてくれたし、かけひきでも常に攻め続けた。今年の団体ペアとしての水澤・今井、今までで一番攻めていく姿を見せられたかなと思う。コートの上で、風花がスマッシュを決め、アタックをばっちり止めて、もう鳥肌が立った。いままでどれだけ弱気になり、自信を失うプレーをしてきたか…。それがこのラストでの強気の姿。本当にうれしかった。

ガッツポーズをして観客席を見ると、お父さんが大きな声でガッツポーズをして喜んでくれている。一緒に戦ってくれている人がいる幸せ、誰かのために戦うことの楽しさ、それを実感できた。やっぱり北越の団体ってなると、何か自然にゾーンに入っていける。だからこそ、五十嵐さん(毎年北越を応援してくださり、プロ級の写真を多数贈ってくださっていた五十嵐広之さん。昨年暮れに逝去)に日本一の風景を見せてあげられなくてすみません。「誰かのために」それを力にできる北越、後輩たちがいつか必ず実現します。

2年生の鈴木、佐藤は今回の失敗経験から大きく変わってくれることを期待したい。インターハイのその1球、その判断、すべては日ごろの自分が全部出る。

後輩に改めて伝えたい。やってきたことだけしかできないんだよ。日ごろから「やれませんでした」「やりきれませんでした」という人間にIHの舞台でできることなど一つもないから。

私の最後のIHは一生忘れられない悔しい思い出になってしまったけれど、改めてこの3年間やってきたことは間違ってなかったと実感する。北越でテニスをやる価値っていうのは、日本一を目指せるということじゃなく、日本一を目指しながら人間的に大きく成長するということだ。1、2年生はそこに早く本当に気づいて、自分の人間的な課題に真剣に取り組み、人を幸せにする努力を積み上げてほしい。それが「日本一」にも「人生」にも大事なんだってわかってほしい。

このIHの悔しさからもエネルギーを集められる。それが北越。

「あらゆることから力を集めて光を放て!」

後輩チームは来年へ向けての戦い、私自身は、国体、日韓中国際大会、全日本、まだまだ戦いは続く。

「やりきって日本一!」このスローガンは、まだ私の胸の中に生きている。

(8月1日)

Dsc_5649

Dsc_5659

Dsc_5655

Dsc_5604

最後に、この水澤のノートに僕が書いた返事を載せます。

日本一を目指して本気で生きた毎日、その妥協のない一瞬一瞬。君が育った道のり、君から教わった選手としての生き方。そのすべてが光にあふれたものであり、これで終わりかと思うと寂しくもあり、同時にやりきったという清々しくもあります。

最後は戦いの途中なのに先へ進めなかった、という終わり方だったけど、日本一という目標を本気で叶えようとして全力で生きた日々は紛れもない事実だと胸を張って言うべきです。その結果、叶った夢もあり、叶わなかった夢もある。叶った夢だけが貴いのではありません。本気で生きた日々こそが貴いのです。

君はいつも、どんな状況にあっても、どんな苦境にあっても、決してあきらめなかった。自分を信じ、チームを信じ、幼い後輩たちの成長を信じ、真っ直ぐ前を向いて、あらゆることの推進エネルギーを燃焼させ続けてきました。

誰よりもガッツを前面に押し出し、他人には優しく厳しく、自分には厳しく厳しく、心技体智、すべてを磨いて、人間的にも深くたくましく思いやりのある人に成長しました。

僕は、あなたのような人が全日本のキャプテンになるべきだと思います。あなたがエースとしてキャプテンとしてアジア大会やオリンピックで金メダルを獲ること、その日を楽しみにしています。

全国区の高校からの誘いも断り、地元新潟で自分を磨くことを選択し、そして手にした二つの日本一とキャプテンとして導いたインターハイ団体準優勝。君が示した生き様は、たくさんの地方で頑張る選手や家族に希望と勇気を与えるものだと思います。

素晴らしい3年間でした。

本当にありがとう。

君に出会えてよかった。

◎今年のIH旅行は憧れの屋久島へ行ってきました。

Dsc_5761_2

Dsc_5904

Dsc_5982Dsc_5819

Dsc_6004

Dsc_6070

Dsc_6023

Dsc_6151

2019年6月26日 (水)

Dream Factory 2019 初夏

2019 ハイジャパ シングルス

水澤奈央 女子で史上初の連覇!

Dsc_4532_2

無欲で戦って届いた去年の日本一。狙って果たした今年の日本一。

水澤奈央が、札幌で行われたハイスクールジャパンカップ2019 シングルスで、高校女子史上初の連覇を達成しました。

 ※結果は北海道ソフトテニス連盟のハイスクールジャパンカップのサイトに載っています。

Image1_8_2

スコア上では競った試合は一つもないのですが、初戦から厳しい試合が続きました。本人曰く「全てファイナルを戦った感じ」の試合。ベスト4に残った1日目、脚部疲労を聞いたら「脚は大丈夫ですけど頭が疲労です。」と言うのです。それほどの神経戦。敵の良さを理解した上でそれを封じ込め、多彩なショットで相手を追い込んでいく。最後は相手に試合をさせないでゲームを支配していきました。

ストロークのボールのスピードだけなら、水澤より速いボールを打つ選手はたくさんいます。脚の速い選手もたくさんいる。しかしシングルスの強さは総合力だと、彼女の試合を見ているとよくわかります。フォアハンド・バックハンドストロークの正確性、フットワークの使い方、テンポコントロール力、身体の敏捷性とバランス感覚、ショットのバリエーションとその構成力、さらに予測能力、最後にメンタルタフネス。その全てを彼女は昨年の「予想外の」優勝から、1年かけて磨いてきました。昨年度優勝はしましたが、明らかな課題としてクローズアップさせられたバックハンドストローク、柔らかいタッチのドロップショット、スライス、そのすべてを向上させて、同じ日本一でも進化した日本一だったと思います。

Image2_6

うちのチーム内に水澤と互角に打ち合える選手はいません。この時期、シングルスの練習に多くの時間は割けません。それでも正しい理解と問題解決型の練習の積み重ね、そして何よりもチームや後輩の様々な欠点や不足をキャプテンとして真剣に考え、適切なアドバイスをしながら、その過程をも自身の成長に組み込んでいく。そのような日々の充実こそが水澤の強さの源泉です。

今回の決勝の相手、岩国商業の山田さんも地元で頑張っている選手だと聞いています。素晴らしいファイターで決勝に来るまでの間に何度も窮地があり、その厳しさを高いコートカバーリング能力と精神力で乗り越えてきたように感じました。全国区の学校ではないチームの選手同士で決勝を戦えたことを嬉しく思います。水澤は以前から山田さんを知っていて、ひたむきで誠実な練習態度に共感して「決勝で会おうね」とお互い言い合っていたそうです。

水澤のテニスノートから

連覇って自分に言い聞かせてきたけど、苦しい時期もあった。不安な時期もあったし、自信を失いかけた時もあった。だけど、そうやって苦しみながらもチームのことを第一に考える中で自分の時間を見つけてシングルスの技術を磨いてきた時間は、今振り返ってみて、やっぱり幸せな日々だったと思う。こうやって連覇できたこと、それは本当に本当にいろんな人の支えがあったからこそ。先生、朋恵先生、チームのみんな、家族、友達、いつも応援してくれるすべての人たちから、いつもエネルギーをもらって頑張れた。本当にありがとうございました。でもダブルスの優勝は叶わなかった。この夢は必ずインターハイで実現してみせる。まだまだ、お前は弱い! もっと本物になってみんなを日本一に導いて、ダブルスでも冨樫と日本一になる。今のままじゃまだまだ。もっともっと上へ。

今年のハイジャパは天候不順で、土曜日の日程がすべて中止→延期になりました。せっかくなので、北海道博物館と隣接する北海道開拓村へ行ってきました。

Dscf4277

北海道開拓の歴史は本当に奥が深かった。先住民のアイヌの人たちの大地を和人たちが侵略し、貴重なアイヌの文化が失われたというイメージをずっと持っていた。博物館でもその思いは強くなって人間の文明の広がりの裏にある負の面を思い知らされたけれど、その後連れて行ってもらった北海道開拓村では開拓していく人間のエネルギーと活力を感じることができた。

伝統と進化。どちらも大切なんだと思う。北越に来るまでは新しいもの大好きで、古いものにはあまり興味ない人間だったけど、先生の好みの「古き良きもの」に触れていく中で、伝統の継承と新しいものの追究がどちらも大切なんだと思うようになった。革新ばかりにも保守ばかりにもとらわれることなく、どちらも大切にしていく人間になりたい。

ダブルスは、水澤奈央・冨樫春菜がベスト8。まだまだ課題山積みです。夏の宮崎に向けてまた宿題をたくさんいただいてきました。あと1カ月、日々精進、日々ベスト、一歩ずつトップのチームに追いついていきます。

北越は夏のヒマワリ。冬~春にかけてチームみんなで耕した極上の畑で、これからぐんぐん伸びていきます!

遅ればせながら…

県総体 8連覇!

3年生6人で引き継いだ「向き合う強さ」

Img_6947

県総体 団体決勝

 北越 ②-1 長岡商業

戦いが終わった夜、北越の関係者ではない方から、メールをいただきました。

夜分すみません。おめでとうございます^_^お疲れ様でした!
今年の試合は、多分私が初めて見る北越でした。津野先生でした。あの厳しい中をどう戦い抜くのか本当に楽しみでした。崖っぷち。背水の陣にあえて布陣を敷いて臨む闘将。そして信じて突き進む選手。私にはそう見えました。勝手な解釈すみません。でも感動したんです。あんな水澤見たことない。緊張と責任感と。そしてアップ中の冨樫。もしかして1番強いのは冨樫選手かもしれない。そう強く感じさせられました。今井の苦しみ。田中はほぼノーミスですか。あれだけ調整に苦しんだ彼女が選んだ道はペアを信じて黒子に徹したプレー。支えるという役。いい戦いでした。ありがとうございました。

今年はシード大会の結果から、第2シードとなり、第1シードの長岡商業に挑戦する形の県総体になりました。厳しい状況でしたが、県総体で見せた3年生の姿はやはり、この北越Dream Factoryの魂をしっかりと受け継いだものでした。

団体戦、特に決勝の長岡商業との試合の主役は、前日の個人戦優勝:水澤、冨樫ではなく、3年生の今井風花、そして田中遥奈です。

別な方からいただいたメールにはこうあります。

特に今井のプレーに感激しました。というより、驚きました。あそこまで力を出せる選手だとは思っていなかったです。インターハイでも是非熱戦を繰り広げてください。応援しています!

第1対戦で、1年生の星野・高橋が善戦及ばず長岡商業のエースに負けて、0-1の崖っぷち。そこで見せた第2対戦、今井の一つひとつのプレーは気魄あふれるものでした。ベンチにいても、鳥肌が立ちました。気弱で逃避体質だった今井が大舞台で見せた闘志あふれる堂々とした戦いぶり。向き合い続けた2年間を経て、彼女も北越魂をしっかり身に着けていました。一番大事な場面で自分の一番を出せる、そのために彼女が弱い自分と向き合ってきた日々の一端を紹介します。

北越は新入生が入部してくると、バディとして担当の上級生をつけます。バディの下級生の指導を上級生が責任を持って行う。その中で新入生もそして何より上級生の自覚と責任感が育っていきます。今井も例外ではありませんでした。バディの1年生は多くの問題を抱えていて、今井は悩みます。でも、その悩みの中で自分に眠っていた責任感と自尊心が芽生えていきました。

今井風花のノートから

今日は1年生が入学して初めて全学年が揃って練習した。改めて、もう3年か…と思った。北越に来てもう2年が経つ。3年としての自己改革に取り組んで1週間。2年の時は、教室とテニスコートとの違いをなくそうと努力したけど、今はそれほど差はない。体育祭の係を決める時、今回は真っ直ぐ手を挙げて「はい!」と言った。私はどうしても周りの空気が気になる。でも、1年生の鶴巻とバディになって鶴巻に課題を出しているんだから、私が自分の課題から逃げるわけにはいかない。まずは自分がいうべきだと思ったことは、たとえ空気が固まってしまうとしても言うこと。(4月8日)

信じて戦う選手に! 3年としての思いを姿で見せる! コソコソ人間脱却!

私は団体戦で戦いたい。でもこの願望だけでは3年にのしかかる重さに勝てない。それが高校のスポーツなんだと、今はよくわかる。思いがいくらあっても、口でいくら強い言葉を言っても、不誠実なことを見逃していたら、一瞬で夢は後悔に変わる。

全国選抜の後、田中は先生と話して覚悟を決めた。そして「信じて打ってみろ」と言われて、そこから信じて打ち切れるようになったと言っていた。たった一言だけだけど、心がこもった言葉を心で感じれるようになった。私は悔しいけど、まだそこにはいない。

でも私はそこに行きたい。

最後の団体戦決勝で、北越の3年として、ただ勝つだけじゃなく、北越らしい桁違いの気迫。たとえミスがあったとしても、私はここにボールを突き刺す!という意志を持ってプレーし続ける。チームも巻き込み、周りの人たちも一緒に巻き込む試合。

私は今まで周りの人をガッカリさせる試合ばかりしてきた。これを変えたいんだ。みんなが両手を突き上げて「ウォー‼︎」と喜びを爆発させる試合。その日に向けて、全力で頑張りたい。バディの鶴巻も私が出した課題をやっているんだって思えば、毎日決めたことはやりきらなきゃ!

このノートを記したのが4月の中旬です。その50日後、ここに書いてある通りの試合を彼女は現実にしたのです。あまりのイメージの一致にこちらが驚きます。Dreamがまず強くあり、そこに向けて日々を力強く誠実に生き抜く。それが北越の強さだと思っています。

Img_6281

(キャプテン水澤とマネージャー2年の岩田のノートをコピーして全員に配った翌日、今井はそれを自分のノートに貼り付けてこう書きます)

風花は最近、少々身体が調子悪くても「○○が痛い…」って弱音を吐かなくなった。今年が最後の全国チャレンジ、絶対一緒にIH行こうね! でも今のままじゃ無理だよ。小さな小さな自分から抜け出さないと! 鶴巻に風花が言っても伝わらないのに、栞(岩田)が言うと伝わる。何でかわかる? 風花が甘いからだよ。もう人からどう思われるかなんて気にしなくていいから、風花が正しいと思ったこと、伝わるべきだと思ったこと、その人のために、チームのために、なにより風花のために、熱く伝えるんだよ。(by 水澤) 

これを読んだだけで、私=今井風花という人間がどういう人間かがわかる。

2年から団体戦では奈央と組ませてもらっている。その最後の戦い、同じ瞬間を同じコートで喜びあいたい!

栞も熱く熱く伝えてくれた。

Img_6285

風花先輩、もうラストですよ。先生が来てくださって、その挨拶の時に、1年生に向けて風花先輩の例を出されて話をしてくださいました。それは先輩へのメッセージも含まれていたと思います。そう強く感じました。風花先輩、今年の日本一へのキーは先輩が握っていると思います。去年の悔しさと感動を思い出してください。このままでいいわけはない。言ってやりましょう、やってやりましょう!  今年、あの舞台で最高の笑顔でガッツポーズをしているのは私だ! と。(by 岩田)

先生、今のこの状態では信用してもらえないかもしれません。でも、私は去年の木村先輩のように、先生を信じて戦い抜きたい!  チームのために、私自身のために、何度失敗しても見捨てないでチャンスを与え続けてくれた先生を信じて、今井風花を表現したい! (4月15日)

Img_6231

こんなにストレートに自分の熱い心を表現できるようになっただけでもすごい進化なのですが、それでも、今井の臆病は形を変え品を変えて現れ、彼女やチームを失望させます。ただ、今井の真っ直ぐな心は3年生になってからは一度もブレたことがありません。七転び八起き、決して苦境にへこたれない北越魂が今井の心に宿り、育っていた証拠です。

県総体の個人戦、田中と組んでIH行きを決定した後でも、まだ自分と闘っていました。そして迎えた崖っぷちでの団体戦。

戦いの最中に何度もペアの水澤が口にしました。「ホントありがとう。マジ助かった!」 今でもアリアリと思い浮かびます。プレーボール1本目の気魄あふれるアタック止め! 誘いこんでのはじき出しボレー。ローボレーはノーミス。最後はスマッシュフォローでゲームセット。

見ていた人を感動させた彼女の県総体前日の思いです。

今日は県総体前日。

今日1日、ずっと緊張していた。3年の県総体って、こんな気持ちになるんだ。胸が高鳴って、落ち着きがないのを自分でも感じる。

でも、楽しみだとも思う。

チャンスをつかめなかった1,2年の頃、私は北越の良さに気づけなかった。今ならよくわかる北越の厳しさと優しさ、幼稚だった自分にはそれが苦しかった。

でも今の私は違う。

私自身の技術はまだまだだけど、信じて戦い抜くってことが少しずつわかってきた。向き合い続けてきた強さってのもわかる。一人の問題をチームで向き合う。だから一人の成長はチームの成長だ。

木村先輩からもメッセージをもらった。

「風花はたくさん乗り越えてきた」

とてもシンプルな言葉だけど、この言葉は私に強さをくれる。Img_6242_2

北越の強さと誇り、私が長岡のコートで表現する‼︎  北越に来て良かった。それをコートで表現して見せる。

県総体で元ペア(中学時代のペア)と当たるのは運命だ。

お母さん!  いつもいつも期待を裏切ってごめんね。でも今度こそ、この一番大事な舞台で今井風花をコートの外で応援してくれるお母さんに見せるから。大きくガッツポーズして「ありがとう!」って心で叫ぶからね!

私は誓います。

今井風花は、どんな状況でも、北越の誇りを胸に戦いきります!  (5月30日)

Img_5814

もう一人の主役、田中遥奈。

田中の最初の覚醒が2年の夏だったとすれば、2度目の覚醒は春の全国選抜の後だと思います。

初戦で優勝した就実高校に0-③で敗退した夜、田中を部屋に呼んで、じっくり話をしました。叱るとか説教するとか、そういうことではなく、才能ある選手がその才能を磨ききることなく最後の戦いを迎えるのはどうしても納得いかない。就実と一番戦えたのは田中・冨樫ペアでした。しかし、さあ、ここからだ、というギアを入れるところで、いつも田中は思いが逆回転するのか、イージーミスが入って崩れていきます。第6ゲーム(G3-2かG2-3)の奪取率が極めて低い。それはテニスコートの練習だけではどうにもならない、一人の人間と一人の人間が丸ごとのぶつかり合う、そのせめぎ合いが一番顕著に現れる場面での弱さ=我慢弱さ、要はメンタルタフネスが弱い。そこをしっかりと伝え、日々の自分、テニスコート上での自分の技術練習以外での責任について話しました。

田中遥奈のノートから

ようやくわかった。今度こそわかった。「私には我慢がない。それは技術の問題じゃない。」

今日の全国選抜での就実との試合、攻めの姿勢を貫いて戦った。だけど、どんなに良いプレーがあっても、最後は我慢できなくて、みずから試合を降りる。敵にかなわないのではない。自分から敗退の道を降りていく。6ゲーム目の弱さこそが私の弱さ。先生が去年の夏からずっと伝えてくれたことがようやくわかった。

私は伝えてくれていることを信じ切らずに中途半端で生きてきた。だから、こうやって誰もが「ここ頑張れ! ここ我慢だ!」って思っている時に踏ん張れずに自滅…

あと4ヶ月、私が変わらない限り、日本一なんてありえない。

私には「我慢が必要!」

普段の生活からもう一度見直しだ。そして時間を有効に使うこと。私には日本一の夢に関係ない意味のない時間が多すぎる。まずはここからスタートして、大事な場面で頼れる選手になるから。今度こそ、奈央と2枚エースになる!

この日、選抜までのチームの解散式で、田中は自分について皆の前で語ります。その目、その声、その表情は、今まで見たこともない田中の姿でした。この世界(スポーツを通じての自己向上を果たす世界)にいさせてもらって、一番感動を覚える場面です。一人の人間の精神的脱皮の瞬間、本当に人間にも「変態(幼虫→成虫)」はある。そう確信します。ヤゴの殻を破って瑞々しい羽根を広げる、あの蝶の誕生の瞬間と同じドラマが人間にもある。しかし、青春期に「変態」を果たさないで大人になっていく若者たちの何と多いことか…。

僕は、その日のノートにこうコメントしました。

遥奈、君のミーティングの言葉にとても感動しました。君の声がどれほど澄み切って真っ直ぐに響いていたか。2枚エース、本当にやりきろうな。

その後、田中はノートに毎日色ペンでこう書くようになりました。

宮崎IHまであと○○日  決めたことをやりきる!

攻めてるのに負けた選抜  相手マッチに弱い私を超える!

「甘く、女々しい田中脱却!」

Img_6439

センバツの後のYONEX杯で、田中はこんな風に記しています。自分のことなのに自分のことだけに焦点を絞って書かない。自分を客観視し、自分はチームによって自分たりえていることに気付いていきます。

冨樫はミスをしたりして、気持ちが落ちやすいところで決してへこたれない。私は調子良ければ安定しているが、上手くいかないと「負けじ魂」が小さくなる。今日、埼玉平成と試合していて思ったことがある。上手くいかなくて、いつもだったら精神的に落ちているところ。もし、またこれまで通り戦いから降りたら、1年生に合わせる顔がない。バディの1年生だって見ている。そんな姿見せられない!って強い気持ちが湧き上がってきた。こんな風に感じたことなかった。なぜか考えてみた。たどり着いた答えは「チームと一つになった強い意思」があったからだ。逆に言うと、私は今まで団体戦のレギュラーとしての考え方が大きくズレていたってことに気づかなかったんだ。

そして、4月7日のノートに記念すべき「脱皮の証明」が書かれます。

Img_6646

今日、家に帰って家族と話していたら、話し方が変わった、とお父さんに言われた。正直驚いた。少し前に先生にもバスの中の声が変わって響くようになったって言われていた。全てが繋がっているんだ。振り返ってみると、やっぱり私は自分に自信がなかったんだと思う。それが交替でキャプテンを務めるようになって、チームのことを第一に考えるようになって、皆に言ったからには自分がやらなきゃ信頼なんて絶対されない。そういう毎日から自信がついてきたんじゃないかって思う。

そうなのです。「変態」は全人間的に起こるので、テニスと離れたところでも変化が現れます。それはクラス内でも同じです。

今日は体育祭の係決めがあった。ほとんどが男子で決まっていった。これじゃバランス悪いから女子もリーダーに入ってほしいと言われたが、誰も動く気配がない。ならば私がやろうと思った。自分でも不思議なことだった。今までの私なら絶対に手をあげていない。放課後には保健委員会の集まりがあり、そこでも副委員長に立候補した。こういう面でも、私変わったなって思う。でもこれで満足しないで、責任を果たすってこと、強い意志でやり抜きたい。

次の日のノート。

今日の手帳(担任と生徒が交換しているスケジュール管理手帳)に担任の後藤先生が「いろいろなことを引き受けてくれてありがとう」とコメントしてくださった。今までこういう責任の伴う仕事なんていつもスルーしてきたから、こんなことを言われたことがなかった。奈央は前に「責任を背負って戦うのは厳しいけど楽しい」って言ってた。少しわかった気がした。楽しいってわけじゃないけど、こうやって生きていくのも嫌じゃないなって思えた。こういう生き方を奈央や冨樫はずっと前からやっていたんだね。私も遅れて参加だけど、こっから人生変えていきたい。

こうして日々、自分と向き合って迎えたハイジャパ予選。

田中は1年生の鷲尾と組んでダブルスに出場、経験のほぼない鷲尾をリードしてベスト4に駒を進めて長岡商業のエースと対決します。G3-1から勝ち切れず、ファイナル5-⑦で惜敗します。シングルスも長岡商業の選手にベスト8で敗退しました。どちらも勝ち切れなかったのですが、僕も本人も手ごたえを感じていました。ダブルスではファイナルは相手に流れが行き1-5まで離されますがそこから5-5に追いついた末に敗れました。シングルスではG2-3で相手マッチをしのいでファイナルへ。「ここ頑張る!」という場面で踏ん張りが利くようになりました。次の課題はファイナルのしぶとさ、そして最後には勝ち切るたくましさです。

そして、いよいよ、令和元年 新潟県総体です。

個人戦で今井と組んで初日ベスト8に入り、IH決定。2日目は準々決勝で長岡商業の金箱・池田ペアと当たります。ここでは今井が固くなってミスが続き、G1-3まで追い込まれます。脱皮前

Img_4113_2

の田中ならそのままズルズルと負けていく場面。ペアも小さくなり、孤軍奮闘の状況です。そこから強くなりました。本当に強かったです。ペアを励まし、自分を鼓舞し、敵のナイスボールにもひるむことなく反撃しつづけて、ファイナル突入!

課題だったファイナルです。進化していました。組み立てられていました。最後はテンポの上がった鋭いパッシングショットでゲームセット。すばらしい戦いでした。右の写真はそのショットの瞬間です。体重が乗り切って、迷いがない。試されていたんだと思います。その試練を苦しんで我慢して投げ出さずに泥臭く粘り抜いて、初めてつかんだマッチポイントファイナル6-5からの魂のショットです。

最終日の団体戦。決勝は、水澤・今井の気魄あふれる試合で1-1の3番勝負。

さあ、8連覇のかかった運命の試合。

Img_6603

最初に紹介したメールの中にもある通り、田中は「ほぼノーミス」でした。G3-0になる決定的なスマッシュを冨樫がミスしてG2-1。4ゲーム目も流れが相手に行きかけている中、風上から相手が動けないほどのトップストロークをミドルに決めて、流れを引き戻したのも田中です。

生まれ変わって、頼もしくたくましいアスリートがそこにいました。

前人未到の県8連覇。

今年もその栄光には、3年生の力強い成長ドラマがありました。

Img_6763

Img_6767

Img_6903

2019年1月14日 (月)

Dream Factory 2019 新春

2年連続で全国選抜へ

 北信越選抜大会 鍵となった石川戦で見せた1年生の成長

11


前回のDream Factory 2018冬で、2年生の成長ドラマを紹介しましたが、実はその陰で1年生は自信を失っていました。期待していた1年生ペア鈴木・佐藤は、プレッシャーからラケットが振れず、イージーミスを繰り返し自滅していきました。翌日の個人戦でも、今度は相手にではなく自分に負けて戦いから降りてしまいました。鈴木はその後、ショックでラケットも握れない状態。佐藤も落ち込んで練習になりません。

06_2

北越でテニスをやるというのは、新潟県では特別な意味があるのでしょう。県7連覇。インターハイ3年連続入賞。県内の他の学校の目標が「打倒北越」であり、すべて向かってこられる立場の中で戦わなければなりません。1年生の脆弱なハートでは、まだ荷が重かったようです。ただ、僕はこういう「壁にぶち当たる」経験はとても大切だと思っています。人は順風満帆で強くなんかなれません。小説や漫画の主人公だって、ゲームの主人公だって、数々の試練を通して成長し、経験値を上げ、たくましく強く優しくなっていくものです。それが人生の王道であり、競技テニスだって同じです。楽して手に入るものなど、何物であろうとロクなものではありません。成虫になるためには「蛹(さなぎ)期」が必要。「蛹期」とは「人生観、人間観、テニス観の変容期間」。その期間中はこれまでの自分を一旦壊すことになるので「いも虫」的には苦しいし逃避したいもの。でも、だからこそ意味がある。これは僕の確固たる「成長観」です。

鈴木も佐藤も、初めての「蛹期」を経て、少したくましくなりました。

04_2

初戦の福井商業戦では、国体強化で強くなった福井県選手に一方的に攻められて敗退しました(対戦は②-1で勝利)が、勝負となる次の金沢学院戦で、この1年生ペアがファイナルの競り合いを制して勝ち切ったのです。しかも2面同時進行で行われていた隣のコートでエース水澤が(ペア今井)敗れるというチームとして絶体絶命の状況下で、ファイナルゲームがスタート。一進一退でポイント5-5の後、つかんだマッチポイントで、鈴木が逆クロスに渾身のトップストローク、上がってきたミドルのロブを佐藤がジャンピングスマッシュで決めるという劇的な勝利でした。

05_4

全勝対決で臨んだ高岡西戦ではチームも敗れましたが、2週間前の「あの二人」からは想像もできない変身により、北信越2位で全国選抜の切符をつかみました。二人は長野商業戦でも安定した戦いで勝利し、この北信越で2勝2敗、立派な戦いぶりでした。この陰には、技術的も精神的にも諦めずに励まし支え続けてくれた3年生、そして同じ1年生の岩田の存在がありました。岩田は「チーム北越」に憧れて広島から入学・入部してきた子です。今はプレーイングマネージャーとして日本一のチーム作りに貢献してくれています。県選抜の後、早めに帰省させたのですが、鈴木と佐藤が心折れてしまい、岩田は広島から熱いメッセージを二人に送りつづけます。いろんな人の励ましやエネルギーが二人の再生、復活、進化を促しました。そして今回の姿です。ドラマですね。

「あらゆることから力を集めて光を放て!」 北越の部旗に書いてある部訓です。鈴木、佐藤、この意味、ちょっとだけ深められたかな。

佐藤のテニスノートから。

優勝はできなかったけど、確かにつかんだものがある。

私は、今日、県選抜のあの情け無い自分を超えられた。私は初めて「自分を超える」ことの意味を知った。

県選抜の後、唯香(鈴木)が心折れた。私も自分から逃げ出したくなった。それでも栞(1年生岩田)が帰省先からいっぱい心を伝えてくれて踏ん張れた。そして唯香も戻ってきてくれた。

今日の唯香は今までと全く違った。目が違う。ミスしても落ちることがない。いつも笑っている。前衛も気にしてない。だから、ポーチでポイントを取られても、その後ボールを入れにいったりってことがない。

夕ごはんの時に唯香も言っていた。「心が折れて自分が逃げていた時に、こんな自分でも何人もの人が自分を見捨てずに声をかけてくれた、あれから自分は人の言葉を心で感じられるようになったと思う。」だから、今日の唯香は強打に固執しないで、ラリーで展開を作ってくれた。

金沢学院戦、隣のコートで奈央先輩達が負けた。私達が負けたら全国が遠くなる。そんな時のセカンドサーブ、すごい緊張だった。だけど、心の中で木村先輩の顔を思い浮かべた。そうすると絶対に入る。木村先輩の存在が私に力をくれた。スマッシュもあの日のようには崩れていかなかった。「木村先輩に見せたい、届けたい。」そんな思いで今日一日戦えた。「思いの強さ」ってこういうことなんだ。

木村先輩は、何もわからない前衛初心者の私に、一から基本プレーを文字通り手取り足取り教えてくれて、私のたくさんの問題を一緒に悩んでくれた。

木村先輩、先輩は今日ずっと一緒に戦ってくれました。心強かったです。

私は最高のコーチに出会えました。ありがとうございました。でも、まだまだ問題がたくさんあります。全国選抜に向けて、今よりもポイントを取れる前衛になってチームに貢献できるようになります。

私は、強くなりたい!  またよろしくお願いします!

そして、先生。初戦のクソ試合の後、金沢学院戦でも私を使ってくれてありがとうございました。あの試合が私に自信をつけさせてくれました。

今日の2年生の先輩たちは何度も何度も苦しい場面を踏ん張っていた。宿では奈央先輩と冨樫先輩が同じ部屋だけど、戻ってきてから本気で悔しがっていた。笑っていたけど、心では本当に悔しそうだった。それだけ強い思いで戦っているんだって感じた。

私も、もうすぐ上級生になる。今みたいに先輩が苦しいことを引き受けて、私たちはのびのびとやっていい、もうそんなもんじゃなくなる。私たちが、今度は責任を引き受けよう。そして1年生がのびのびとやれるように。私たちが北越の「思い」を引き継いで表現しよう。(1年 佐藤莉穏)

◎個人戦

 優 勝  水澤・冨樫

 スト8 田中・今井

03

翌日の個人戦(ダブルス)では、水澤・冨樫ペアが富山県、石川県の1年生県チャンピオンを激戦の末に退けて、2年ぶりに優勝カップを北越に奪還しました。今年の北信越女子は多くの県で1年生の力が秀でており、5県の中で2年生の県優勝ペアは新潟県 水澤・冨樫だけでした。思いきりぶつかってくるフレッシュな1年生ペアは才能豊かで、よく鍛えられており、準決勝も決勝も厳しい戦いになりました。
決勝では先にマッチポイントを何度も握られ、こちらのミスも出る中で、それでも二人は相手の向かってくる気持ちにも、不利な状況にも、アウエー的な環境にも、決してひるむことなく、自らの

02_2

強さを表現しつづけました。決勝戦の逆転勝利は、どんな感動的な映画よりも深い感動と勇気を見ていた人に与えた試合だったと思います。それを引き出した金沢学院高校の1年生エースのテニスも本当に素晴らしいものでした。その試合のベンチ(SS席)で感動的な試合を一緒に戦いながら、「僕はこの子たちに生かされているんだな。こんな劇的なドラマの中に重要な登場人物として命を与えられているんだな。」という思いが何度も湧いてきて、深く感じ入りました。

ありがとう。

2018年12月27日 (木)

Dream Factory 2018 冬

長いトンネルを抜けるとそこは・・・

01_2県選抜 団体優勝!

ホームページが新しくなりました。どんどん進化する北越高校、いいですね。北越高校は新潟県の、否、日本のトップランナーを目指して日々イノベーションしています。

ただ、昭和世代の私は、技術革新について行くのがやっとです。若手のホープたちから教わりながら頑張りますので、これからもよろしくお願いします。工事中で更新できなくてすみませんでした、というのは真っ赤な嘘で、優先順位を後回しにし続けた末、ホームページの全面的リニューアルを迎えてしまった、というのが真相です。要はさぼりです。すみません。

真っ赤な嘘と言えば、競技力の向上に、この「嘘」って奴はかなりしぶとく、かなりの粘着性を持って絡みついてきます。ジュニア期ですと「疲れることはやりたくない」レベルの分かりやすい嘘になるでしょうが、「プレアスリート期=高校期」だと、自分が「嘘」と共犯してやるべきことをやっていない、という形で「嘘」が内在化し、競技力の向上を妨げるということがよくあります。「嘘」は「言い訳」とか「妥協」という自他共に見えにくい形状で潜在します。アスリートになりたくてなりきれない半端アスリートは、自分が「言い訳」していること、「妥協」していることに全く気づきません。全力で走らないこと。微妙に諦めること。うまくいかない理由を探究せずにメニューをこなしていること。気持ちいい練習ばかり無意識に選んでいること。今日まとめるべきことを明日以降に先送りすること。こんなことは無数にあり、それはテニスコートを離れても試され続けるものです。

やるべきだとわかっていながら先送りしたり、誰かに依存したり、日常のあらゆる場面、あらゆる場所で「やるor やらない」「yes or no」(noだとしっくりきませんね。明確にやらない!という意志ではないですから「yes or ignore 」でしょうか。)を試されます。今がやるべき場面だと当然理解して、Yes!の(目に見えない)ボタンを押すと同時に動き出す、それを繰り返していたら、必ず状況をコントロールできる強い心が育ちます。プレアスリートのコーチとして、選手のメンタルを強くするには、スポーツ心理学的なメンタルトレーニングをすることではなく、日常のあらゆる場面で「yes or ignore」を試されているのだと自覚させ(これをチーム北越的には「向き合う」といいます)、笑顔で「Yes!」を選択する心を培うことだと思っています。

その成果は必ず追い込まれた場面で現れてくるものです。勝負のかかった重要な時に、そのプレッシャーに耐え切れず、ラケットが振れなくなったり、無難な選択を繰り返したり、根拠のない一か八かの無謀なプレーを不必要な場面で選択したりして、自ら勝負を降りていく選手のいかに多いことか…。リードしていても、中盤まで競り合っていても、終盤でえっ?というくらい、あっけなく勝利を投げ出してしまうペアのいかに多いことか…。そうではなくて、どんな状況下に置かれても、自分がやるべきことを信じてやり切れるかどうか、たとえそれで何回かうまくいかなくても、信じると決めたことを信じ続けて、状況を打開していく、トップに立ちたいのならそこを追究してほしい。

その意味で、この秋に大きく進化したのが、2年生 田中遥奈です。

夏の鈴鹿IH、その時のブログで書いたように、その頃の田中はまだ幼く、3年生の阿部に引っ張ってもらわないと力を発揮できないジュニアアスリートでした。夏の終わりに田中はくじけかけました。新リーダーとして求められる課題と自分の現実を重ね合わせて、そのギャップをモチベーションにすることが難しかったのです。ただ、その苦境の中で自分には自分を待ってる仲間がいる、そう深く悟ることでもう一度コートに戻ってきた田中は、以前の田中ではありませんでした。もう、全く違います。少しのサナギ期を経て、これだけ劇的に進化するケースはあまり経験ありません。人間の成長って素晴らしいですね。挫折が人を一回りも二回りも大きくする。

昨今の教育を取り巻く環境にプレッシャーを受けて「優しい指導」(私的には「腰が退けた指導」)がひたひたと波のように広がっていますが、それはある意味、指導者の妥協でもある。以前、福岡で中村学園の外薗先生に教えを乞うた時、先生は「コートは私と子供たちの真剣勝負の場だ」と仰ってくださいました。この教えはそれから私の座右の銘になりました。

10月に行われた県新人選抜大会。本命の水澤が皇后杯出場で不在ではありましたが、田中はダブルス(ペア冨樫)、シングルスの二冠に輝きました。それでも満足することなく、全国レベルの水澤の背中を全力で追っています。二冠を獲った日のノートに、水澤の代わりに主将として二日間戦った田中はこんなことを書いていました。

「奈央はこんな責任の中でいつも戦っているんだ」

責任と自覚、それを背負いながらも、逆に背負って期待されるからこそ、もう一回り大きな自分と出会える、チャンピオンマインドのふもとにようやくたどり着いたのでしょう。

12月暮れの県選抜(団体戦)では、冨樫と組んで全勝。その時のノートで田中はこう書きます。

去年のリベンジっていう強い想いがあったから、逃げてのミスは無かった。去年名古屋で私の心の弱さからくるクソミスでゲームセット。そのリベンジのために、私が全勝する。だから逃げてなんていられない、そういう思いを持ってプレーできた。試合中、瑞希先輩を見上げて何度もガッツポーズをした。瑞希先輩も喜んでくれた。私がこんな風に戦えたのは、夏から瑞希先輩が本気で私を変えようとしてくれたおかげだし、直前の合宿でも私の中途半端さに気付いてくれて、どういう時にそうなるのかまで教えてくれたからだと思う。瑞希先輩に恩返しをするって強く誓っていたから、信じて戦えた。瑞希先輩、絶対去年の名古屋のリベンジしてみせます!

04_2

この田中のノートに表れているドラマこそが、Dream Factory北越の真髄だと思います。

「本気」「誠実」「絆」「リスペクト」・・・

こうして、ただの名もないジュニアプレーヤーが、ハートを感じて、責任を自ら引き受けて、誰かのために夢を叶えてみせる。アスリートの誕生ですね。

もう一人、12月の県選抜、それから翌日に行われた県インドア大会(個人戦)で、ようやく長いトンネルを抜けて、コートの上で、北越のユニフォームを着て輝いた選手がいます。

今井風花です。

本当に長いトンネルでした。いくつもの大失敗を繰り返し、自分のスモールハートに負けて心も折れ、失意の日々が続いた後、ようやく前を見て進み始めた夏のインターハイ直前、身体の不調でドクターストップとなりました。秋地区も出られず、県新人も不出場。本人も辛かったと思います。ですが、ご家族の温かい励ましと今井自身の復活への強い意志で病を乗り越え、トレーニングを開始できたのは北風が吹く頃だったでしょうか。短い準備期間でしたが、今井の心は田中同様、以前と全く違うアスリートハートに進化していました。何より自分のスモールハートを公然と口にし、ノートにも毎回書き、隠さずに立ち向かっていきました。もちろん、日々その名残は色濃く出るのですが、先輩や僕から指摘される度に、悔しそうな表情で唇を噛みしめます。口で言わずとも、「私はもうこの自分の弱さから絶対に逃げない」と決意しているのがよくわかりました。今井は、県選抜では水澤と組んで全勝。その日のノートです。

今日の試合の成果は何と言っても「スモールハートゼロ!」小さくなったことはなかった。もちろん、レシーブが浅かったりして、技術的には完璧じゃないけど、私の代名詞だった「スモールハート」が出なかった。いつも奈央がカバーしてくれるけど、私は小さくなって戦えない、そんな試合を繰り返してきた。だけど今日はちゃんと二人で戦えた。なぜか。精神的にリラックスしていたし、何よりも「やるしかない!」って覚悟が決まっていた。今回、いつもなら身体を動かして気持ちも上げてきたけど、しっかりと落ち着く時間を作った。そして最終的には「よし、行くぞ!」って思ってコートに向かう。すごい自信にもなったし、嬉しかった。明日も、これからも「私は私をコート上で全部表現する」こうやって戦っていきたい。

03

こうして今井風花という選手をこのDream Factoryのブログに記載できること、指導者として心から嬉しく思います。長いトンネルは君の進化の「さなぎ期」だったんだね。

ただ、この二人、田中・今井ペアは、個人戦で攻撃的ストローカーの巻高校平行陣ペアに敵いませんでした。田中のボールが浅くなったところをすべて今井に持ってこられ、そのテンポとスピードに今井が最後まで対応できませんでした。それでも今井も田中も前向きに悔しがっています。それでいいのです。課題を浮き彫りにしてもらえたわけだから、他の学校の選手たちの成長にも感謝すべきです。春にどれだけ対応できるスピードとフィジカルの強さを身に着けられるか、冬はいろんな意味で自分のベースを底上げするチャンスです。

今、チーム北越では、進路が決定した3年生(おかげ様で4人全員が第一志望で決まりました)が「恩送り」として選手の個人コーチになってくれます。今年の3年生は例年以上に熱くコーチングしてくれていて、その光で選手たちが次々と古い葉っぱを落としてレベルアップしています。北越は滅多に練習試合に出かけません。特にこの時期は技術の基本、というよりそもそもの技術の考え方をブラッシュアップし、身体を作り、今までの葉っぱを一旦落として再構築することに時間をかけています。その中で、自分と向き合いながら、強い心を養っていきます。雪国のチームですから。もう昔みたいにそのことをハンデだと思わなくなりました。僕も選手たちも冬は雪の中で根を張るのです。それでいいし、それがいい。夏の大輪の花をみんなで夢見て、今日もチーム北越、冬空の下で元気に頑張ります!

02県選抜インドア(ダブルス個人戦) 1位 水澤・冨樫   3位 田中・今井

秋~冬の大会結果

秋季新潟地区大会

〇シングルス

1位  水澤奈央  2位 田中遥奈  3位 冨樫春菜

〇ダブルス

1位 水澤・冨樫  3位 田中・佐藤  3位 鈴木・清野

県新人選抜大会

〇シングルス

1位 田中遥奈  3位 鈴木唯香

〇ダブルス

1位 田中・冨樫  

県選抜大会(団体)  優勝

県選抜インドア大会(個人)

1位 水澤・冨樫  3位 田中・今井

2018年8月17日 (金)

DREAM FACTORY 2018 盛夏(鈴鹿インターハイ)

鈴鹿IH  団体準優勝!
第1シードを倒し、
夢の頂点まであと一歩!


鈴鹿IH 35

平成30年度 鈴鹿インターハイ 
(7月30日~8月2日 三重交通G スポーツの杜 鈴鹿 庭球場)
団体戦
1回戦 シード

2回戦 ②-1 羽黒(山形)
 水澤・木村 ④-1 三浦・福島
 前山・冨樫 ④-2 石井・池添
 阿部・田中 1-④ 白幡・川又
3回戦 ②-0 高田商業(奈良)・・・(皇太子様 御覧試合)
 阿部・田中 ④-2 籠谷・石井
 水澤・木村 ④-1 山田・木原(恵) 
準々決勝 ②-0 三重(三重)
 水澤・木村 ④-0 竹田(真)・藤城
 阿部・田中(打切り)高場・花尻
 前山・冨樫 ④-3 田川・浪岡
準決勝 ②-1 須磨学園(兵庫)
 阿部・田中 0-④ 木瀬・平岡
 水澤・木村 ④-1 牛留・安保
 前山・冨樫 ④-3 江藤・掃部 
決勝 1-② 昇陽(大阪)
 阿部・田中 3-④ 蓮岡・吉田(澪)
 水澤・木村 ④-2 上野・岡田(麻)
 前山・冨樫 2-④ 吉田(さ)・吉岡 

「私は超える!」
これが、今年1年、鈴鹿IHまでのチームスローガンでした。
昨年、会津IHでベスト4まであと一歩のところで負けてしまった。2年連続で阻まれたベスト4への壁。そして、チームの主力であった3年生が抜けた後の新チームは精神的に幼い選手が多かった。その幼い自分と向き合い、超えていかなければ全国で戦うことができない、そのような思いから作った年間スローガンでした。
今回の鈴鹿IHで見せたこのチームのドラマは、僕の想定をはるかに超えていました。
記者さんに、表彰式の後インタビューされました。
「失礼ですが、春の選抜では初戦敗退ですよね。しかも同じ6人(スーパー1年生等の加入なし)ですよね。そのチームがたった4カ月でどうしてこれほど強くなったのですか?」
簡潔に語れることと、簡潔に語ってしまっては真実を損なうことと、物事には二つあります。この記者さんの疑問は全くごもっともなのですが、それは簡単には語れないことです。
あえて、言ってしまえば、同じ6人のメンバーが、当時抱えていた自分の弱さと真剣に向き合い、それを超えていったからだ、とは言えると思います。
「私は超える!」
本当に彼女たちは超えていきました。その結果としての全国準優勝。ここに至るまでの彼女たちのひたむきな日々に心から敬意を贈りたい。

鈴鹿IH 31 鈴鹿IH 32 鈴鹿IH 33


決勝戦の後、本当に多くの方々から祝福のメッセージをいただきました。
彼女たちの戦いは、多くの人に勇気と希望を与えたようです。
メッセージの一部を紹介させていただきます。

「準優勝、おめでとうございます。選手たちの闘う心に感激しました。惜しかったですが、素晴らしい試合でした!」
「すごいです。感動しました。先生が書かれている北越のブログの内容とリンクして、先生と生徒の気持ちに震えました。おめでとうございました。」
「チーム北越、準優勝おめでとうございます。優勝まであと1ゲーム、惜しかったです。でも、津野先生がずっと取り組んできたことの成果が次々と出てすごいです。お疲れさまでした。」
「団体2位、おめでとうございます。本当にみんなよく頑張っていて勇気と感動をもらいました。前山、木村、阿部、3年生が本当に成長していて驚きました。特に阿部が田中を引っ張って戦う姿、最後まで力強い声をコートに響かせて攻め続ける姿も中継からよく伝わってきました。庭野も全力でサポートしていたと思います。とにかく本当に感動しました。日本一まであと一歩でしたが、多くの人にエネルギーを与える戦いだったと思います。私も悔しさと感動で涙が溢れました。」
「準決勝からインハイTVで見てました。水澤のハイジャパ優勝も感動しましたが、今日の戦いも感動させてもらいました。鈴木保科田辺が抜けて大変だよ、と言っていたチームが堂々の準優勝、すごいと思います。団体決勝の舞台、全国のファイナリスト! 本当に1歩ずつてっぺんに近づいてますね。いい試合を見させていただきました! 先生、選手のみなさんありがとうございました。」
「素晴らしい戦いを観させて頂きました。日本一まではあと一歩…でしたが、日本一魅了する戦いをしてくれたと思います。感動をもらいました! 俺も、もっと頑張っていこうと思いました。」
「準優勝おめでとうございます。ライブ配信で見ていました。うまく言葉で表せませんが、本当に力をもらえました。気づいたら見ていた母と二人で泣いていました。日本一が目の前にあったからこその悔しさもあると思います。私も悔しかったです。でも準優勝という結果はみんなの頑張った最高の結果だと思うので、胸を張って新潟に帰ってきてください!」
「団体準優勝おめでとうございます。インハイTVに釘付けでした。あと一歩のところで、本当に悔しいです。来年こそは優勝しましょう。北越を目標に頑張ります。本当に勇気をもらいました。」
「先生! インハイ団体準優勝おめでとうございます。動画でリアルタイムで応援していました。本当にインハイ優勝がもうすぐ近くにあるんだなと感じました。団体に強い北越、やっぱり最高ですね。チーム力にただただ感動です。みんなの闘う姿を見て、勇気と元気をもらいました。自分もあんな風に引かずに迷わず攻め続けるプレーをしたいと思います。今後も津野先生らしく、北越らしく、頑張ってください。選手にも『おめでとう!』と伝えてください!」
「激戦、お疲れ様でした。新潟で応援している私でも疲れ果ててしまったのですから、現地で応援している保護者のみなさん、サポーターの子供たち、選手、先生の疲労感は半端ないですね。正直、春の地区大会を見た時、今年はインハイに行けないのではないかと心配していました。今年のチームは間に合わない、と思いました。それなのに、この試合。強くなったんですね、驚きました。三重戦から涙腺崩壊してました。少しずつ日本一に近づいている! 先生、来年ですね! 絶対日本一! 応援しています。」
「みなさん本当におめでとうございます。頂点まであと少しというところで、悔しさもあると思いますが、みんなの頑張りと優勝候補の壁を破っての準優勝という快挙はいろんな人にすごいパワーを与えています! 母校の北越女子ソフトテニス部が決勝! という文字を見て驚きと感動で心がいっぱいになりました。卒業してからもいろんなパワーと勇気を伝えてくれる津野先生に高校時代に出会えたことに感謝します。平成最後の夏、すごい感動をありがとうございます!」
「インターハイ団体2位、おめでとうございます。インハイTVを見ていて、私の現役の時のことも思い出しました。そして今の私にとってもすごい勇気をもらいました。実は今、仕事でつらいことが多いのです。ですが、みんなの試合を見たら、私も頑張らなきゃ!と思いました。これからもずっと応援しています。」
「準優勝、おめでとうございます。北越らしいいいチームになりましたね。見てて感動したし、パワーをたくさんもらいました。3年生と水澤が本気でチームを作ったのだなと感じました。木村、成長しましたね。たくさんの壁を乗り越えてきた証拠ですね。前山も阿部も去年の二人とは別人でした。最高学年として責任を持ちながら戦っている姿が見ていてわかりました。前山、去年と違って全然チャラくなかったです。北越の立派なエースになりましたね。」
「インターハイ準優勝おめでとう! 家族で乾杯したよ! 友達として本当に誇らしいよ! 私たちももう一花咲かせたい、まだ諦めたくないって思いました。元気もらいました。どうもありがとう。本当におめでとう。」
「インターハイ団体準優勝おめでとうございます。未だに信じられない思いです。みんな本当に頑張りましたね。三重戦と決勝戦はライブ配信で見てました。一人ひとりの成長が感じられ、涙が止まりませんでした。チーム力って本当に大事なんだなって、改めてみんなが示してくれました。日本一まであと一歩、素晴らしい戦いをありがとうございました。北越のみんなとまたテニスをしたいなと心の底から思いました。私もみんなに負けないよう頑張ります。」
「インハイ準優勝、おめでとうございます。日本一まであと一歩でしたね、惜しかったです。私もハラハラドキドキしていましたが、すごく嬉しい気持ちで一杯です。『あらゆることから力を集めて光を放て!』という北越の部訓って、改めて凄い言葉だなとしみじみ思うんです。私もうまくいかないことが多かったりチーム内の嫌なところが見えたりしていたのですが、この言葉を思い出して、自分に集中できるようになったんです。うまくいかない状況や他人の嫌なところからでも人は力を集めることができるんですよね。そして光に換えていくことができる。様々なことからプラスのエネルギーを集められるんですよね。これから私もインカレが始まります。4年目にしてやっと自力でインカレの切符を手にすることができました。やっとです…。いろいろ苦しいことも多かったですが、やっぱりテニスを続けてきてよかったと心から思っています。」
「インターハイでの団体準優勝,本当に本当におめでとうございます! 本当にお疲れ様でした。とんでもない偉業だと思います。灼熱の地でまさに台風の目のごとく、選手一人ひとりの個性が躍動していたように見受けられました。しかもインターハイでもう1勝という課題をちゃんと残してきたことも、彼女たちらしいというか、とっても素晴らしいです(笑)。私自身は昨日夕方に仕事が落ち着いてからインターハイの様子を調べはじめて、そこからインハイTVに釘付けになり、20時過ぎまでライブ映像を拝見して帰宅できなくなりました。長丁場すぎますね、ソフトテニスの試合は。決勝まで進む選手と監督の負担はどれほどかと…、想像を超えていました。今回の結果はある意味新潟県にとっても衝撃だったと思います。確かに県外選手をスカウトして強化するという道もあるのでしょうが、他県とスカウト合戦をして同じ土俵で仮に勝利を得たとしてもこれ程の衝撃はありません。津野先生のように地元選手をしっかり育てていく覚悟と指導力があれば、地方から毎年毎年アップセットを起こし続ける面白いチームができる。このスタイルを長年追い求めてきた津野先生だからこそ結果として示すことができたんですね。相当な時間とエネルギーと育成力とが必要なのでなかなか真似はできないでしょうが、以前から津野先生のお話を伺って感じていたことが今回確信できたように感じました。選手にとっても先生にとっても、今回のインターハイが何かの結実であり、またスタートであることを願っています。素晴らしい試合を本当にありがとうございました。」



3年生がチームを作れない年は、団体で勝てない。
これは繰り返し僕がチームに伝える教訓です。
春まで、本当に今年は危ないと思っていました。3年生が責任と自覚を引き受けないからです。2年生の水澤にキャプテンを任せるのは適材適所ですからいいとして、その分チームをまとめる仕事、1年生にハートを伝える役割、横道脇道に彷徨うチームに喝を入れる責任、チームのハート作りを3年が引き受けようとしない、指導者として僕も苦しんでいました。口で言うのは簡単ですが、それを心底了解させるのは時間がかかります。深い信頼に基づかない指導など他人のお説教と変わらないですから。
でも、チームは変わりました。県総体の様子もこのブログに書きましたが、部長の庭野とフィジカルリーダーの阿部がまず脱皮して大きく進化してくれました。5月の連休の後、前山が少しずつ自分と向き合えるようになってきました。木村はセンバツの後から、毎朝自分と向き合うために走りつづけ、その成果なのか、日々の言動が頼れるものになっていきました。
そうして迎えた鈴鹿IH。脱皮した「蝶」たちが舞いました。
記者さんにはお答えできなかった、今年のドラマ。
いつものように、生徒たちのノートから浮き彫りにしてみます。

送られたメッセージの多くから「感動」を伝えていただきました。それは、おそらく、決勝の最後、ファイナルまでもつれて、才能も経験も技術も昇陽高校の選手には及ばない田中・阿部の平行陣ペアが、ガッツと意地と根性でボールを打ち合い、競り合っている姿からではなかったかと思います。
監督の僕自身、田中・阿部が見せた三重戦のパフォーマンス(G1-2で打ち切り)と決勝での戦いは、理屈で説明できないものだと思います。多分練習試合で戦ったなら、0勝10敗、しかもすべて大差ではないか、それくらいの力の差はあったと思います。阿部は県総体3回戦敗退(ペア鈴木)、田中は県大会ベスト8でやっとIH出場(ペア冨樫)ですが、IH個人戦では全くいいところなく初戦敗退。冨樫が頑張って挽回の糸口はつかむのですが、田中は応援している者がため息をつくくらいの自滅敗退です。それが、なぜ団体戦であのように奇跡のような戦いができたのか。それはひとえに阿部の力です。阿部のオーラで田中が何段階もバージョンアップするのです。
鈴鹿IH 11 鈴鹿IH 09 鈴鹿IH 15
阿部瑞希という選手は決して運動センスがあるわけではありません。身体の機能性も悪く、諸関節が曲がらないし使えない。新潟県加茂ジュニア出身、同じジュニアの前山の陰にいつも隠れていた選手です。ただ、阿部の並外れた才能は「ガッツ」です。絶対にあきらめない。それはパフォーマンス的にも、精神的にもです。多くの逸話がありますが、その最たるものは2年生の春先、体育でシャトルランの測定をしていた際、限界を超えてやり続けた結果、アキレス腱を切った、そこまでは普通の頑張り屋ですが、阿部は、自分が決めた回数まで切れたアキレス腱で走り続けたというのです。その結果の重症…。チームとしても試合の前で本当に痛く「いい加減にしろ!」と怒ったのですが、本人はアキレス腱を切ったとしても自分の目標達成の方が大事だろう、というわけです。ジュニアを指導していた先生は「野生児」だと言います。県総体のシードを決める3年春のハイジャパ県予選でも、胃腸炎で3日間も食事をとれない状態で、練習もできずに参加し、3位入賞。その時の阿部のテーマは「3年としての姿を見せる」なのです。胃腸炎で練習にも来れず「姿を見せる」も何もないだろうと思うのですが、阿部は違うのです。確かに大会に「姿を見せ」、しかも本当に3日間食べてないのか、という動きと元気で、ペアの1年生を盛り立てて、賞状を手にさせるのです。1年生の鈴木と組むことについても、阿部は自分から強く希望したのです。その理由は「唯香は才能があるのに、それを出さない。私が組んで唯香を変えたいから」なのです。こんな理由で最後の3年生の県総体のペアを希望するなんて、僕の常識を超越します。何度確かめてもブレない。このシード決めの大会では3位に入ったのですが、本戦の県総体では3回戦敗退。鈴木が狙われました。阿部は何もできず、最後の挨拶に歩み寄ります。それでも阿部のモチベーションは下がりません。春の全国選抜で田中と組んで敗退した、その田中と組んでリベンジをしたい、その思いをずっと持ち続けます。ですが、県総体の団体戦、北信越総体の団体戦、復活してきた2年生の今井にチャンスを与えたので、阿部は4番手ベンチスタートです。期待して使った今井はまだ進化の途上で、二つの大会ともに、2回戦から選手交代で阿部の登場。阿部はガッツを前面に出してチームに元気と勇気を思い出させる。その繰り返しです。このIHでも今井の体調が大会1週間前に悪化、団体メンバー確定は1週間前のことです。すべての経緯は、よくわかった上で、阿部は与えられたチャンスに全力を尽くします。自分がコートに立つかどうかはわからない。けれど、3番手後衛としてほぼ確定している2年生の田中を3年生として責任を持って指導しつづけるのです。選手として出たいけれど、3年生として自分のできることを悔いの残らないようチームの日本一のためやり遂げる、そういう覚悟があるのです。すごい人だと思います。阿部瑞希という18歳の人間は僕の18歳の想定マックスを超えますし、常識も超えていく、心から尊敬します。
ペアの2年生田中遥奈は、運動能力の高い選手ですが、精神的に幼く、なかなか思いが伝わらない。阿部は根気強く、言葉を変え品を変えて指導しつづけます。大会直前の阿部のノートからは、田中を何とかして進化させたいという阿部の切実な思いが伝わってきて、心が痛みます。


田中は、フィジカルリーダーとして、いろいろな仕事を任せられている。けれど、なかなか自覚がない。自覚って、人から言われて出て来るものじゃない。田中自身の中から湧き出てくるものじゃないと、リーダーとして誰も認めない。誰もが認めるリーダーになってほしくて、先生や真李や私は伝えている。でも伝えれば伝えるほど、田中の表情は曇り、声が死んで、あの目になる。もう、その「田中」はたくさん。「旧田中」はダメ。「新田中」にならないと。それが「超えていく」ってことでしょ。ただ、田中は絶対に心をわかってくれる。ペアとしてこれだけ一緒にやってればわかる。話せばわかってくれるけど、それをもっと深く心で受け入れてほしいんだ。田中はそれができるって信じているから伝えているんだよ。伝えてくれる一人ひとりの言葉は皆違う。一人ひとりは同じ人間ではない。だから、いろんな経験や願いが言葉になる。だけど、皆思いは一つ、田中に成長してほしい、それだけなんだよ。田中は幸せだよ。日本一を目指す中で17歳になって、恵理先輩(田辺恵理:どんぐり北広島)や先生方、心から熱く伝えてくれる人がいること、本当に感謝すべきなんだよ! リーダーの心になること、それが必ず大事な場面で自分を助けてくれるから。(7月30日 阿部瑞希)

田中は個人戦、初戦で負けた。夕方に冨樫と二人で戻って来て報告してくれた。やはり、勝負のかかる大事なところで、田中が頑張れない。いろんな人から伝えてもらったことを力にすることができなくて負けしまったこと、私も悔しい。やっぱり、やるべきことをやらないで、それを誰かやってくれる、そういうことを日々続けていけば、大事な場面で自分を信じることなんてできるわけがない。信じ切れる自分であるために、今日もまた強く伝えた。二人で決めたこと、信じてやり続けてね。今日の個人戦は、やり切ることができない「情けない自分」に負けたんだって、強く強く強く思って、それを忘れずに、個人戦のあの情けない負けがあったから、団体戦は戦えたんだ!って思えるように。
私の最後の戦いがいよいよ始まります。ここまできて、まだ足りないところはたくさんあるけど、日本一に向けてできることはまだある。明日は田中、冨樫も練習に加わる。先生はいないけど、どこよりも気魄込めて団体戦日本一のために頑張ります。1年間、日本一を目指してやってきた。明日は最後の練習だ。全てをかけてソフトテニスにかけてきた私の3年間を意味のあるものにするために、田中を最後まで信じて、一緒に戦う心を作ります。(7月31日 阿部瑞希)

明日はいよいよ団体戦。私は9年間テニスを続ける中で、北越の先輩達に憧れてこのチームに入り、ここで3年間食らいついて生きてきた。去年の会津インターハイが私の全国初舞台で、先輩達はすごいドラマを作ったけど、私はシード校には歯が立たず、先生に「ガッツだけではどうにもならない世界なのだよ」と伝えられて、それから1年、技術もタクティクスも、そしてフィジカルはリーダーになって日本一を目指してきた。
会津インターハイの帰り道で、ベスト8からベスト4への壁があることと、私達一人ひとりにも乗り越えて行かなければならない壁がある、ということで、新チームの年間スローガンを「私は超える!」と決めて、偉大な先輩達を超えていこうと誓った。
私は3年間の想いを1球1球に込めて明日は戦います。私のソフトテニス人生最後の戦いを、私は私らしく戦いたい。私はどんなボールでも決して諦めずに食らいついて、誰よりもガッツ出して戦う。
そして、田中…。
田中とは、春のセンバツで悔しい思いをして、それから4ヶ月、技術、タクティクス、人間としてあるべき姿、本気になって成長させてきたと思う。田中は単純な奴だけど、素直で、私の言葉を心で受け入れてくれると思っている。まだ幼くて伝えていることがよくわからないかな、って思うときはあるけど、いつかは絶対わかって、もう私がいなくても、その大事なことを後輩へ真っ直ぐ心から言える先輩になってほしい。そう信じて、私は伝え続けます。今日も団体戦のメンバーとして、応援される者として、わかってほしいことを相当伝えた。一つ一つにちゃんと意味がある んだよ。田中をコートの外から熱く応援してくれる人がたくさんいるんだから、今まで伝えられてきたことを心でわかって、やるって決めたことは意地でもやる!
私は、田中を信じています。田中と全国の舞台で春のリベンジをします!
チーム北越の3年として、私はコート上で精一杯私を表現します。(8月1日 阿部瑞希)


今、こうして、阿部の前日のノートをワープロで打っていて、この想いと言葉が、8月2日に見せたコートの外やコート上での実際の阿部の姿と全く重なり、この言葉たちに微塵の誇張も放言もなく、本当にそのまま言葉通りに実行されていたことに驚きと感動を覚えて、涙が溢れてきます。昨今の大学スポーツでの「言葉と実際」の乖離、政治家たちの「言葉と実際」の隔たり、世間ではどんどん「言葉」が軽くなっているようですが、阿部瑞希をはじめとするチーム北越の生徒たちの言葉と実際のリアルな行動、その完全な一致に僕はただ深く感動します。
鈴鹿IH 14 鈴鹿IH 19 鈴鹿IH 20
今日という日は、ソフトテニスの競技人生、最後の戦いだった。
何も知らないガキだった中学生の私が、「厳しい戦いをあんなに楽しそうにプレーする」北越の雰囲気に憧れて、北越の門をたたいた。先生には、ガッツだけではどうにもならないって言われたけど、私の強みはこのガッツだ。
私はストロークの威力もスピードもなく、技術的にも下手くそだけど、とにかくボールに食らいつく、ガッツ出す、それだけでも、やり切ることができれば、全国でも戦えるんだ、そう強く実感した1日だった。
三重高校を倒してベスト4への壁を超えて、準決勝に競り勝った次の瞬間から、私にとって、全く未知の世界が始まった。
決勝戦、陽がすっかりくれたコートに入場して、3面展開で試合が始まった。
私は、プレーボールの1球目から、1球1球に思いを込めて、相手のコートに打ち込んだ。チーム、仲間、先生、そして田中を信じて戦えた。だから、ボールにもエネルギーを込められたし、フォローや厳しいボールも拾いまくれた。
楽しさ…奈央(水澤)が言ってた「全国トップの舞台で戦う楽しさ」ってこのことなんだ、今日1日ですごくよくわかった。
この広い会場の中で最後まで戦っている二つのチーム、日本一をかけて1球1球に3年間の想いと精一杯の情熱を込めて打ち込んだ。そしてポイントした時に田中とハイタッチしてベンチと応援してくれる人たちと一緒に喜ぶ。本当にすっごくすっごく楽しかった。
決勝のファイナル。去年のように0-6からの挽回、奇跡のドラマの再現はできなかった。でも、田中と二人で、「粘り強く、泥臭く、何本もラリーをする」というプレースタイルで、トッププレーヤーたちと打ち合えたこと、それは3年間の私の集大成だし、私の誇りになる。中学の実績がなくても、下手くそでも、頑張ればできるんだ。去年からずっと先生に「最後まで捨て駒でいいのか!」と叱咤され続けてきた。この言葉が私を一番奮起させた。心にぐっとくる言葉だった。先生、下手くそな私でも最後まで信じてくださってありがとうございました。そして3年間、いや9年間、テニス一筋の私に、好きなことを最後までやらせてくれ、朝早くからお弁当を作り続けてくれたお母さんに心から感謝したい。
ただ、私にはまだやるべきことがある。それは田中をアスリートに変えることだ。田中はまだまだ考え方が幼い。昨日もその前も、今日の朝だって、心を伝え続けた。そして二人で戦えた。ただ、これからは最上級生としてチームを作っていく責任がある。自立してほしい。アスリートは自立することで自分の良さが出てくる。そしてそれを信じ切って戦う。それが強さだ。私はそう先生や仲間から教えてもらった。田中や鈴木、新チームのみんなにはそのことをわかってほしいと強く思う。
三重戦や決勝は3面同時展開だった。もうこうなると先生は一人ひとりにアドバイスなんてできない。だからこそ自立が必要なんだ。今どういう状況になっているのか、二人でコミュニケーションをとって判断し、プレースタイルを選択し、実行していく。その自主性がないと3面展開で勝利なんてできない。日々のコミュニケーションと自主自立、毎日の生活では些細なことかもしれないが、それを北越は大事にしている。その些細なことの積み重ねがこういう大事なところにつながっているんだ、って強く思わないとダメなんだ。日本一は日常生活から。
改めて、先生、3年間ご指導ありがとうございました。
明日から、私は今まで受けた恩を後輩へ送っていきます。恩送りとして後輩を成長させ、チームを指導します。これからもよろしくお願いします。(8月2日 阿部瑞希)

鈴鹿IH 28 鈴鹿IH 39 鈴鹿IH 17
瑞希、僕は君に謝らなければならないことがある。
僕は君に「ガッツだけでは全国を戦えないよ」確かにそう言った。
でも、僕が間違っていました。
「ガッツだけでも全国を戦える」
君が証明してくれました。
君は8月2日のノートでこう書いている。「アスリートは自立することで自分の良さが出てくる。そしてそれを信じ切って戦う。それが強さだ。」
君の場合、その「良さ」がガッツだったんだね。誰にも負けない、究極のガッツ、それを追究して自分を高め、それを信じて戦う、シンプルだけどそれが強さなんだ、君はそう言葉で言い、実際に行動で証明した。
田中をあそこまで戦える選手にしたのも君の力だ。いつか幼い田中もこのことに深く気づき、君に心から感謝する日が来るよ。その時は、きっと田中は君と同じように後輩に大切なことを伝えているはずだ。
日本一のガッツをありがとう。
君を一生忘れない。

3年生の木村も、いろいろありましたけど(笑)、成長しました。一番「あらゆることから力を集めて」いたのは木村でしょう。先輩、同輩、後輩、指導者、あらゆる人を総動員して、もがいてきました。しかし燃費が悪すぎて、なかなか光にならない。分け入っても分け入っても青い山(山頭火)、ならぬ、集めても集めても黒い闇(美月)でしょうか。ですが、春の全国選抜の後、木村は自分と向き合うために毎日朝走ることを自らに課します。雨の日も嵐の日も。遠征の日も合宿の日も、みんながまだ寝ている中、一人で起きて走り続けました。全国いろんなところを走ったはずです。それが光になっていったのか、その相関はよくわからないのですが、間違いなく精神的に安定して練習に取り組めるようになっていきました。以前はほぼ毎日、うまくいかないと自分の技術も感情を処理できず泣いていましたが、陽が長くなるにつれ、メンタル的にも技術的にも落ち着いてきました。冷水のがぶ飲みでIH1週間前にお腹を壊す、という大失態も彼女らしいといえば彼女らしい。そして直前に復帰した時、チームに「どっきりカメラ」をしかけられ、感激して大泣きをする、すべて木村らしいです。
当日、木村は、三重戦、そして決勝、誰が戦っているんだ、という変貌ぶりでした。これほど人は変わるのか、もちろん精神的にもタクティクス的にもリードするキャプテン水澤の力は大きいですが、そうだとしてもキーとなる三重戦でエースに3ポイントゲームで勝利、決勝の昇陽戦でもG0-2の劣勢から、二人で挽回していき、木村の連続ポイントで逆転という高いクオリティのシナリオは、全くの想定外でした。
その木村の前日のノートです。
鈴鹿IH 05 鈴鹿IH 13 鈴鹿IH 16
いよいよ明日が運命の団体戦だ。ついにこの日が来たんだ。1,2年生の時の私はクソで、いつも応援席(コート外の金網の外)でガッツポーズをするだけの「金網クラブ員」だった。でも私は全国で勝ちたいから北越に来たんだ。最初で最後のインターハイ団体戦。私たちが主役だ。去年の3年生が抜けて、1年前私たちが立てたスローガン「私は超える!」 3年生の悔しさを見て、来年こそは、って決めたんだ。日々の小さなことからも逃げずに向き合ってきた1年。本当にあっと言う間だった。
私は初の全国舞台の戦いで(全国私学大会)、忘れもしない3月24日、中村学園高校に本当にしょうもない試合をして団体戦をぶち壊し、そこから初めて自分自身と本気で向き合った。次の日から、三重のインターハイまでやり続ける、そう決めて毎朝走った。必ずそれが力になるって信じてやり続けた。
私は特に同じ学年の3年生に本当に感謝している。真李も瑞希も愛も、常にしょうもない私の力になってくれた。1,2年生もだし、先生方、両親…たくさんの人の支えがあって、ここまで来れた。
だから、私にとって明日の試合は「恩返し」の試合だ。
その強い想い。明日は戦います。3年最後の恩返しの試合。戦いきります。(8月1日 木村美月)



さて、前回のブログで僕はこう書きました。
「本当の自立力+自律力が求められるのは、自分の思い通りにならない状況下においてです。簡単には決めさせてくれない。打っても打ってもまた攻め返される。自分の考えを見透かされたかのようにポイントされる。そのような相手に主導権がある場面で、自分や指導者を信じて自分のできることに集中し、苦しい場面でも投げ出さず逃げ出さずに我慢して、その先に必ずやってくるチャンスでギアを入れる。その繰り返しに耐えうるメンタル的フィジカル的タフネスが必要です。それを表現しきれた水澤や木瀬・平岡選手はチャンピオンになり、耐えられなかった選手は負けた。けれど、この成長期にある人間はどこで本気になるかわからない。その自分の中に眠っているギアの場所に気付き、手探りでレバーを握り、ぐっと自分の生きる日々をシフトチェンジできたら、絶対可能性はあります。」
札幌のハイジャパダブルスで、準決勝、シングルスで日本一になった水澤ではなく、前山にボールを集められて負けました。そのことも隠さずに書きました。その上で、僕は前山にこう言いました
「前山、俺がDream Factoryで『前山にボールを集められて負けた』って書いたのは、最終的にお前に自信があるからだよ。もしIHでお前にボールを集められたくないなら、お前の進化を信頼していないなら、あんな風に書くわけないだろ。」
実際に、5月の連休以降、前山は変わってきていたのです。「変われ、進化しろ」のメッセージは常に発信しているのですが、口やノート上でいくら「次は」とか「今度は」とか「対策は…」とか言っても、性根の部分で本気で変わりたいと思わなければ、人間変われるものじゃありません。前山もこれまで、思い通りにならない時に自分の幼さ、未熟な心がいつも顔を出し、我慢がきかず、強気と無謀を履き違えて自己コントロールを失っていきました。その幼さを僕と二人で『愛ちゃん』と名付けて向き合い続けたことは以前書いた通りです。「向き合う」ことの本当の意味をわからせるのにとても多くの時間がかかりました。でもようやくコントロールできるようになってきたのです。制御できるというより、制御しようとする意志がブレなくなってきたと言ったほうがいい。そこまで二人で来れたということです。もちろん、それでも失敗は何度もあります。日常でも、僕の見ていないところで『愛ちゃん』は奔放に振る舞いますから。ある日、僕は前山にこんなことを言ったことを思い出します。
「前山、おまえ自分を信じ切れたことないだろう。そして今まで生きてきて、本当に誰かを信じ切った経験ってないだろう。」前山の顔が曇ります。図星だからです。そして続けてこう言いました。「でも、俺、お前のこと信じるよ。お前は最後、絶対自分を信じて戦う。おまえはおまえ自身を信じきれてないだろうけど、俺はおまえのこと信じきれるよ。これだけ裏切られてきても、俺はおまえを信じるよ。」
その時、前山は今まで見せたことのない表情になりました。この人は何を言っているんだ、そんなことを言う人間がいるのか、という驚きが目の奥をよぎったように思いました。
前山が自分を信じて戦えるようになっていったきっかけは、県総体で庭野のために戦った、その時に感じた「自分を大きくさせるもの」の存在ではなかったかと思います。誰かのために戦うことが、人を強くさせる、そのような人を持っていることの幸せと強み。今回のインターハイで、2年生の今井が大会1週間前にドクターストップ、仲間思いの前山はそのことを自分のことのように残念に思います。そして、団体戦前日のノートにこう書きます。

風花、あなたはチームで一番、弱い自分を「超えよう」としてきたね。けど頑張りすぎたのか、ドクターストップ。すっごく悔しいね。けど、みんな風花の頑張りをしっかり見てきたよ。わかってるよ。だからちゃんとコート上で私たちは私たちを表現するから。風花に優勝旗渡すから。待っててね。ちゃんと見ててね、一緒に超えてきたこのチームの姿。一緒に戦ってきた仲間として、風花に絶対エネルギー贈るよ! 13人で戦い切る。
去年の会津IHの私は、全く戦えず、チームの夢を終わらせてしまった。あの自分にリベンジするためにここへ来た。あの幼い私に、中村学園に、三重に、文大に。それが明日。ついに明日だ。ミーティングでこれまでのDream Factoryチーム北越の歴史を振り返って、これが北越だ。私はここへ来て本当に良かった、って改めて思った。明日は去年の続き。受け継いだドラマを今度は私たちが必ず超えてやる!
苦しいに決まっている。簡単なことじゃない。よくわかっている。けど「団体に強い」これがチーム北越。チーム力、ペア力、どこよりも向き合ってきたから、怖いことない。
あとは自分信じて、チーム信じて、先生信じて。
よし、13人のラスト。コートに立つ者として、ラケット振り切って「前山愛」を表現する。そして、けた違いの気魄で、「私は超える!」(8月1日 前山愛)


第1シード、選抜優勝校の三重高校との準々決勝、3面同時展開でしたが、水澤・木村ペアが敵のエースを④-0で倒し、真ん中のコートでは田中・阿部のペアが激しいラリーの応酬でまだG1-1と競っている中、前山・冨樫が歴史を開くマッチポイントを迎えていました。前山が高い打点で「おりゃー!」という「けた違いの気魄」を込めて振り切ったボールがネット白帯にぶつかりながらも、強い想いに後押しされてネットを越えた瞬間、僕は動くことができませんでした。勝利に感動したからではありません。前山が最高の舞台で自分を「超えた」ことに深く感動したからです。誰かに感謝したくなって下を向きました。涙が溢れました。
鈴鹿IH 04 鈴鹿IH 03 鈴鹿IH 12
初戦の私、小さかった。試合後、気を作り直すためにコートを出た。そこで冨樫と一つになれた気がした。私の思いをちゃんと伝えて、心をぶつけて、冨樫は「はい。」って心から返事してくれた。
ペアとしても、この場にいたくてもいれない風花のために、という思いが強かった。
3回戦は皇太子様の御覧試合で他の2ペアが勝ってくれた。さあ三重戦。私たちの壁。先生に「田川・浪岡」とやりたいって伝えた。試合はプレーボールから気力で圧して一気にG3-1。けどここから私が大事にやりすぎるし、冨樫も積極性を欠いた。何球もラリーが続いたが、気が入ってないボールだから先手を取られ続けた。そしてファイナルへ。その時、ベンチで先生にこう強く言われた。「ボールを入れに行って負けるなら、ラケット振り切って負けて来い! そっちの方が俺もお前も後悔はない!」 この言葉を信じ、先生を信じて、フラットでラケットを振り切っていった。すると冨樫も絡むし、相手のミスも出る。そしてマッチポイント。今まで逆クロスに打っていたトップ打ち。思いきりセンターに思いを込めて振り切った。「チームのために!」って強く思って! それがネットイン。壁を越えた。
準決勝は須磨学園。1-1の三番勝負。G2-3でマッチゲームを取られる。苦しかった。けど、迷わずひるまずラケットを振り切った。チャンスは思いを込めて、大きな声とともに相手のコートにボールを突き刺した。ファイナルは完全にこっちのペースになった。もう弱い自分はいなかった。自分と闘い続けて、そして打ち克った自分を表現できた。
ついに決勝。3面同時展開で大阪昇陽高校との対戦。苦しい戦いの中、G2-2。そこから相手にセンターを突かれ始めて、ペアとして対応が遅れた。最後はやっぱり無難な私が出て、相手のウイニングショットでゲームセット。
奈央(水澤)は頑張って逆転してつないでくれたのに、木村もやり切ってくれたのに、私が日本一の夢を終わらせた。この決勝は、弱い私との向き合いが遅かった私への試練だったのかなと思う。もっと早く自分と向き合えていれば…。
でも、後悔はない。日本一を狙った。本気で狙った。今まで大事なところで逃げていた私。大事な場面で何度も風花を思った。弱い自分と戦って、涙流しながら逃げずに乗り越えようとしていた風花を思った。それでフラットに最後までラケットを振り切れた。風花の頑張りがなければ私たちの準優勝はない。たった一人の頑張りがチームを強くする。「愛、バンカイ!」「ガマンだよ!」私のことをこんなに分かっている人がこのチームにはたくさんいる。だから頑張れた。ガマンできた。すべてをエネルギーにできた。
たくさんの人に支えられて強くなってきた3年間。「向き合うこと」その大切さを痛感した3年間。日本一を獲れなくて悔しいけれど、私、変われたかなと少し思う。「超えて」全国準優勝、それはとても嬉しいことだ。
「信じてくれる人を信じ切る」
これが私が一番後輩に伝えたいこと。
私は信じることができなかった。「人を心の底から信じたことがない。」先生にそう言われて確かにそうかもと思った。先生の言ってくれることは分かったし、信じようとも思った。けどそれは口だけで、心からじゃないので何も変わらなかった。それが大事な場面で出る。
「俺にとっては試合で勝つより、おまえが『愛ちゃん』に勝つことの方が大事なんだ」
先生からそう言われて、そっから私の中の『愛ちゃん』と向き合いながら、人の心、自分の心も理解しようとしたし、先生を信じるって心から思えるようになった。だから、三重戦、苦しい展開でファイナルに入った時、先生の一言で自分は変わった。先生も自分も信じ切れた。先生、私を信じて3番手においてくれてありがとうございました。
それから、北越が大事にしているコミュニケーション。須磨学園戦で、流れが相手にあり、冨樫がめっちゃ弱気になってストロークもボールを入れにいく、ヒッティングボレーも入れにいく。「やばい」と思って、冨樫の目をぐっと見た。そして言った。
「弱気になってどうすんの! 風花のために勝つんでしょ! 奈央(隣のコートで同時展開)は絶対に勝つよ!」
そこから冨樫の目が変わって、私をぐっと見た。そして「はいっ!」って太い声で言った。去年なら、私がそこまで強く言うと半泣きになってしまった冨樫。もうあの時の冨樫じゃなかった。ちゃんと成長してた。そこからの逆転勝利。本気のコミュニケーション、人を変えるには絶対必要。だからこそ1年生にも先輩後輩関係なく、積極的に伝えてほしい。しっかり伝えることで逆に信頼関係ができる。それは北越だからこそできること。それが苦しい時に必ず支えになるから。
冨樫、去年のリベンジできたね。(前山・冨樫で昨年の会津IH個人戦、三重:田川選手に初戦敗退)きついこと言ったけど、信じてついてきてくれてありがとう。
お父さん、お母さん、お姉ちゃん、いつもありがとう。国体、リベンジするからね。もっと強い私、見せるからね。
「私は超える!」
実現できたかな。3日間の日本一を目指した鈴鹿インターハイ、テニスが楽しかった!(8月2日 前山愛)


最後に、部長としてチームのハートを作り、IHでは裏方の統括として、サポートをまとめあげた、庭野真李のノートを載せます。
庭野なしには、今回の躍進はない、そう断言できます。このチームの鍵ガール、長い戦いがすべて終わって声をかけた時、彼女は声が出ませんでした。すべて戦いに出し切って、残った声がない。かすれるとかハスキーとかそんなもんじゃありません。残った声がない。ただの声じゃなく、魂を込めた全力の「伝え」なので、空っぽになるのです。それが今年のチーム北越のリーダーです。だからここまで来ました。お疲れ様、ありがとう。
素晴らしいリーダーでした。
鈴鹿IH 02 鈴鹿IH 10 鈴鹿IH 34
みんな、お疲れ様。そして、ありがとうございました。
日本一にはあと一歩届かなかったけど、チーム力が日本一でなかったら絶対ここまで来ていない。選手、サポーター、ドクターストップがかかっているのに鈴鹿まで来て精一杯声を出して応援してくれた風花、保護者のみなさん、男子テニス部、新潟で応援してくださった多くの方々、そしてなにより津野先生、本当に本当にありがとうございました。本当にこのチームで良かった。北越に来て本当に良かった。今、改めて思います。
絶対に日本一を獲れるって信じてチーム作りをしてきた。この思いがみんなに届いたし、一人も諦めている者はいなかった。全員が信じていた。実績なんて関係ない、シードなんて関係ない、チームとしての団結力、強い想い、信じる力、それが団体戦に強い北越の強みだ。
この3年間、本当にいろんなことがあった。2年で部長を任されてからが特にそう。コミュニケーションが取れなくていったん部長を下ろされたけど、今思うとその方がよかった。ターニングポイントは紫雲寺での練習の時、「変わろうとしていない」って先生にコート出されて、「変わりたい。本当に変わりたい。」と心の底からにじみ出るように思った。先生は、本当に一人ひとりのことをよくわかっているから、小手先は通用しない。先生の期待に応えようとして動いていた自分を先生は「変わろうとしていない」と言う。そうじゃないんだ。失敗してわかったけど、「このチームの夢を強く思って、その夢を叶えるために自分が生きる。」そういう方向で自分のすべてを見つめなおした。だからトンチンカンだと言われようと、自分なりにチームの夢の達成のためだと思ったら行動するようにした。そうしていたら、先生は県総体の前にもう一度私を部長にしてくださった。選手としてはダメダメだった私についてきてくれて、県総体を戦ってくれて、私に優勝旗を渡してくれた仲間たち。そして一緒に全国で本気で日本一を獲りに戦った仲間たち。本当にありがとうございました。
「私は超える」このスローガンの下で1年間やってきたけど、今思うのは、このスローガンは誰かひとりだけが超えてもダメなんだということ。それぞれ一人ひとりが自分を超えていく、その結果として団体戦の勝利になるんだということだ。私は毎日、このノートの最後に「チームに花を咲かせる」と書いた。書きながら本当にそう強く思って1日を終え、次の日に備えた。
鈴鹿IH 26 鈴鹿IH 27 鈴鹿IH 30
個人戦の2日目、団体メンバーが練習しに行った後、私たちサポート組は個人戦の決勝を見た。文大の優勝が決まった瞬間の選手と応援団の喜ぶ姿を見て、あの喜びを団体戦で実現させたいと強く思った。本気でそう思えた。最後に火をつけてくれた。だから、今日1日、私はこのチームで絶対日本一を獲るんだって強く思って、本気の声をかけ続けた。そして一緒に戦い続けた。
よく「自分を信じて」と選手に声掛けをするけど、まず私が選手を信じてなければダメなのではないかと思った。特に「超えて」ほしかったのが愛だ。それはずっと愛を見てきたからそう思ったんだと思う。3番勝負を任される愛、今の愛なら絶対に超えられる、そう心から愛を信じて応援できた。本当にこれまでの毎日の一つひとつ、1日1日の本気の積み重ねなんだ。
本当に最高のチームでした。ありがとうございました。(8月2日 庭野真李)

鈴鹿IH 38 鈴鹿IH 37 鈴鹿IH 40

最後の最後に、この日にいたるまでの僕のソフトテニス指導歴(一部ソフトボール指導歴を含む)何十年間のうちの数年間、僕とともに本気で夢を目指した数多くの真っ直ぐで純粋な青春たちに、改めて感謝の気持ちを伝えさせてください。岩手県西根町立西根中学校、遠野市立土淵中学校(ソフトボール部)、栃尾高校、新潟東高校、巻高校、北越高校、それぞれ場所は違うけれど、高い山の頂上を目指しつづけてここまで来れました。みんなと過ごした日々のおかげです。ありがとう。
でもね、まだ団体頂点立ってないからね。だいぶ身体ガタがきてるけど、残された時間で頑張るからね。てっぺん立ったら、小千谷の片貝の花火大会で記念の花火を夜空に飛ばすのが夢なんだ。その時はみんな小千谷に来てね!

※今年のサプライズ旅行は、伊勢神宮→鳥羽水族館→鳥羽港→答志島への旅でした。
鈴鹿IH 21 鈴鹿IH 25 鈴鹿IH 22 鈴鹿IH 24 鈴鹿IH 23

2018年7月 4日 (水)

DREAM FACTORY 2018 初夏

水澤奈央 
シングルス日本一!

DREAM FACTORYチーム北越
ついに頂点に到達!

ハイジャパ01


札幌円山公園庭球場は、広い斜面に4面ずつ3段に作られています。米どころの人間としては「棚田のように」といえばイメージしやすいです。公開練習時に丘の上から見下ろすように全国津々浦々から集まった選手たちのフリー練習を見ていた際、ふと心をよぎった思いがありました。
「きっと水澤は優勝する。今回じゃないかもしれないけど、いつかこの子は日本一になる。」
去年、文大杉並の林田選手の練習を見た時、「この選手に敵う同世代の人間はいない。」そう確信させられました。上手いかどうかではなく、練習の時の集中力、発する「気」が別格でした。目の前の一球というより目の前の状況に対する姿勢が他の選手と全く違う。要は一人だけアスリートでした。
今年は、そういう「別格」な選手がいない中、水澤以上にストイックに日々練習を積み上げてきて、この「棚田」においてもその「日々」を表現できている「若穂」は私の見る限り見当たらないのです。上手い選手は毎年たくさんいます。ただ天賦をいただきながらそれを磨ききる覚悟のある選手は本当に少ない。逆に言うとその覚悟を私も含めた指導者が指導し切れていない。「天才は1%のひらめきと99%の努力による」という有名な言葉はもちろん誇張ですし、才能が過小評価されていると思いますが、努力に過剰な重さをかけているのは、「ひらめく才能」があるのに「その後の努力」(原文はperspiration=汗をかくこと)をしないで、「ひらめき」=「才能」を無駄にする場合がいかに多いか、その戒めとしてエジソンは自分にも人類全体にもこの言葉を伝えているのだと思います。
水澤は入学時に、すでにテンポコントロールの才能が並外れていました。「才能」でした。ただ、打球に圧を加える身体の使い方、総合的なフィジカル力、そしてアスリートとしての「哲学」が未開発でした。1年生ですから当たり前です。だから、そこを鍛えてあげてきた当時の3年生鈴木にどうしても敵わなかった。また、入学当時は声も出さない静かな選手で、僕に「サイレントビューティ」とあだ名されていたくらいです。それが3年生の田辺と組んで「北越らしさ」を教え込まれる中で、徐々に熱く自分を表現できる選手に変わっていきました。水澤は今でも田辺なつきを尊敬しており、その影を力にして自分を高めています。また、系統的で組織的なフィジカルトレーニングの成果もようやく実になってきました。打つボールに力が加わり、フットワークも格段に改善されてきました。
指導者として断言しますが、水澤は練習中、一瞬も手を抜きません。どの瞬間を切り取っても、いつも何かと戦っていますし、いつも「現在の自分」に挑んでいます。それが大事な場面での集中力や自信になるのだと思います。

水澤にはよく林田リコさん(現 東京女子体育大学)の話をします。
大会前日のノートに水澤はこう記します。

本気で日本一を取りたいなら「林田さんになる」こと。
本物のアスリートへ! 林田さんを超える!

ハイスクールジャパンカップ2018 シングルス in札幌
大会1日目

1回戦
 ④-0 木原(奈良県:高田商業)
2回戦
 ④-1 米田 (大阪府:河南)
3回戦
 ④-3 田村(宮城県:東北)
準々決勝
 ④-1 斎木(千葉県:昭和学院)

初日は安定して戦いました。サウスポーカットサーブの東北高校の選手に苦しめられましたが、要所で対応して難敵を退けました。
水澤には1年の冬からキャプテンを任せています。下級生キャプテン、それが本人にもチームにも良い結果をもたらすためには二つの要因があると考えます。まず本人がキャプテンになるという「重荷」を自分が強くなるための「挑戦」だとプラスにとらえられるかどうか。「重荷」を「足枷(あしかせ)」とマイナスにとらえてしまい、自分が調子が上がらない原因をこの「足枷」のせいだと考えてしまうと、リーダーはリーダーとして機能しませんし、チーム力も上がっていきません。何より、うまくいかない原因を自分の外に求めてしまう、その姿勢は自分を決して向上させません。二つ目の要因は、周囲の協力です。まずは上級生の理解と積極的なサポート。そして同学年の協力です。水澤自身はキャプテンを任せられたことによって、むしろテニスに対する姿勢が格段に自律的になりました。監督とのコミュニケーション、チームへの目配り気配りと言葉がけ、その一つひとつが彼女のプレー選択、大事なポイントでの集中力につながっていると思います。リーダーをやるということは、自分が発する言葉一つに責任が伴ってくるということで、チームにかける言葉は、そのまま「自分はそれを一番にやれているのか」と自問しなければなりません。それを苦痛ととるのか、積極的に自分を高める「研ぎ石」ととらえるのかで結果は真逆になります。水澤は後者です。そして、そんなキャプテンをチームはリスペクトし、特に3年生で部長の庭野、そして同学年で中学生以来のペアである冨樫が、水澤を強くサポートします。
前日に、冨樫から送られてきたメールを水澤に読んで聞かせたら、彼女は深く感じ入って、涙を浮かべていました。それほど、深く仲間の思いに感動できる選手になっていたんだと感心しました。
その冨樫のメールと水澤のノートを載せます。

こんばんは。今日は雨が降っていたので、自主練習も早めに切り上げて終わりました。
今日は、チームとして北海道の前山・水澤にエネルギーを送るんだ!というテーマで気を持って練習しました。
それを確認したことで、コート全体に「気」があふれていました!
24日の日曜日まで、私たちは代表として戦う二人のために、新部長になった私も他の2年生リーダーたちも他の部員たちも全員が気を引き締めて練習します。(中略)私もリーダーとしてまだまだ未熟ですが、とにかく学校から北海道にエネルギーを送りつづけます! (2年 冨樫春菜)



初日を終えてベスト4。でもまだまだ。結果よりも内容。私たちのために頑張っている新潟のみんなにエネルギーを与えられる内容だったか。まだまだみんなからのエネルギーの方が上だ。キャプテンとして「チームのために」って思いながら戦うことで力をもらえる。苦しいとき、逃げたくなるようなとき、今日も「チーム」が一緒に戦ってくれた。私に「気」をつくってくれた。本当にありがとうございます。
家族からも電話が来て、本当に温かかった。だからこそ、これで満足しない。私の夢は私一人の夢じゃない。みんなのために、明日も戦う! (水澤奈央)



シングルス2日目

準決勝
 ④-2 長谷川(岡山県:山陽女子)
決勝
 ④-3(F⑦‐5) 上野(大阪府:昇陽)


対戦した二人は高い技術とセンスを持った選手でした。
サービス力が高くない女子はレシーブキープが基本になります。水澤はこの日レシーブゲームは一度も失いませんでした。それが勝因であり、課題でもあると思います。
唯一、レシーブゲームを落としそうになったのは決勝のマッチポイントでした。お互いレシーブ力があり、レシーブゲームキープでG2-3。第6ゲーム、上野さんのファーストが入り、水澤のミスも出てP1-3のダブルマッチポイントになりました。しかし、追い込まれても水澤は攻めました。攻め切ってデュース。その後も攻めを休まずにブレイクを許しませんでした。
ファイナルも一進一退の好ゲーム。1本のミニブレイク(敵のレシーブポイントを獲得すること)が流れを左右します。最後は5-6水澤マッチポイントからレシーブエースでゲームセット。最後まで集中して自分のできる攻めを貫いた水澤に勝利の女神がほほ笑んだのだと思います。

ハイジャパ02 ハイジャパ03

シングルス優勝した。でも日本一になった感じがしない。
優勝はしたけれど、まだまだ課題だらけだ。
技術・タクティクスは去年よりもパワーアップできたと思う。それから、みんなの力。
去年の秋。全日本選手権、そして宮崎でのSTEP4。「私がレベルアップしないと、チームは勝てない」そう強く感じて、日々自分と向き合ってきた。
私はキャプテンを任せてもらって本当に良かった。チームを思って今日も力をもらえた。この日本一は私だけの日本一じゃない。
おばあちゃんとおじいちゃんに報告したらすごく喜んでくれた。日本一の金メダル獲ったら、一番にかけてあげるのはおばあちゃんとおじいちゃんって決めていたから本当に良かった。でも、もう一つ持って帰るからね。
明日も日本一の内容の試合を毎試合できるように、ベストで生ききる。
いろんな人からエネルギーをもらって、明日も北越らしく戦い抜く!



水澤奈央選手、おめでとう。
努力は嘘をつかない。君を見ていると本当にそう思います。
「苦境に動ぜず、チャンスに臆せず」
そういうアスリート気質を身につけてきたね。アスリートとして尊敬します。
それから、君はシングルスのすべての試合を団体戦として戦っていたね。
遠く離れたところで頑張っているチームメイトと常に深く交流しあって、仲間の思いを力に換えていた。
「あらゆることから力を集めて光を放て!」
チーム北越の部訓だ。君の大好きな言葉でもある。
人生、あらゆることに力は宿っている。それがたとえ失敗であろうと、時に絶望であろうと、そこは闇の世界ではなく、力が眠っている場所だ。掘り起こすのはアスリートである君。目を背けて逃れようとしていたら、そこにある力強いフォースに気づかない。夏の日差しからも、冬の北風からも、仲間の成長からも、世の中の小さな出来事からも、人は力を集められる。そして光に換えていける。
日本一になった。それは確かに光だ。今までの君が集めた力の集積だ。
でも、まだまだ完成形の戦いじゃない。そこからもまた力を集めなければ、もっと大きな光を経験することはできないよね。
金メダルをおじいちゃんとおばあちゃんの首にかけてあげて、縁側でちょっとお茶を飲んで、さあ、また出発しよう。
君はもっと大きな世界で夢を目指すべき人。
道はまだ続いている。
頑張りなさい。
僕ももっと力になれるよう勉強するから。

ハイスクールジャパンカップ2018 ダブルス 
前山・水澤 全国銅メダル!
決勝トーナメント
1回戦 前山・水澤 ④-1 堀口・大貫(栃木県 白鴎大足利)
2回戦       ④-0 秋山・西岡(香川県 尽誠学園)
準々決勝      ④-0 絵内・新開(徳島県 脇町)
準決勝       0-④ 木瀬・平岡(兵庫県 須磨学園)

ハイジャパ04

ダブルスは、前山・水澤の攻撃的平行陣で日本一に挑戦です。
予選リーグ、決勝トーナメント。いくつか修正しながら勝利を重ねていき、勝負となる準決勝。
完敗でした。ボールを前山に集められました。
前山選手は素晴らしい才能を持っています。身体の使い方、体幹でスイングを加速させてインパクトに力を集約させる技術、日本でもトップレベルの選手だと確信しています。ジャパン U-17にも選ばれ、秋のSTEP4の大会ではシングルスでもダブルスでも水澤よりもずっと好結果を残しました。ところが、自分に甘いところがある。我慢がきかない。そこを自覚させ、向き合わせようとしてきましたが、道半ばです。ただし、前山自身、以前よりもずっと自覚的になり、自分の中の「猛獣」(中島敦の『山月記』からの引用です)を「愛ちゃん」と名付けて、自己コントロールできるよう監督の僕と二人三脚で日々努力しています。その結果は、北信越大会での団体及び個人での我慢の優勝。そして、この大会での準決勝までの戦いで成果として着実に現れていると思います。
しかし、準決勝ではその先の進化が求められました。優勝した木瀬選手はミスがありません。前山にもナイスボールはありますが、必ずミスが入る。ミスが入るとミスをしたという事実に自分が耐えきれなくなって連続ミスにつながる。本当の自立力+自律力が求められるのは、自分の思い通りにならない状況下においてです。簡単には決めさせてくれない。打っても打ってもまた攻め返される。自分の考えを見透かされたかのようにポイントされる。そのような相手に主導権がある場面で、自分や指導者を信じて自分のできることに集中し、苦しい場面でも投げ出さず逃げ出さずに我慢して、その先に必ずやってくるチャンスでギアを入れる。その繰り返しに耐えうるメンタル的フィジカル的タフネスが必要です。それを表現しきれた水澤や木瀬・平岡選手はチャンピオンになり、耐えられなかった選手は負けた。
けれど、この成長期にある人間はどこで本気になるかわからない。その自分の中に眠っているギアの場所に気付き、手探りでレバーを握り、ぐっと自分の生きる日々をシフトチェンジできたら、絶対可能性はあります。
昨年、長らく新潟県の陸上競技の第1人者として活躍してきた久保倉選手の講演会で、久保倉選手は大学の恩師に「心を変えなさい」と何度言われたかわからないとおっしゃっていました。「心が変われば、細胞が変わる。細胞が変わるから身体も走りも変わる」その言葉を高校時代何の実績もなかった久保倉選手は信じます。「どんだけ走ったかわからない」と振り返っておられました。「ひたすら心が変わることを信じて、細胞が変わることを信じて走り続けた」「ひたすら走る、そして絶対に弱音を吐かない、どんなことがあっても逃げずに信じて走りつづける」その時、もう自然と身体は進化しているのだと言います。そういう日々の中で、アスリート魂が育ち、無名の高校生がオリンピック代表になっていったのです。
前山愛選手、99%の誰よりも汗をかく日々、その努力を惜しまず、残り少ない「光」への道を今回の負けからも「力」を得て進んでいってほしいと強く願います。

ハイジャパ05 ハイジャパ06

今回の大会から、シングルスのベンチは審判台の脇(硬式テニスと同じ)になりました。喜ばしいことです。ルール無視の「黒子のささやき」が難しい状況になりました。きっと、本部でお仕事をされていた大会役員の皆さんの中の誰かが、勇気ある発言をなされ、よりアスリートリスペクトの方向へ改善がなされたのだと思います。実際、水澤はゲームの中で、何度もタクティクスの修正を状況に応じて自ら実行しています。シングルスで求められる力とは、技術やフットワークのほかに、指示されたことを実行するのではなく、現在の状況を自ら把握し、対応を意志決定し、実際に試み、主導権を取り戻していく「主体的な問題解決力」が重要だと考えます。その一連の対処ができるかどうかは、日頃から問題解決的に生きているか、日々の練習においても理想と現実の両方を見据え、課題を持って取り組んでいるか、そこが問われるのだと思います。その意味で、今回の改善はシングルスアスリートへのリスペクトだと思うのです。ありがとうございました。
「優勝記念」に、是非今後考えていただきたいことを述べさせてください。それは推薦選手の選考についてです。北海道以外の都府県は、優勝者のみに与えられる出場権をかけて熾烈な予選の末、この大会に参加します。しかし、毎年それ以外の選手が多く推薦されて出場しています。シングルスは日連推薦として枠があるようですが、ダブルスの推薦基準は全く不明朗です。毎年のように推薦される県もあれば、我が新潟県のように長らく恩恵にあずかれない県もある。主催メーカーの製品を日常的に使用していれば推薦される可能性があるとか、噂は聞こえてきますが、本当のところはわかりません。
推薦枠があることは良いことだと思います。特に、全国区の学校がある都府県では、インターハイの個人枠すべてがその1校の選手たちによって何年も占められているという嘆かわしい場合さえある。そのような都府県の選手たちに全国の光を差し伸べてあげられる大会だと思います。
例えば、推薦枠の内、1~2枠を韓国や中華台北の選手に。数枠を日連からの推薦枠に。数枠を教育的な配慮からの推薦枠に。残りの枠を都府県、もしくはブロックの輪番で。というような明瞭な推薦基準を検討して示すべきではないでしょうか。「勇気ある関係者」の「勇気ある発言」を願っております。

<番外編>
今回のサプライズは、「畑ガイドさんと行く農場ピクニック」です。
農業県とはいえ、新潟の子供たちも「食の生産現場」のことをほとんど知りません。
昨年の北海道豪雨により、しばらくジャガイモと玉ねぎの高騰が続いたことは記憶に新しい。
せっかく「日本の畑」北海道に行くのですから、食育を体験しながら学べる場所はないかとネットサーフィンを繰り返していたところ、ありました!
観光農場ではありません。本物の農場で専門の畑ガイドさんから、作物や農場の工夫等、生産現場のあれこれを学びながら、旬の農作物を見て、匂いをかぎ、手に取って、まさに「命」をいただいているのだと深く理解する、そんなツアーがあるのです。
十勝の「いただきますカンパニー」という会社です。会社と言っても、理想を持って社会起業した井田さんを中心にしたスタッフカンパニーです。
代表の井田さんの言葉をホームページから引用します。

2歳の娘が野菜を食べずに困っていた時ふとしたことから知り合いの畑に行きました。
その畑で、自分で抜いた、まだ土がついたままのカブに、彼女はガブリとかじりついたのです。
その時私は「畑のチカラ」を実感しました。現場を体感する経験が、人を変えると。

現代は都市に人が集中し、農山漁村は人口減少の一途です。
その結果、畑と食卓も遠く離れてしまいました。

誰かが手をかけたものによって生かされている、その想像力を持つには、原体験が必要です。
生産現場に想いをはせる、きっかけが必要です。
私たちは、農業と観光の連携を促進することにより、都市と農村の交流、食育の推進、農村の雇用創出を進め、安心できる「子どもたちの生きる未来」を準備します。
その鍵になるのは「いただきます」という世界に誇る日本人の心の復権であると信じています。


ハイジャパ07 ハイジャパ09 ハイジャパ08

ハイジャパが終わって帰る日、先生が十勝の坂東農場さんを回るツアーに連れて行ってくださった。
北海道のどこまでも広がる大地と畑の緑、そして澄み切った風は、すごいという一言では表せるものではなかった。
ここから日本の食(野菜)を支えてもらっていること、何気なく作物が育っているように見える農場には農家の方々の様々な工夫と努力があるのだと教えてもらった。
いろいろ説明してくださった畑ガイドのスタッフさんの中に、関東の高校の先生を辞めてここで働いている人がいらっしゃった。自分が思い描く生き方と現実のギャップ。そして自分の理想を生きようとすることの決断と幸せ。いろいろ考えさせられた。
北海道で感じた人との関わり合いのありがたさと大切さ。そういう一つひとつに感謝して、人間的にもアスリート的にも真のチャンピオンになれるように!
日々感謝!(水澤奈央)



北信越総体
 団体・個人 2年連続制覇! 

前山・水澤 優勝!
2年 田中・冨樫ペアも激戦を抜けて銅メダル!


団体戦
1回戦  ③-0 松本県ヶ丘(長野)
2回戦  ②-0 髙岡商業(富山)
準決勝 ②-1 金沢学院(石川)
決勝  ②-0 北陸(福井)

北信越総体01
北信越総体02 北信越総体09 北信越総体11
北信越総体03 北信越総体06 北信越総体07
北信越総体12 北信越総体04 北信越総体08


個人戦
優勝 前山愛・水澤奈央
3位  田中遥奈・冨樫春菜
北信越総体10

アクセスランキング

Powered by Six Apart